異なる強みのKaggle Masterたちが、「異能の掛け合わせ」で世界一を獲るまで~RecSys Challenge 2025 優勝チーム「rec2」座談会~

目次

2025年9月、チェコ・プラハで開催されたレコメンドシステムの国際カンファレンス「 RecSys 2025 」。その公式コンペティション「 RecSys Challenge 2025 」において、リクルートおよびインディードリクルートテクノロジーズからの有志チーム「rec2」が、世界中から参加した416チームの頂点に立ち、優勝を果たしました。

今回の快挙を成し遂げたのは、住まい領域・人材領域という異なる事業領域、そしてマネージャーとメンバーという異なる役職からなる6名のチーム。しかも、その多くが「Kaggle Master」の称号を持つという、異能の精鋭たちです。

技術的な解法の詳細については、すでに テックブログ にて公開されていますが、本記事ではその裏側にあるストーリーにフォーカス。なぜ、彼らは集まったのか。バックグラウンドの異なる「個」は、いかにして一つにまとまり、世界一の解法を導き出したのか。今回はチームを牽引した3名のキーパーソンに、リクルートのデータ推進室にある「挑戦と協働のカルチャー」について語ってもらいました。


〈プロフィール〉

阿内 宏武
株式会社インディードリクルートテクノロジーズ HRプロダクト データ エージェントサービス・ダイレクトスカウトデータサイエンスグループ グループマネージャー
2016年リクルートホールディングスに新卒入社。Kaggle Master。マネージャーとして組織を牽引しながら、自身もプレイヤーとして手を動かし続けるプレイングマネージャー。過去にも社内外のコンペで多数の実績を持つ。

武井 柊悟
株式会社リクルート データ推進室 住まい領域データサイエンスグループ
2025年新卒入社。Kaggle Master。学生時代からAIベンチャーでのインターンを経験し、機械学習の研究からアプリ開発(フロント・バックエンド)まで手掛けるマルチプレイヤー的な側面を持つ。

澤田 佑樹
株式会社インディードリクルートテクノロジーズ HRプロダクト データ エージェントサービス・ダイレクトスカウトデータサイエンスグループ
2025年中途入社。Kaggle Master。前職はエンターテインメント系企業で、データサイエンティストとして従事。画像処理や推薦システムなど、特定の技術領域を深く突き詰めるスペシャリスト的な側面を持つ。

始まりは、Slackでの「面白そう」というつぶやきから

― RecSys Challenge 2025 優勝、改めておめでとうございます! 全員Kaggle Masterという錚々たるメンバーですが、そもそもこのチーム「rec2」は、会社主導で結成されたのですか?

阿内: いえ、完全に有志ですね。業務命令とかでは全くないです。

澤田: きっかけは、私が社内のSlackにある自分のTimes(個人用の分報チャンネル)で、「RecSysのコンペ、面白そうだからやりませんか?」って軽く投げかけたことなんです。

阿内: 澤田さんのTimesって、データ推進室のメンバー全員が見ているわけじゃなくて、基本的には澤田さんと関わりのある人が見ているような場所なんですよね。そこでスタンプがついたり、反応があったりして集まったのが初期メンバーです。

武井: 僕はそのTimesには入ってなかったんですけど、人づてに「澤田さんが募集してるらしいよ」って聞いて、「混ぜてください!」って自分から検索して入っていきました。

― 武井さんは2025年入社で、当時はまだ本配属直後ですよね? しかも普段は住まい領域担当で、澤田さんたち人材領域とは部署も違います。飛び込むのにハードルはなかったですか?

武井: もともと一人で参加していたんですけど、やっぱりハードなコンペになることは分かっていたので、どうせなら強い人と一緒にやりたいなと。 リクルートにはKaggle Masterがたくさんいるのは知っていましたし、部署が違うとかはあまり気にせず、面白そうだから声をかけました。

阿内: Kaggleなどのコンペって、最初はバラバラに個人で参加していて、途中から「一緒にやろうぜ」ってチームをマージ(統合)することもよくあるんですよ。今回は澤田さんを中心としたコミュニティに、武井くんみたいな若手実力者が合流して、最終的に6人になった形ですね。

― チーム名の「rec2」にはどんな意味が?

澤田: あ、それは単純に「Recruit」として「RecSys」に参加するから、「Rec」が2つで「rec2」です(笑)。

阿内: Kaggleだと個人アカウントと紐づくので「リクルートの人だ」ってすぐ分かるんですけど、今回のコンペはチーム名しか出ない仕様だったんです。そこで、あえて「Recruit」と書かずに「rec2」にしておきました。

― そこは世界一を獲った後に明かそうということだったのですね(笑)。それにしても、業務の傍らでこれだけのメンバーが集まるのはすごいですね。皆さんの動機は何だったのでしょう?

