【密着取材】第12弾 プロダクト企画から営業の現場まで、幅広く染み出したUXデザイナーの想いとは
宮﨑萌子
早くも12回目となる、この「密着取材」シリーズ。今回は、サービスデザイン4部の 中山に密着です。
2016年、新卒でリクルートに入社した中山。1年目は、『スタディサプリ進路』(当時は『リクナビ進学』)、2年目からは『カーセンサー』のUXデザインを担当しています。そして現在はUXデザインを軸に、新商品開発や新規事業のプロダクト開発も担っています。
将来は自分で事業を作りたいと思っている彼にとって、リクルートのUXデザイナーはいわば「最高の環境」。プロダクトを成長させるため、UXデザインを軸にさまざまな領域まで染み出した背景とは、どのようなものだったのでしょうか。
中古車業界の「未来の当たり前」を作りたい
――「UXデザインを軸にさまざまな領域に染み出せる」とのことですが、実際にそう感じたエピソードを教えてください。
私は現在、中古⾞を買いたい⼈(カスタマー)と中古⾞を販売したい店舗(クライアント)のマッチングサービス、『カーセンサー』のUXデザインを担当しています。その中で、カスタマーが中古車画像を360度見ることができる商品を導入するプロジェクトがあったのですが、そこではUXデザイナーというスキルを活かしながら、プロダクト検討の上流から実際の営業推進まで幅広く関わっていきました。
時には私自身も営業同行をさせていただき、お客様の店舗での終日の業務の流れや、細かい入稿作業のプロセスを勉強しました。そして、営業担当が商品をどのように提案し、お客様は何に対して価値を感じられているのかを確認したりしていました。
――UXだけでなく、作るところから売るところまで!なぜそこまで関わるようになったのか、その背景も教えてください。
本来のUXデザイナーという役割からすればもちろん業務の範囲外なので、ここまでしなくてよかったんですよね。おそらく、『カーセンサー』というプロダクトをどうしたいか、自分の中に強いWILLがあったからだと思います。
まず、他の中古車検索サイトと『カーセンサー』を比較した際に、プロダクトに大きな差分がないことに課題意識を持っていました。営業同行を重ねても、『カーセンサー』を使う明確な理由が見えてこなかったんですね。良くも悪くも営業の力で成り立っていたというか。そこで、「プロダクトを使う理由」を作りたい、加えて「他サービスにはないもの」で仕立てたい、と思うようになりました。
次に、安心安全に中古車を買える世界を作りたいと思ったんですよね。カスタマー目線から見ると、中古車を購入すると決めた時、少し不安要素もあると思うんです。昔の例を出すと、おとり広告があったり、丁寧な整備がされているか分からなかったり。本当は車に傷があるのに、傷が見えないような写真を掲載したり。
そういうことがあると、カスタマーは「中古車」という選択肢を選ばなくなっていき、『カーセンサー』はもちろん、中古車マーケットも伸びなくなってしまう可能性があります。だから、誰でも安心安全に中古車を買える世界を作ることで、カスタマーもクライアントも事業も、三方良しにつながると思うんです。そういう背景もあって、360度画像があれば、カスタマーが見たいように見られるうえに競合優位性も作り出せると考えて、このプロジェクトをやり抜くことを決めました。
実は、これを導入するか否かという話は前からあったんです。しかし当初考えていた方法では、画像の入稿ハードルが高く、使ってくれるのは大手数社だろうという見立てでした。でもそれでは、中古車業界の「未来の当たり前」は作れない。それでは意味がないんです。
自分が抱いたプロダクトに対する課題感と目指したい業界の世界観、そして「未来の当たり前」を作りたいという自分の強いWILLによって、このプロジェクトはスタートしました。
――そんな熱い思いの中、まずはフィジビリティスタディとして動き出したそうですが、結果はどうでしたか?
