音声アシスタントに取り組んできた立場から見た日本・英語圏の差

アドバンスドテクノロジーラボの布村です。

日本にスマートスピーカー 、音声アシスタントがやってきて2年以上が経ちました。
リクルートでも、それらのサービス開始当初から3rd PartyアプリケーションであるAlexa Skill、Actions on Googleのコンテンツをリリースしています。
一例をあげると、『ホットペッパーグルメ』では音声操作で飲食店の検索や予約ができ、ディスプレイ付きのAmazon Echo DotやEcho Showでは、お店の写真も確認も可能です。

このページを読んでいる方の中には、発売当初に購入を申し込んでいろんな機能を試した方も多いはず。そして時は経ち2020年。音声アシスタントはどうなったでしょうか。スマートスピーカー 、使ってますか?なんとなく、当初の盛り上がりは沈静化し、動きとしては落ち着いた印象になっているかと思います。

 

■英語圏の状況

しかし、英語圏、特にアメリカとイギリスでは情勢は大きく異なっています。

イギリスでは未だに(日本から見れば)ホリデーシーズンに店頭在庫がなくなったり、アメリカではブロードバンド世帯へのスマートスピーカー普及率が33%に達したりと、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへとマーケットが移っているといえる状況です。製品ラインナップとしても、ウェアラブル(On-the-Go)を意識してイヤーバド、リング、ウォッチなどが発表されており次のステージへ移っているといえます。

また、スマートスピーカーだけでなく、その普及自体が家庭内のスマートデバイス全体の普及を牽引したとみることもできます。voicebot.aiによれば、アメリカのスマートスピーカー 所有者の56%が他の何らかのスマートデバイスを家庭内で所有しています。Alexa対応製品も、9,500ブランドから 100,000種類が発表されています。

https://voicebot.ai/2019/12/18/amazon-announces-100k-smart-home-products-support-alexa/

 

なぜ、ここまで日本と差が開いたのでしょうか。

amazonの発表によると、全体的にスマートスピーカーで使われている用途は、音楽を聴く、天気やちょっとした情報を得るといったライトなものが多く、音声ショッピングや予約、申し込みといったアクションのためのユーザーインタフェースには至っていません。つまり、使い方自体が特殊であるわけではなく、日本の状況とあまり差はないように考えられます。

そうなると、考えられる理由としては、
 ・必要な層に届いていない:理解およびトライアル機会が少ないというマーケティング面の課題
 ・環境が異なる
の2方向がメインでしょうか。

環境について掘り下げると…
・主要用途である音楽配信サービスの普及率の差
・音声入力習慣の有無
・デバイス環境の差
が考えられます。

デバイス環境でいえば、日本は世界全体と比較してiOSの利用率が特に大きく、Siriを使ってそこで満足している(スマホでOKだよねと考える)ことも理由になってくると思われます。

 

■英語圏との差は縮まるのか?

では、日本が今後英語圏の利用状況を追従する可能性はあるのでしょうか?

音楽配信は日本ではまだこれからの市場なので、スマートスピーカー がともに普及する要素にはなるでしょう。
しかし、今の状況から爆発的にキャズムを超えられるか…というと難しいかもしれません。最終的に音声アシスタントがスマホの一部機能を置き換えることにはなると思いますが、スマホのようにデベロッパーのアプリ市場が大きく拡大するには利用ケースが限られており、参入が難しいという状況は変わっていません。アプリデベロッパーがそのまま作れるように、各ツールも用意されているのですが…。おそらく、現状のままではガラパゴス化は進んでいく可能性が高いでしょう。

そんな、ひとことで言えば苦戦している状況だからこそ、攻め時ともいえると思うのです。これから日本市場でのスタンダードとなることは、不可能ではありません。

少し非科学的な話となりますが、古来より日本には、物事に神が宿るというアニミズムの思想が根付いています。いわゆる八百万(やおよろず)の神です。自然の中や身の回りには神や精霊がいると考え、それを畏れ祀ることで、人々は自然とうまく付き合ってきました。その考えが今でも日本人らしさの根底にあると仮定すれば、機械やコンピュータにも神性を見出し、隣人として自然に会話することをごく自然に捉えることができるのではないでしょうか。そう考えると、決して相性は悪くありません。

先日開業したJR山手線の高輪ゲートウェイ駅には、AI駅員と呼ばれている、音声での受け応えもできるAI接客サイネージが設置されました。これはティファナ・ドットコムが提供するAI接客システム『AIさくらさん」で既に導入実績のあるものですが、こうして人の目に触れ体感されやすい場所にあることが、新しいケースの芽になるかもしれません。

こうしたケースを参考にし、スマホの機能やサービスをそのまま持ってくるのではなく、、「音声操作の方が楽」「音声で操作したくなる」といった気持ちを喚起する、いわば面からの設計が必要でしょう。リクルートもデベロッパー、またサービスプロバイダーとして、そのような未来を作っていけたらと思っています。