リクルートの生成AIツールへの向き合い方・考え方
はじめに
はじめまして。ICT統括室の後藤です。以下2つの組織長をしています。
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現場のDX・業務改善および全社的なICT施策を推進するコーポレートIT部
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現場ニーズに沿ったICTサービスの最適化を行うサービス企画部
今回はリクルートにおける生成AIツールの導入・利用状況についてお話しさせていただきます。
リクルートって生成AIツール、ChatGPTは使えるの?
皆様の会社では、ChatGPTや生成AIは利用できますか?
セキュリティリスクなどを考慮して、ChatGPT・生成AIツールの業務利用が禁止されているところもあるのかな、と想像しています。
リクルートはどうなのか?というところですが、ChatGPT・生成AIツールは利用可能です。
どんな生成AIツールが使えるの?
今時点で従業員が利用できる生成AIサービスは以下になります。
- Graffer AI Studio
- Microsoft Copilot
- ChatGPT Enterprise
- Microsoft 365 Copilot
- Google Gemini
リクルートでは昨年7月にAI活用指針も開示しており、生成AIをはじめとするテクノロジーの活用は慎重に行っています。ここで記載したサービスは、ICT統括室が運用管理しており、セキュリティやデータガバナンスなどをしっかり担保することで、個別導入・個別利用されるリスクを最小化しています。
ちなみに、ある特定領域に特化して最適化されたツールなど、上記であげたツールでは現場ニーズが満たせないようなケースもあります。
そういったものは、標準プロセスと呼ばれる、全社で定められたレビューを通すことで導入・利用することもできます。
さらに、「生成AIサービスのAPIを利用した開発をしたい」といった場合も、全社で管理しているAWS・Azureといったクラウド基盤を利用することで実現できる状態になっています。
例えば、以下のようなサービスが利用できます。
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Azure OpenAI Service
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AWS Bedrock
これらの基盤の上で、生成AIを活用したどのようなアプリケーションを実装するかによってリスクも大きく変わるため、開発前に全社ルールに基づいたレビューを行い、法的観点・セキュリティ観点など様々な観点でチェックするプロセスを設けています。
上記以外のクラウド基盤、例えばGoogleのVertex AIなどについては、"利用禁止"ではなく、レビューを通じて個別に利用可否が判断されます。
(開発生産性を上げるためのコーディング支援サービスとしてのGithub Copilotについても、これまでも一部部署では先行導入されていましたが、今後は全社展開を予定しています。)
なお、これらのレビュープロセスは、ICT統括室も関わりながら、法務・セキュリティなどの部門と連携して整理し、立ち上げたものになります。
どういう考え方で生成AIツール・ChatGPTを利用可能にしているの?
大事にしているのは、攻めと守りのバランスです。
攻めと守りのバランスというと、今は攻めが最重要だから守りは多少リスクを冒すぜ!みたいなことも想像されるかもしれませんが、そのようなことはしていません。
どちらかというと、「まずは守りをしっかり固めて、その上で積極的に攻める」という感じです。
守りにおいては、絶対に外せないところを徹底的に議論・検討して対策を固めています。
代表的なポイントは以下で、レビューでもこれらの項目は確実にチェックするようにしています。
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生成AI側で学習利用されないこと
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データの保管国
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データの取り扱い
また、上記に加えて、用途毎にも利用可否・ルールを定めています。 慎重に判断すべきユースケースであれば、レビューもより様々な観点でしっかり確認されるようなプロセスを整備しています。
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生成AIの活用にはハルシネーションリスクがあるため、利用用途に応じて、生成AIで作成したものをそのまま利用することはせず、必ず人がチェック・介在すること。
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画像生成については、著作権の問題がないサービスを利用することは勿論のこと、社内利用においては生成AIで作成したことを必ず明記する、社外利用についてはそもそも利用の是非から検討するようになっている
などです。
攻めの観点でいうと、「今後生成AI利用は当たり前になっていく中で、会社として早く・広く経験値を積み上げることが大事」だと考えています。
ICT統括室としても、従業員の生産性を大きく改善する可能性を秘めたものだと思っています。
その可能性を探るためにも、現場で課題感を持っている人たちが、自らの業務に使ってみることで、どのようなツールがどの範囲でどれくらい効果が出るかを、広く試してもらうことが重要だと思っています。その中で、勝ちパターン・アンチパターンを見出し、アンチパターンは防ぎ、勝ちパターンで成果を広げていきたい...と思っています。
ChatGPT・生成AIツールの利用にリスクがあるからといって禁止していると、このような挑戦が出来ず、結果的に進歩が遅れてしまうことにもなりかねません。
また、このように現場の生産性に直結する話なので、会社として禁止して使えない状態にしたら、むしろシャドーITのような形で現場で利用されてしまうことも想像されます。 そうなると、むしろ守りたいところが担保できていない状態になるリスクが大きく高まります。
結果的に、”生成AIサービスを使える状態として提供すること”こそが守りにも繋がっている、とも言えます。
このような観点から、ICT統括室としては、”従業員が安心して生成AIツールを使える状況”=”ちゃんと攻めていけるように守りを固めた状態”を提供すべき、と考えています。
なんでこんなに色々なツールを提供しているの?