カスタマーニーズがあることは明確に分かったものの、営業担当やクライアントからの評判は最悪でした。「画像入稿の業務負荷が⾼すぎて、売れる気がしない」「商品が複雑すぎて、どうやって売ったらいいか分からない」など。当時のプロダクトマネージャーからも「この商品は売れないね」と言われてしまい・・・。
でもその時に、「本当にそうなのか︖むしろ競合優位に繋がるのでは︖今こそデザイン組織の⼒を活かせるチャンスでは︖」と思ったんですよね。
振り返ってみると、営業担当もプロダクトマネージャーも、360度画像が当たり前になる世の中をイメージすることができなかったんです。でも当時、海外では既に導入している事例もあり、自分の中では当たり前になる感覚があって。ここからは、自分が描く未来像を理解してもらうための伴走が始まりました。
「UXデザイナー」を軸にさまざまな領域に染み出せる環境
――逆風をチャンスにされたのですね。そこからどういう動きを?
まずは、自分が企画した商品の課題を洗い出しました。結果、課題は2点。ひとつは、クライアントの撮影・⼊稿業務の負荷が増加すること。もうひとつは、商品構造が複雑になってしまい、営業担当の理解が至りにくくなることです。
課題が明確になってからはもう、UXデザイナーという枠を超えて、いろんなことをやりましたね。具体的には、販売店業務フローの理解、360度画像技術の実現方法の検討、⼊稿ツールのデザインの磨き込みなど。とにかく、販売店が使いやすくなるにはどうしたらよいかをとことん突き詰めました。
一方、営業担当に対しては、商品勉強会の設計や、全国を行脚して営業活動の伴走まで行いました。担当者がすぐお客様に提案できるよう、商品のプロトタイプや営業資料を作り、勉強会まで行ったりしていました。
実は当初、プロダクトマネージャーに課題と打ち手を相談したら、「ここまでひとりでやるの大変だよ?」って言われたんです(笑) これをやっても売上が伸びない可能性もある、ただ少しでも伸びるのであればやり切りたい、やるしかない、という思いで動き始めました。
――設計から!そういうことは営業企画や営業推進の担当者がするものかと思っていました。なぜそこまでやろうと思ったのですか?
まず前提として、過去の商品は、お客様の中古車情報ページへの「流入数を増加させること」に価値を置くものが多かったんです。それに対して今回の商品は、流入数はそのままに情報を閲覧している人の意欲を高め、問い合わせや来店率を増やすといった「購入意欲を高める」価値を持ったものだったので、営業推進担当も売り方が分からなかった。
加えて、過去の失敗も関係していたように思います。以前ネット組織で新商品を作った際に、営業担当やクライアントが気にする工程がほとんど仕様に織り込まれてなかったため、リリース後に炎上してしまった事例があって。そこから、「ネット組織が作ると現場視点がない」「使い物にならない商品だから売りたくない」といった悪い評判が生まれてしまったんです。
そのようなこともあって、営業担当はネット組織に対してあまり期待をしていませんでした。商品企画担当も、引け目を感じて強く言うこともできない。そんな状況を変えたいと思いました。
今回実施するにあたって、ここでまた同じ失敗をしたら、もう企画としての信頼はなくなり、二度と作ることはできない。でも今後リクルートのビジネスを伸ばしていくためには、商品企画側が商品設計力を伸ばしていかないといけないという思いもあったので、絶対成功させたかったんです。
そのためこの商品に関しては、最初から営業とクライアントを巻き込み、自分も一緒に現場に足を運び、どう作ったらいいか、どう売ったらいいかを考えましたね。その結果、「そこまでしてくれた人はいなかった」と言ってもらえたのは嬉しかったです。
――すごい・・・。泥臭く入り込んでいく様子が伝わってきます。最初の逆風が吹いていた状態から、どのような変化が見られましたか?