武井: 僕はシンプルに「勝ちたかった」のと、今回のコンペのタスクが自分の実務にも直結しそうで勉強になるなと思ったからです。

澤田: 私は……正直に言うと「プラハに行きたかったから」です(笑)。

阿内:「コンペで勝てば堂々と海外に行けるぞ!」というのは大きなモチベーションでしたね。

澤田: もちろん、コンペは昔からやっていて純粋にデータサイエンスが好きで、課題設定が面白そうだったから、というのもありますよ!

阿内: あと僕は「現場を離れて、口だけ出すようなマネージャーにはなりたくない」という思いが強かったですね。マネージャーになっても、ちゃんと手を動かして、外の世界でも通用する実績を持ち続けたい。 シンプルに、勝つことが楽しくなってしまっているというのもありますが。

「深化」と「越境」。異なる個性の答え合わせ

― 今回のインタビューのテーマでもある「個の強み」について伺わせてください。事前に経歴を拝見すると、澤田さんは「技術を突き詰めるスペシャリスト」、武井さんは「幅広くこなすマルチプレイヤー」という印象を受けました。ご自身ではどのようにお考えですか?

武井: そうですね、興味の幅は広いと思います。僕はもともとAIベンチャーで機械学習のインターンを経験していました。大学では数理最適化や機械学習の研究をしており、趣味でアプリのフロントエンドからバックエンドまで一通り触ったりしていました。今もプライベートで、友人とお寺向けのSaaSを作ったりしています。

― お寺のSaaSですか!? それはまたユニークですね。

武井: 友人がお寺の息子で、運営の課題をITで解決したいという話があって。僕は「興味の幅が広い」タイプなんだと思います。データ分析の結果などのコアな価値を、ちゃんとユーザーに届けるところまで一気通貫でやりたい。だから、アルゴリズムだけじゃなく、アプリケーション開発もやるし、ビジネスモデルも考える。そういう意味では、全部やりたい派ですね。

― なるほど、まさに「越境型」ですね。対して澤田さんはいかがでしょう?

澤田: 私は武井さんとは対照的で、軸足となるスキルの8〜9割をデータサイエンスが占めています。もちろん、分析に必要なエンジニアリングやビジネス知識は学びますが、それはあくまで「データサイエンスを突き詰めるため」の周辺知識という位置づけです。 前職での経験も含め、今では推薦システムの技術領域を深く掘り下げていくことに面白さを感じています。

― そして阿内さんは、プレイングマネージャーとしてチームを率いる立場です。

阿内: 「率いる」と言っても、今回のチームでは本当にマネジメントらしいことはほとんどしていないんです。 というのも、もし実績のない初心者がメンバーにいたら、そのケアやタスク管理に時間を割く必要があったと思うんですが、今回は全員がKaggle Masterクラスの実力者だったので。 みんな勝手がわかっているので、細かい指示を出さなくても阿吽の呼吸で進められました。おかげで僕自身もプレイヤーとして集中できて、とても進めやすかったです。

世界一の解法を生んだ「協働の化学反応」

― 「深める澤田さん」と「広げる武井さん」。タイプが違うメンバーが集まって、議論や作業はスムーズに進んだのでしょうか? 意見が割れて揉めたりは?

阿内: 揉めることは全くなかったですね。

澤田: 基本的な大方針として、「みんな思い思いに最強のことをやってくれ」というスタンスだったんです。最終的に、お互いが作ったモデルの精度(スコア)を見せ合えば、どちらが優れているかは数字で明らかになりますから。「俺の案を使え」みたいな感情的な対立が入る余地がないんです。

テックブログ でも解説されていた今回の勝因である「3つの手法のアンサンブル(統合)」ですが、具体的にどのように生まれたのですか?

澤田: それぞれが「これが一番強いはずだ」と思うアプローチを並行して試していきました。最終的に、A案、B案、C案と良いものが残った時に、「じゃあこれ全部混ぜてみようか」と。さらに「AとBを混ぜた場合」と「AとBとCを混ぜた場合」でどっちが良いか、それも実験してスコアを見れば一目瞭然です。6人もメンバーがいたからこそ、多種多様なアプローチを同時並行で試すことができました。これがもし少人数だったら、時間の制約でどれか一つに絞らなければならず、最適解に辿り着けなかったかもしれません。

阿内: そうですね。誰かが「これをいつまでにやって」と指示するんじゃなく、それぞれが自律的に動いて、毎週のミーティングで「こんなことやったらスコア上がったよ」「じゃあそれ取り入れよう」って共有し合う。次々に試しては結果を持ち寄る、というサイクルがものすごく早かったですね。レベルの高いやりとりでした。

― 議論のレベル感についてはいかがでしたか?

