言葉のデザイン 〜ライティングガイドをチームに浸透させるAIチャットbot活用〜

  

みなさんこんにちは!
リクルートで自動車領域を担当しているデザインディレクターの渡辺です。
この記事では自分が過去に旅行領域を担当していたとき、言葉のルールであるライティングガイドを整備し、チームにそのルールを浸透させるための工夫について書いていきたいと思います。

この記事の内容

・ライティングガイドラインの必要性とメリット
・ライティングガイドラインをチームに浸透させるためのAI活用方法


この取り組みを行った対象プロダクト

当時私は『レベニューアシスタント』というSaaSと、それに連なる宿泊施設の旅行業務支援サービスを担当していました。ホテルや旅館などの宿泊施設を運営される方々がユーザーのサービスです。


レベニューアシスタント


ライティングガイドとは? 作成するメリットと必要性

本記事内のライティングガイドラインとは、文章を書く際のルールやスタイル、トーンを統一するための指針やルールが書かれたドキュメントを指します。
UIのラベル文言やサービス紹介文章、マーケティングに使われる文章に至るまで、サービスが発信する文章はユーザーとのコミュニケーションの大切な要素なので、グラフィックなどのデザインと同様に言葉のデザインとしてライティングガイドはサービスにおいて重要な役割を持ちます。

例えば、以下のように同じ意味の文章でもルールやトーンによって印象がまるで変わってくることがわかります。

同じ目的で書かれた文章でも、ルールやトーンによって印象が異なる事例


サービスを使っていて、途中まで丁寧な言葉を使っていたのに、突然フランクな言葉で書かれていたらビックリしますよね。
ライティングガイドを整備することで、どんな人が書いてもサービス全体の文章の一貫性を保ち、ユーザーにとって読みやすく、理解しやすい表現を実現することができるようになります。


ライティングガイドは作っても浸透しづらい


先述の必要性にかられて、私たちはライティングガイドを作成し、チーム内に浸透させようとしました。ところが、作成途中にとある問題に気づきました。

それは、ライティングガイドはその特性上、ガイドを読み込むこと自体が大変だということ。つまり、「こんなに長かったら誰も読まないのでは?」という問題です。

例えばライティングガイドの内容として、基本的な要素を列挙するだけでも以下のような要素が挙げられます。


ライティングガイドラインを構成する要素の一部(目的、適用範囲など)

そうなると、簡単に20ページ、30ページ以上のボリュームになってしまいます。
作っている当人でさえ「量が多いな、、、」と思っているのに、他人が作ったガイドを読むチームメンバーからすると大変な苦労になるわけで、これを組織に浸透させることはとても難しいのは当然と言えます。
かといって、短くするわけにもいかず、かつ誰もがこのガイドラインを意識して文章を書けるようにならないと意味がないので何かしらの工夫が必要になるわけです。


文章校正AIチャットボットを作成してかんたんに文章を作成できるように


そこで私たちは、AIのチャットボット(ChatGPTのGPTs)を活用してガイドライン自体を読み込まずともガイドラインに沿った文章を作ることができる仕組みを考えました。
具体的には、GPTsに知識としてライティングガイドを読み込ませ、それを通じてチームメンバーは文章校正ができるようにするという流れになります。
読み込ませるガイドラインは一般的なガイドラインと変わらず、自然言語で書かれたドキュメントを使いました。

AIチャット ボットでガイドラインを適用するプロセス


こうすることで、チームメンバーの誰もがガイドラインを読み込まずともガイドラインに沿った文章を書くことができるようになるとともに、文章に関するレビューの負荷を下げることができるようになりました。


使い方イメージ

これが文章校正AIチャットボットのファーストビューです。
名前は『旅行SaaSの編集担当A(β)』としました。βとしたのはチームにこの取り組みがちゃんと浸透するか当初分からなかったので実験の意味をこめて命名しました。


文章構成AIチャットボットのファーストビュー

使い方は非常にシンプルです。
1.チャットボットは最初に文章がどこで使われるのかをメンバーに聞くので、それをGPTsに答える。
2.校正したい文章を入力するとガイドラインに沿って校正した文章を返してくれる

という仕組みです。
返された文章がもとの文章と違った場合、ガイドラインのどの部分に抵触して校正したのかの理由も添えて教えてくれます。

チャットボットの操作している様子


文章校正AIチャットボットにガイドラインを読み込ませるための工夫


この仕組みを作るために、AIチャットボットがガイドラインを適切に読み込むため、使う場所によってベースとなるルールを継承するようなライティングガイドを作成しました。これによってチャットボットは目的に応じた文章校正ができるようになります。

オブジェクト指向ライティングガイドライン


このライティングガイドは大きく3段階の階層に分かれています。

第1階層:共通ライティングガイド


ライティングガイドの基本的な考え方やサービスのミッションなどが書かれ、全てのガイドラインの基礎となるガイドラインです。
<書かれている内容>
・サービスのビジョン/ミッション
・重要視する考え方
・文法のベースルール
など

第2階層:用語辞典


第1階層を踏まえた上で、サービスの用語や表現を辞書形式でまとめたものです。
単語や言い回しなど、細かい単位で使って良い言葉と使ってはいけない言葉をまとめています。

第3階層:用途別ガイドライン


文章が使われる用途ごとに細かいルールが書かれています。

<書かれている内容>
・文章のトーン
・記号や年月日など表記の細かいルール
・漢字や細かい文法のルール
など

運用した効果とわかったこと


この仕組みを運用してみたところ、ライティングガイドラインを想像以上にスムーズにチームに浸透させることができました。
ただ、運用してみてわかったこともいくつかあります。

最後はやっぱり人間の目で確認した方が良い
チャットによる文章校正はかなり精度が高いものの、最終的には人間の目で確認した方が細かなニュアンスが通じる文章になります。
体感でいうとほぼ9割がた完成度までチャットが上げてくれ、最後の微調整を人間が調整する、といった感覚です。
そのため、最終的には事業責任者やリーダーの目を通しておくことでリスクの回避を担保しておくとより安全でしょう。
また、時々チャットボットが時々辞書に登録した単語を忘れてしまうこともあるため、よりチャットボットが読み込みやすいような入力方法を模索する必要があると感じています

コストはかかる
今回私たちはChatGPTを使いましたが、GPTsを利用するにはある程度コストが必要になります。そのため、チーム全体での利用以外にもAIの活用を日常業務でできるような推進を行わないとコストパフォーマンスが担保できないかもしれません。
個人的には十分な投資対効果があるとは感じています。


最後に


ここまで読んでくださりありがとうございました。サービスデザインに関わる方々が、ライティングガイドを設計・運用する上での何かしらの参考になれば幸いです。


記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。