「それにしても、会社で使えるツールの種類が色々ありすぎない?」と思いませんか?
私はそう思っています 😀
理由としては、「今は黎明期で、色々な技術・要素が日々進化しているため」という感じでしょうか。
利用可能なモデルも製品によってタイムラグがありますし、テンプレート的な機能・簡易アプリを作れるか、といったところでも、各製品での差異があります。
前述のように、利用できる幅・勝ちパターンを見定めていくためにも、現時点では、様々な選択肢を用意しておき、課題に対して適切なものを一定選んで試せるようにすることを大事に考えています。
そうすることで、この課題解決にはこの要素が必要・重要、といったことが明確にできます。こうやって明確にした知見があれば、その要素から最適なツールの選択やツールの標準化を進めることができるとも思っています。
とはいえ、現時点でも、従業員が好きなツールを好きなように勝手に使っていいよ!ということにはしていません。
用途・目的に応じたツールのガイドラインを用意して、「この用途であれば、このツールを使ってみてね。この範囲で試してみるなら最初はこのツールから。機能不足を感じた上位ツールを申請してね」みたいな形で確認をしています。
今後の取り組みは?
今、課題と思っていることが大きく2つあり、それらに取り組んでいます。
①変化への対応
前述のように、生成AIは本当に日々技術が進歩しますし、機能もどんどん変わっていきます。
その影響で、リスクについても確認すべき点が広がったり、見直す必要が発生したりします。
これまでも、以下のようなケースについてリスクの見直しから、ルールの再整備を都度行ってきました。
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画像生成機能の追加
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Microsoft 365 Copilot、Google Geminiの追加、OS標準機能への追加
画像生成機能が追加された際には、著作権の問題なども含めて様々な観点を検討する必要があり、ここは法務関連組織が本当に迅速に検討し、ルール整備をしてくれました。
Microsoft365 Copilot、Google GeminiやOSの件においては、チャット形式の生成AIツールであればInputデータがチャット入力だけだったものが、Microsoft 365 Copilotや、OS標準機能の展開によって、クラウドストレージにおいているファイルが全てInputデータに変わりました。
意図的な入力から、意図しないものも含まれる入力へと変化した、という形です。
これらについても、法務・人事などを中心にリスクケースの検討を進めてもらい、ルールを修正・整備してきています。
生成AI周りの進歩はまだまだ続くと思いますので、今後も、この辺りへの迅速、かつ慎重な対応が必要だと思っています。
②コストと活用状態の最適化
生成AIサービスやオプションは、便利な一方、利用料もかなりかかってきます。
今の我々のように、複数のサービスを提供していると、かなりの投資になっています。
とはいえ、前述のような勝ちパターンを見つけることを大事にしていることからも、無闇に利用を抑制するのではなく、投資対効果を意識しながら、適正な活用をしてもらえる方向を目指しています。
そのため、モニタリングなどで利用状況を見てクリーニングを行うことでライセンスの適正化を行ったり、問い合わせや申請内容からユーザの理解度を探りながら効果的な啓発を行うといったことを検討しています。
用途に応じたガイドラインも、投資対効果を踏まえて進化させ、適切な現場利用を促進できるように取り組んでいきたいと思っています。
最後に
ICT統括室は、リクルートの業務が”安全に&快適に&生産性高く”なるように、日々取り組んでいます。
世の中の変化に応じて色々検討・対応することが大変なこともありますし、本当の全体最適とは?で悩むこともありますが、守りと攻めを意識した企画検討を今後もやっていきます。 💪
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