コーポレートエンジニアが現場に飛び込んで、入社者体験を改善した話
鈴木淳朗
この記事は
リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023 12日目の記事です。
はじめに
こんにちは!ICT統括室 コーポレートITユニットの鈴木です。
僕は人事コーポレートITグループというグループに所属しており、普段は人事担当者の業務をICTの観点で支援したり、全社ICT施策の人事領域での推進を行ったりしています。
この記事では、入社者の端末セットアップにまつわる「不」を解消した話と、その中で得た気付きを紹介させていただきます。
この記事で伝えたいこと
- 現場に飛び込むと、データだけでは見えないことが見えてくる
- データと現場感、両方抱えて改善を繰り返していくのはとっても面白い
なぜ入社者の端末セットアップの「不」の解消に取り組んだのか
入社者には、各自が業務で使うPC/スマホが貸与されます。各自でのセットアップが不要な状態で端末を渡せたり、マニュアルなしでセットアップできる手順にするのが理想ですが、まだ道半ば。現状は入社者自身でマニュアルを見ながらセットアップしてもらう手順が一定あります。
ですが、マニュアル通りに進まなかったり不明点があったりして社内のサポート窓口に問い合わせてもらうケースが、最も多い時では入社者の2割強(!)で発生してしまっている状況でした。
※ リモートワーク中心の時期だったこともあり、周りの同僚に聞いて解決という方法がとりづらかったことも要因だったと思います。
新しい環境で業務を始めようとする人たちの2割が、端末のセットアップで問い合わせをしなきゃいけない状況、とてつもなくもったいないですよね。
なんとかしたいと思っていたところ、ちょうど人事から入社者体験(入社〜1ヶ月間程度の体験)の向上に関する相談を受けたこともあり、踏み込んだ改善に挑むことにしました。
なにから始めたか
ありがたいことに、サポート窓口には入社者からの問い合わせのデータがあり、それらを活用した改善はこれまでも進めてくれていました。しかし、問い合わせのやり取りでは問題解決や代替策の提示を優先するため、データだけを見ていても以下の点で難しさがありました。
- テキストや口頭での咄嗟のやり取りの控えなので、何が起きたか詳細には分からない
- 何が起きたかは分かっても、なぜそうなったかは分からない
解像度を上げるには一次情報に触れるのがいいのでは?と考え情報を集めたところ、入社者からの問い合わせ(端末セットアップなどICT関連のものも含む)は、入社者支援の一環で人事でも受け付けていることが分かりました。そこで、入社者からのICT関連の問い合わせは僕らで受け付けるようにし、問い合わせ内容の詳細やその発生背景の理解を深めることにしました。
(もちろん入社者の負担にならないように問題解決自体も行いながら)
すると、マニュアルのどの部分をどう読み進めてつまずいてしまったのか、どこで疑問が生まれてしまったのか、その輪郭が少しずつ鮮明になっていきました。
見えてきた問題点と打ち手
少しずつ深まった理解を元に、「マニュアルを読みながら各自でセットアップする」現状の問題点として着目した点が以下の5つです。
- マニュアルからリンクされている資料が多岐に渡り、どれを読めばいいか分かりづらい
- リンク先には入社者には関係の無い情報(既存社員向けの手順など)も含まれるが、それを入社者が見極める必要がある
- 文字量が多い。内容を読み込んで理解することに苦労する
- リモートワーク中心のため、周りの同僚に聞いて疑問を解消することが難しい
- サポート窓口へのお問い合わせでは、一定の待ち時間が発生する。問題を瞬間的に解決できない
そしてそれぞれの解消を図るため、方向性の異なる次の3つの打ち手を試してみることにしました。
- マニュアルの統合と補足追記
- マニュアルの動画化
- オンラインセットアップ会の開催
試してみてどうだったか
幸いにして、毎月の入社日に打ち手を試すことができたので、検証ポイントを変えたり中身をブラッシュアップしたりしながら、数ヶ月にわたって3つの打ち手をそれぞれ検証していきました。
マニュアルの統合と補足追記
当時のマニュアルは、大元にあたるものがありつつ、1つ1つの手順は詳細を記載した別のマニュアルにリンクさせた構成になっていました。またリンク先のマニュアルは、保守性や既存社員を含めた利用者の検索性といった観点から、ある手順の複数のパターンを1つのマニュアルに記載し、マニュアル上で条件分岐する形をとっていました。
(リンク先の構成イメージ)
