こんにちは、リクルートATL(アドバンスドテクノロジーラボ)でIoT関連の研究を行っている菅原です。
SDGsが掲げるエネルギー問題への対応として、私たちは継続的に環境発電の検証を行ってきました。これまでの検証から、晴天時においては太陽電池による発電が有用であることが明らかになっています。一方で、雨天時には十分な発電ができないという課題が残されています。
今回の検証では、テレビ放送などの公共電波に加え、地域や店舗で設置されているWi-Fiのような電波にも着目します。これらの電波をアンテナで受信し、情報と同様にエネルギーとして扱い、電力に変換して回収します。
つまり、環境発電の一手法として、電波から電力を取り出す「レクテナ(rectenna)」技術の有効性を検証するという取り組みです。
※1:レクテナ(rectenna)とは、「rectifying antenna(整流アンテナ)」の略称です。整流器(rectifier)とアンテナ(antenna)を組み合わせ、空間を伝わる電磁波を直流電流へと変換するデバイスを指します。
検証概要
検証の目的
ラジオ放送や地上デジタル放送、Wi-Fiなど日常生活に飛び交っている電波を受信し、電力として回収できるかを調べます。電波の種類・周波数と発電効率の関係を明らかにし、IoT機器への応用可能性を評価します。
電波から電力を回収する周波数帯
本検証では、ラジオ、地デジ、Wi-Fiなどを対象に、どの周波数帯が効率よく電力に変換できるかを調査します。

検証回路
アンテナで受信した電波を整流し、ADコンバーター経由でPCに電圧を記録します。

測定結果
以下の条件で電波からの電力回収性能を測定しました:
- 測定時間:5秒間
- 収集値:平均電圧・最大最小電圧差
- 測定回数:10回
- 目的:安定性・再現性の評価


評価
周波数帯ごとの平均電圧を比較し、回収効率と安定性に違いがあるかを評価しました。

表3: 電波から回収した電気の比較
(1)周波数帯と電力回収の関係
周波数帯と電力回収には明確な相関は見られず、帯域の高低では回収効率は決まりませんでした。
(2)送信出力と回収電力の関係
理論的には出力の強い方が有利ですが、実測では明確な関係は見られませんでした。周囲環境の影響が大きいと推測されます。
(3)回収電圧の特徴
FMラジオ帯では高い電圧が得られるが変動が大きく、Wi-Fi 2.4GHz帯では安定した電圧が得られました。
考察
本検証でレクテナによる電力回収が可能であることを確認しました。回収効率は周囲環境やアンテナ設計に大きく依存します。
Wi-Fi 2.4GHz帯は安定性が高く、有力な電源候補といえますが、出力電圧は0.5V前後と少なく、IoT機器単体駆動には昇圧・集電が必要です。
今後は高効率な周波数選定、アンテナ最適化、蓄電・昇圧設計の工夫が求められます。レクテナ発電は、持続可能でIoTに適した革新的な電源技術と位置づけられます。