Googleのre:Workを使ってSREグループのビジョンを決めました
木村 勇太
こんにちは、『スタディサプリENGLISH』 SREグループの木村です。
最近はコロナ禍で身体がなまりすぎて、ジムに通い始めたのですが体が硬くて筋トレをするための柔軟性がないのを日々嘆いています。
今回はSREグループの中でビジョン・ミッションを決めた話を書きたいと思います。
『スタディサプリENGLISH』 SREグループ
現在 『スタディサプリENGLISH』のSREグループには6名が在籍しています。
元々はプロダクト専任の組織ではなく、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ1)現在は株式会社リクルートに統合済みのプロダクト内製開発組織全体のエンジニアの生産性や価値向上のための支援を行う組織として、開発支援グループという名前で2016 年 4 月に誕生しました。 2) https://www.wantedly.com/companies/recruit-mp/post_articles/50328 開発組織グループの成り立ちなどをより詳しく知りたい方はこちらの記事も是非ご参照ください。
開発支援グループでは、内製開発組織が担当している複数の IT プロダクトや社内ツールのインフラを構築したり、運用支援のツールの開発をしたり、運用自体を担ったりしていました。
しかし、サービスの規模が大きくなるにつれて対応量や負荷の増大に限界を感じたため、開発支援グループのメンバーから『スタディサプリENGLISH』のSREグループが発足しました。
ビジョンを決めたいと思った理由
『スタディサプリ ENGLISH』 SRE グループには、発足の時点から 「エンジニアの価値を上げる」 という目標がありました。 また、自主的に改善を行なっていくという文化があり、改善が日々行われている実感もありました。
一方で、チームとしての方向性にばらつきを感じるような場面も出てきていました。 チームが少人数だった頃には方向性や価値観を暗黙的にすり合わせることができていましたが、組織やプロダクトの拡大に伴い、方向性のズレを感じることも出てくるようになりました。そのため 各自が主体的・自発的に動きつつチームとして大きな価値を発揮するためには、チームの目指す世界観や方向性を明文化する必要性があると感じました。
決まったビジョン・ミッションは下記の二つです。
ビジョン
品質も効率もあきらめない!イケてる環境を作る
近年だとt-wadaさんの質とスピードの話が有名ですが、3)https://speakerdeck.com/twada/quality-and-speed-2022-spring-edition私も品質と効率はトレードオフの存在ではないと思っています。
特にSREとしてはクラウドやインフラの側面から、サービス開発・運用の品質と効率の両立を実現していくことが重要だと考えています。
例えば、インフラにおけるアップデートや管理。特に 現代のクラウドの進化は非常に早く、アップデートも頻繁に行われています。 これらのアップデートや管理を怠っていると 「新しい機能が使えない」、「サービスのリリースのスピードが遅れる」、「セキュリティインシデントに繋がる」 など、変化に弱くなり結果的に品質も効率も悪くなります。
また、新しい仕組みの導入によって品質や効率を改善することもできます。 例えばコンテナ化や Kubernetes などのコンテナオーケストレーションの導入で、「自動化による効率向上を進めやすくすると同時に、サービス全体のスケーラビリティや回復性などの品質特性を高める」 といったことができるでしょう。
SREチームが品質も効率も諦めずにプラットフォームを磨き込み、攻めの守りを実践していくことでより早く良いものをリリースしていける環境を作っていきたいと考えています。
イケてるという言葉の響きは少しポップな気がしますが、品質と効率を両立して追求するためには働いている自分達自身も楽しんでいける環境が必要です。
SREは多くのツールや技術を使用し、専門知識を持った人材を必要としています。またクラウドの進化に合わせて、SREは新たな能力を習得し、変化に対応しなければなりません。必要なタイミングで必要なものを適切に、そして技術的にも環境的にも自分達が楽しみ学びながら成長して仕事に取り組めるような環境にしていきたいという気持ちを込めました。
ミッション
自分たちの持つ専門性を活かし、開発者が開発に集中して最大限の力を発揮できる状態を目指す
『スタディサプリENGLISH』というプロダクトは元々内製開発チームで開発されたものです。また元となった開発支援グループの設立のきっかけも開発のための開発を行い開発者の価値を高めるものでした。
ここで言う専門性はチーム自体の専門性でもありますが、各人の専門性とも考えています。リクルートのバリューの一つとして、個の尊重があります。