武井: 毎週、澤田さんが更新するスコアを見て「うわ、すごい伸びてる、追いつけるかな」って必死でした(笑)。 あと、メンバーの一人である長谷川さん(澤田さんの大学院時代の後輩でもある)が、データ推進室の中で毎週論文を読んで発表する会をやっているんですけど、そこで紹介した最新の論文の手法をすぐに実装してきて、「試したら精度出ました」って報告してくるんです。

阿内: あれは凄かったね。我々だけじゃ思いつかないような最新の知見を、すぐに実装まで落とし込んでくる。

澤田: 長谷川さんの実力は知っていましたが、やはり凄かったです。そうやってお互いに刺激を与え合いながら、毎週「来週はこれ試してみよう」「あの論文の手法はどう?」って議論できるのは、本当に楽しかったですね。 業務以外の時間を使ってでも「勝ちたい」という共通の目的で熱くなれる。最高のチームワークだったと思います。

― 「深める」タイプの澤田さんの知見と、「広げる」タイプの武井さんや他のメンバーの実装力が、アンサンブルという形で結実したわけですね。

阿内: まさにそうです。最終的に3つのソリューションを組み合わせたので、採用されなかったアプローチも当然あります。でも、みんな自分のモデルが採用されたいから必死で精度を上げるし、採用されなくても「チームの勝利」のために貢献できたという納得感がある。全員が「勝つためには何が最適か」を理解しているメンバーだった。これが最大の勝因かもしれません。

「大変」よりも「楽しい」が勝る。私たちが熱中した理由

― 業務外での活動となると、タイムマネジメントも大変だったと思います。正直なところ、寝られてましたか?(笑)

阿内: ……家庭との戦いですね(笑)。Kaggleやコンペをやりすぎると、どうしても家族からの視線が厳しくなるので。今回は「勝てば賞金が出る」というのを免罪符にしていました。

武井: 僕は新卒の研修期間が重なっていた時期もあったので、比較的時間は作りやすかったです。でも配属後は業務も忙しくなったので、夜な夜なコードを書いていましたね。

澤田: 私は朝が弱いので、夜遅くまで作業して、寝る前に計算処理(実験)を回し始めて、朝起きたら結果が出ている……というサイクルを作っていました。正直、睡眠不足な時期もありましたけど、それでも「楽しい」が勝っていましたね。

― そこまでして挑める環境として、リクルートのデータ推進室はどう映っていますか?

澤田: 環境面で言うと、計算資源(クラウド等の利用予算)のサポートがあるのは大きいです。 AIのコンペは、高性能なGPUを使わないと勝負にならないことが多いんですが、個人で支払うには高額すぎます。 会社が「自己研鑽・技術向上」として月額一定額まで補助してくれる制度 があるのは、ありがたいですね。

武井: あと、シンプルに周りのレベルが高いので、日常会話から学びが多いです。「最近この技術が熱いらしいよ」みたいな雑談がそのまま勉強になる。 技術好きにはたまらない環境だと思います。

読者の皆さんへのメッセージ

― 最後に、この記事を読んでいる読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

阿内: Kaggleなどのコンペに強いというのは、やっぱり大きな武器になります。実際にそういうコンペのように「モデルの精度を上げれば売上に直結する」というタスクが発生したりしますし。ただ、それだけじゃなくて「ビジネスに興味がある」こともとても大事ですね。普段の実務は、コンペみたいに綺麗なデータが配られるわけじゃなくて、自分でデータを取りに行くところから始まりますから。 「ビジネスへの関心」と「コンペで戦える技術力」、その両方を持っている人と一緒に働けたら嬉しいですね。

澤田: 私は「技術を深めたい」と思って転職してきたんですが、それは単に研究したいわけじゃなくて、「事業貢献するために深めたい」という意味なんです。巨大な事業があるので、そこを突き詰めたい人にはベストな環境です。 リクルートの事業に興味を持って、そこで「AIを活用して成果を出したい」と思ってくれる方なら、きっと楽しめると思います。

武井: 大前提として、業務がめちゃくちゃ楽しいです(笑)。 Kaggleみたいなタスクもありますが、そもそも「どうやってデータを取得するか」「ビジネス的に効果があるか」から考えられるので、機械学習プロジェクトを一気通貫でやれる楽しさがあります。 AIモデルを作るだけじゃなく、UI/UXやビジネスモデルまで染み出して価値を出したい人には、特にうってつけの環境だと思います。

― 阿内さん、澤田さん、武井さん、ありがとうございました!

【編集後記】

取材中、終始笑顔で「楽しかった」と振り返る3人の姿が印象的でした。「世界一」という称号も、彼らにとっては「面白いからやった」「仲間と高め合えた」というプロセスの結果に過ぎないのかもしれません。

突出した「個」の力が、互いにリスペクトし合いながら混ざり合う。リクルート データ推進室には、そんな刺激的な「大人の部活動」のようなカルチャーが根付いています。

技術を深めたいスペシャリストも、領域を広げたいマルチプレイヤーも。 あなたのその強みを、最強のチームで試してみませんか?

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