SDGs観点から見る 色素増感太陽電池の可能性
菅原健翁
こんにちは、リクルートATL(アドバンスドテクノロジーラボ)でIoT関連の研究を行っている菅原です。
IoTへの電力供給として、持続可能なエネルギー源という観点からもっとも利用される太陽光発電はさまざまな改良がされており、より有望なエネルギー源として進化しています。そこで、最近発表された「色素増感太陽電池」が、どのような進化をしたのかを紹介していきたいと思います。
前提として、既存の太陽光発電は発電可能な照度があり、それ以外では発電ができなくなったり故障してしまう可能性があります。
そのような理由で、屋外用の発電量の大きな太陽電池であっても下記のような課題が認められました。
・季節や設置場所、時間帯によって発電量が低下する
・曇天や雨天など悪天候によって発電量が低下する
・屋内に設置した場合、必要な発電量が得られない
また、屋内用の太陽電池は屋外利用での稼働は保証されていません。
本稿では、これらの課題を解決し安定的に必要電力を得る発電方法として開発された、色素増感太陽電池の検証・考察を行います。
検証の進め方
(1)屋外の照度の差による発電量の増減を検証します。
・屋内屋外用色素増感太陽電池と屋外用アモルファス太陽電池で比較する。
・太陽光の仰角に合わせ、入射角を調整することで照度を変えて発電量の増減を測定する。
図1: 屋外での発電量測定
(2)屋内の照度の差による発電量の増減の検証を行います。
・屋内屋外用色素増感太陽電池、屋内用アモルファス太陽電池で比較する。
・遮光された屋内でLED照明に太陽電池を設置し測定する。
LED照明の色温度は、昼白色、昼光色と電球色を使用する。
・入射角を調整することで照度を変えて発電量の増減を測定する。
図2: 屋内での発電量測定
検証概要
・検証に用いる太陽電池
検証に用いる太陽電池のスペックを以下に示します。
・検証に用いる測定機器
検証に用いる測定機器のスペックを以下に示します。
電圧、電流測定用デジタルマルチメータ
・KAIWEETS社製 HT113B(電圧:0.5% / 電流:1.2%)
・測定の有効数字は3桁
照度測定用デジタル照度計
・HOLDPEAK社製 881E(≦20,000Lx:±4% / >20,000Lx:±5%)
・測定の有効数字は3桁
検証結果
(1)屋外用太陽電池の検証結果
屋外用太陽電池の単位面積[1㎠]あたりの発電量を比較します。
(2)屋内用太陽電池の検証結果
(a)昼光色下での屋内用太陽電池の単位面積[1㎠]あたりの発電量を比較します。
(b)昼白色下での屋内用太陽電池の単位面積[1㎠]あたりの発電量を比較します。
(c)電球色下での屋内用太陽電池の単位面積[1㎠]あたりの発電量を比較します。
評価
屋外用太陽電池の検証評価
・屋内屋外用色素増感太陽電池は、照度にかかわらず安定した一定の電力量を発電しています。
・屋外用アモルファス太陽電池照度は、照度により発電量が大きく変動し最大発電量は最小発電時の2.6倍となっています。
屋内用太陽電池の検証評価
・屋内屋外用色素増感太陽電池は、発電用光色による発電量の差はほとんど無く安定した一定の電力量を発電しています。
・屋内用アモルファス太陽電池は、昼光色での発電量が大きく電球色の1.2倍となっています。
・両太陽電池共に、照度により発電量が大きく変動し最大発電量は最小発電時の3〜4倍となっています。
考察
既存の太陽電池の課題でも示した通り、屋外用アモルファス太陽電池は屋外屋内に設置する事ができますが、屋内では十分な発電量を得ることができません。また、屋外でも曇り等の低照度の場合には、十分な発電量を得ることができませんでした。
また、屋内用アモルファス太陽電池は高照度の場所(屋外など)に設置すると製品の寿命が著しく短くなってしまいます。
このように既存の太陽電池には、SDGs観点で持続可能性的課題があることを再確認できました。
今回は上記の持続可能性的課題を解決できる屋外屋内用色素増感太陽電池を検証したところ、
・屋内では既存の太陽電池と遜色なく発電が可能
・屋外では曇り等の照度が低い環境でも安定した発電が可能
といったことが確認できました。
これにより、
・屋外屋内両方で(利用場所に制限がない)安定発電が可能
・天候に影響されない屋外安定発電が可能
という特徴を備え、既存の太陽電池から進化したと判断できました。この進化はまだ十分ではありませんが、既存の太陽電池発電が天候から非常に影響を受けるという致命的な欠点を解決するSDGs観点では、重要な進化になると思います。
今後は、上記の特徴が色素増感太陽電池のSDGs観点での活用につながるよう、多角的な視点で検証をしていきたいと思います。