- 多要素認証の設定についてのマニュアル
- 既存社員向け
- xxxという条件に当てはまるパターンの操作
- それ以外のパターンの操作
- 新入社員向け
- xxxという条件に当てはまるパターンの操作
- それ以外のパターンの操作
- 既存社員向け
そこで、まずはマニュアルの内容のうち入社者に関係する部分のみを抜粋しつつ、切り貼りする形で1つのマニュアルとして統合したものを、既存マニュアルとは別で用意しました*。また入社者が馴染みのなさそうな作業には、図表などによる補足も追記しました。
*:いきなり全社向けのマニュアルを差し替えるのは失敗時のダメージが大きく、頻繁に変更するのも混乱を招くため、別物を小さく試す形でリスクヘッジしました。
これは効果が大きく、統合版のマニュアルを使ってもらっただけで半分近くまで問い合わせを減らすことができました。
当たり前の話ですが、読み手に最適なマニュアルが(特に入社したての人にとっては)重要だったんだと実感しています。
マニュアルの動画化
そもそもPDFマニュアルをブラウザで読み進める体験がベターなんだっけ?というところから、動画版のマニュアルも用意してみました。マニュアルの手順を切り出して1つ数分の動画にし、PDFと動画の好きな方を選んでセットアップしてもらう形をとりました。
こちらは統合版マニュアルとは対照的に、あまりハマりませんでした。
まず動画を選んだ人は全体の4%前後。セットアップ直後のアンケートでヒアリングした「動画を見なかった理由」として、8割以上の人が「動画よりテキストの方が進めやすいから」という回答でした。サポート窓口への要望として動画マニュアルを望む声もありましたし、日常生活で様々な動画を視聴する昨今、動画を選ぶ人も一定数いるのでは?という見立てが大きくハズレました。
積極的には選ばれず、「動画だからこそ解決できる」といった課題も見つけられず、一方でPDFでも問い合わせは減らせていたことから、動画マニュアルは一旦見送る判断をしました。
オンラインセットアップ会の開催
ちょっとした疑問を周囲の同僚に聞きながらセットアップする感覚に近い場を作れないか?そういった場を持続可能な負荷で運営するにはどんな設計がいいのだろう?といった点を探るため、入社者が任意で参加できるオンラインセットアップ会を入社日に開催しました。
質問は随時チャットで受け付ける点は共通ながらも、司会がマニュアルに沿って説明する「ハンズオン形式」と各自がそれぞれでセットアップする「自習室形式(?)」の2つの形式を試しました。
会の中でQ&Aをする分、当然サポート窓口への問い合わせは減りました。
が、これだけではサポートの担当者を変えただけなので、実質的な改善にはなっていません。
ただし会を重ねる中で、つまずきポイントの解像度を更に上げることができたのは大きな収穫でした。手順自体の改善に向けた気付きを持ち帰り、各手順を整えている担当者に現場感を持ってフィードバックすることができました。
さらに統合版マニュアルを使用しつつさらに磨いていくことで、そもそも同僚の補足を必要とするような点をかなり減らすことができ、もし問い合わせしてもらうことになっても多少の待ち時間に収まる見通しを立てることができました。
また2つの形式の比較として興味深かったのが、自習室形式の方がつまずきが少ない傾向が見られた点でした。動画マニュアルの不人気にも通じる気がしますが、セットアップのような作業は個々のペースで進められる方が受け入れられやすいということかもしれません。
結果とまとめ
別の部署が並行して進めてくれていた手順自体の改善や、引き継いだ統合版マニュアルの大幅なデザイン更新も功を奏し、入社者からの問い合わせの数を最多時の1/4以下、入社者数の5%程度にまで減らして入社者体験を改善することができました。
また最後に残った問い合わせ頻出箇所も手順の改善が進行中で、実現すれば2、3%まで減らせそうな目処が立っています。
今回の取り組みは、個人的に以下の2点を強く実感する機会でした。
- 現場に飛び込むと、データだけでは見えないことが見えてくる
- データと現場感、両方抱えて改善を繰り返していくのはとっても面白い
データも大事だし、現場に飛び込むのも大事。
相補的なものなので、今後もデータと現場感の両方を活用しながら、様々な取り組みを進めていきたいと思います!
最後になりますが、リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023では、リクルートの社内ICTに関する記事を投稿していく予定です。
もし興味があれば、ぜひ他の記事もあわせてご参照ください。