先ほどのような言葉に加え、営業部⻑からも「お前の描く商品の未来を⾒たい」と⾔ってもらえるようになりました。単にネット組織のメンバーというのではなく、一緒にビジネスを作っていく仲間として見てもらえているように感じました。営業担当との距離が縮み、中山だったら商品をより良く変えてくれそう、と期待を寄せていただけているのは嬉しかったです。
そこからはもう追い風が吹くようになりましたね。営業担当が売りやすくなるよう、一緒にロールプレイングをしたり、Teams(チャットツール)で質問チャンネルを作って、全国の営業担当の悩みや課題とそれに対する解決策を効率的に連携できるようにしたり。営業担当がディーラーや⼤規模店での商談シーンで活用できるよう、ペライチの説明資料なんかも作りました。結果「商談の流れや、商品特性の理解に繋がる」と好評をいただけました。他にも、受注報告を全国で見られるようにする取り組みは大変盛り上がりましたね。
各自の受注要因を共有したり、お互いにほめあったりしながら、一体感を持ったONEカーセンサーな雰囲気で営業販促に取り組むことができました。
――営業組織の風土づくりまで!
どうしたら売れるかと考えたときに、営業が売りたくなる商品かどうかという観点が不可欠でした。上司にも、営業担当の体験設計(勉強会が分かりやすかったから売りたいと思うようになった、など)を行うのもUXデザイナーの仕事だよと言われましたね。
当たり前かもしれませんが、WEBサービスってWEB上だけで完結しないと思っていて。その前後の営業担当との接点や、実際のサービス利用時における営業担当とクライアントのオペレーションまで含めて、サービスなんです。なので今回、プロダクトそのものの改善だけでなく、ステークホルダーに対するUXを細かく設計して、磨きこみを実施したことが、このような成果に結びついたと思っています。
1年目の失敗をバネに。課題に向き合い成果にこだわる
ーー話の節々から、中山さんの熱いものを感じるのですが、何がそこまで原動力になっているのですか?
根本的な考えとしては、将来自分で事業を作りたいと思っているので、ここまでひとりでできるようになるのは当たり前だと思っていて。色々なことを任せていただけることに感謝しています。でも、自信満々にいろいろとお話ししましたが、社会人1-2年目は全然できないやつだったんです。
例で言うと、1年目の終わりにその年の成果を発表する大会があったのですが、そこで周りが意気揚々と自分の成果を語る中、自分だけが「何も成果が出せなかった」という話をしたほどです。当時の上司に「変に取り繕らないで、できない自分をさらけ出すことが今の自分にとっては大事だ」ということを教えられたんですよね。だから発表の場では、「なぜ成果が出せなかったのかを分析し、自分の課題を整理し、それを克服することで、2-3年目で成果を出します!」と宣言しました。今となっては、その時の上司にとても感謝しています。
間違いなくその経験があったからこそ、成果へのこだわりが強くなったと思っています。まず課題に向き合うこと、そのあとで成果にこだわるということを学びました。今回「360度画像商品は売れないと思うよ」と言われたとき、もし1年目の失敗がなかったら、「新しい技術に着手したし、まあいいか」みたいな体のいいことを言って終わりにしていたと思うんです。営業担当がどう売るか、その先のクライアントが使いこなせるか、というところまで踏み込んで成果にこだわれた理由は、そんな過去の原体験からきていると思います。
――将来は自分で事業を作りたいとのことでしたが、そのためにリクルートで学ぼうと思っていることがあれば教えてください。
そうですね・・・。まだまだUXデザイナーとしても未熟なので、まずはリクルートにある豊富な事例や魅力的な先輩方から、UXスキルを学び抜きたいと思っています。
それに加え、プロダクトマネージャーとしては、「商品設計力」を言語化できるようにしたいです。具体的には、担当する業界の原理原則を知り、流行を捉えた上で、価値を定義することができるようになりたいと思ってます。普遍的な商品設計力を身につけることで、自動車領域以外でも「売れる」商品が作れるよう、学びを体系化していきたいです。
――ありがとうございました。
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