メンバーによっては、ビルドの改善が得意だったり、クラウドが得意だったり、様々なものがあります。SREも開発者も自分達の価値を最大限発揮していける状態を目指していきたい。インフラ側だけの都合を押し付けるだけではなく、開発者が開発に集中できる環境を作っていきたいと考えています。
ミッションを決めた方法
Google re:Work
Googleが行ったデータ分析に基づいて考えられた人事施策について公開されているページです。4) https://rework.withgoogle.com/
「イノベーション」、「チーム」、「ピープルアナリティクス」、「マネージャー」、「偏見の排除」、「学習と能力開発」、「採用」、「目標の設定」の8つのテーマとそのテーマに対するGoogleの手法、研究、ツールを紹介している「ガイド」で構成されています。
今回のビジョン設定にはGoogle re:Workの「マネージャー」のテーマの中の「チームのビジョンを設定してメンバーに伝える」のガイド5)https://rework.withgoogle.com/jp/guides/managers-set-and-communicate-a-team-visionを利用しました。
re:Workのページには共有ビジョン設定のスライドと6)https://docs.google.com/presentation/d/1HevYsHbquqQH1CVnssjNLoU8NNNgxKR0Fl7cw6HL_8Yファシリテーターガイド7)https://docs.google.com/document/d/10ACUbZYy00HbA9wdfLFkX2-m_03Rz0Yrq-3yRGVGyOYが用意されています。
スライドには実際にチームで進めて行くセッションの内容が、ファシリテーターガイドにはセッションのための事前課題とセッションの具体的な進め方が記載されています。
セッションは課題を通して、「何故ビジョンが必要なのか」 「どうやって設定していくか」をステップバイステップで考えていく内容になっていて、2日間・8時間で行われます。またチームのニーズによって内容をカスタマイズして使えるようにもなっています。
セッションではコアバリュー、パーパス、ミッション、ストラテジー、ゴールの意味を順々に解説した上で、それらをチームで決めていくエクササイズを行なっていく形になっており、実際にチームで話し合い考えていくことに適した内容になっています。
コアバリューは、チームの基盤となる信念を意味し、チームのパーパスとミッションとを導き出します。
パーパスは、チームの存在理由とチームが組織全体に与える影響です。もし、自分たちのチームが存在しなかったら、どのような影響があるか考えてみましょう。
ミッションは、達成しようとしている目標を表します。
ストラテジーは、ミッション達成のために将来にわたって展開する手段を意味し、長期にわたる場合があります。
ゴールは、ストラテジーを短期的で達成可能な目標へと落とし込んだものです。チームの取り組みを一つにまとめる働きがあります。
私達の場合は元々のスライドを自分達に合う形に少し編集して、各エクササイズの内容はScrapboxでメモをしながら、通話はGoogle Meetを使い1回2時間3回、計6時間で行いました。
これからとおわりに
ビジョンを決めるまでの段取りを考えるのは大変でしたが、コロナ禍で全員がほぼリモートワークをする中、実際に話し合う機会というのがあまりなかったので、メンバーの各々のやっていきたいことやイメージ、自分達の大切にしているもの優先したいと思っていることが整理することが出来て、非常にやった価値があった取り組みでした。
現在のSREには多くの課題があります。例えば、クラウドの普及によって、アプリケーションやサービスが複雑化し、監視や障害対応の難易度が高まっています。また、マイクロサービスの利用が広がり、ネットワークやアプリケーションのトラフィックの増加が予想されます。これらの課題に対処するためには、SREチームが持つ技術や知識を常に更新し、継続的な改善を行うことが求められます。
現在色々なWebサービスが増えていく中、SREのようなポジション・役割は急激に需要が増えていっていると感じています。
しかし、SREという概念・情報は非常に多岐にわたっていて、情報も多く何をすればよくわからなくなった結果、何でも屋やただのインフラ担当者の別名になってしまっていることも多いと思います。
今回のビジョンを決めたことはSREとしてチームとしてのどのような方向の目線合わせの第一歩だと考えています。
ビジョンを決めただけで終わらず、今回決めたビジョンやミッションを日々の意思決定の指針として活用し、『スタディサプリ ENGLISH』 をより良い信頼性の高いサービスにしていくために頑張っていきます。
脚注