なぜリクルートが3DCGアバターなのか?来たるアバター社会への挑戦
布村壮太
タイトルとサムネイル画像で驚いた方もいるかもしれませんが、これはれっきとしたリクルートの取り組みです。
Advanced Technology Lab(以下ATL)では、WEBブラウザ上でVRM形式の3DCGアバターを使える技術を開発し、それを活用したWEBミーティングサービス「TEATOR」(テアトル)をリリースしました。今回は「TEATOR」を作ったATLメンバーyoshidanさんに、なぜVR・3DCGに取り組むのか話を伺いました。
WEBでアバターを動かすねらい
――まずは、TEATORについて教えてください
TEATORはVRM形式の3Dアバターファイルに対応したWEBミーティングサービスです。発行されたURLを共有すれば、利用OSを問わずミーティングを行うことができます。
VRMというのは3Dアバターのファイル形式です。その形式であれば自作の3DアバターやDLしたアバターをインポートでき、加えてフェイストラッキングにより自分の動きが反映された状態でミーティングをすることができます。アバターを持っていない場合は通常のカメラ映像でも参加できますし、もちろん資料などの共有も可能です。
VRM形式の3DCGアバターをWebブラウザ上で自由に操作できる、というのが特徴です。ヘッドマウントディスプレイが必要だと、どうしても一般的には使われづらくなるので、皆が持っているどのデバイスでも動作しコミュニケーションがとれることは重要な要素だと思っています。
――Web技術で、というところポイントなのですね
現在、アバターや仮想空間の構築手法はゲームエンジンのUnityが事実上の標準となっているので、既存のWEBサイトに組み込むことは難しくなっています。
WEB標準技術で開発できるようにすることで、WEBエンジニアでも特別な知識を必要とせず、3DCGアバターを既存のWEBサイトで操作させられるようになります。
従来のスマホやノートPCでアバターチャットが実現できると、VRコンテンツにつきものの高価な専用デバイスを使わずとも、ユーザーがすぐ利用できるようになります。難しいセッティングもなく、URLをクリックするだけ。こうすることで初めて、大企業など大量のユーザーとの接点を持つサービスでの活用が進み、社会への普及が広がると予想しています。
なぜリクルートが3DCGアバターなのか
――一見するとリクルートの事業領域とは関係なさそうにも見えるのですが、なぜ取り組もうと思ったのでしょうか?
近年、VTuberなどによるライブ配信だけでなく、VRChatやclusterなど、誰でも簡単に3DCGのアバターを使いVR空間でコミュニケーションができるサービスが増えています。2020年1月にはNHKでバ美肉(※)の特集番組やバーチャル紅白が放送されており、エンターテインメント業界以外でも3DCGアバターの認知度は確実に上がってきています。今後、アバターコミュニケーションはこれまで以上に社会に普及していくことが期待されています。まだリクルートの事業領域での活用は進んでいませんが、テレワークといった自社内向け業務効率化はもちろん、プライバシー保護や集客コストの低下といったメリットがあると考えています。
また個人的には、アバターコミュニケーションによって、今まで長らく変わっていないWEBやアプリをベースとしたUXから一段上がることができるのでは?と期待しています。
(※バ美肉:バーチャル美少女受肉の略語。 美少女のアバターを纏うこと、あるいは纏った上でバーチャルな美少女として活動することを指す。)
――会議での使用感はいかがでしょうか?
いくつかのケースで実際に使用したところ、やはり周囲が映らないので場所に気を使わずに済む、髪型や化粧などの準備がいらなくて楽、という感想が多かったです。新型コロナウイルスによってオンラインミーティング自体に需要が高まっていますが、在宅勤務で実際にビデオ会議をやってみた方はこういった周囲や準備を気にする煩わしさを実感されているかと思います。
また、3DCGアバターでもフェイストラッキングで動いていると、そこに相手がいる感覚になるんです。これは大きな発見でした。一方カメラ映像だと、自分の顔がずっと映されているので、全く気が抜けず疲れてしまいます。このいい感じの距離感が、サービスとしての最大の特徴かもしれません。
知見のない世界に挑むために
――リクルートに全く知見のない領域というのは難しそうですね
そのため、アバターにおけるWEB技術で先行しているピクシブさんに協力いただきました。ピクシブさんでは社外交換留学制度を採用しており、その制度を利用し機密保持契約を結んだ上で、知見を学ばせていただきました。具体的に私が担当したタスクは、VRM標準のうちまだ実装していなかった機能の実装と、three-vrmのインターフェースなどの土台作りでした。VRMのドキュメントだけでは実装に落とし込めないので、UniVRMのソースを見てTHREE.jsで動くように実装して、PRでレビューしていただくという形で進めました。このデバッグ作業が一番苦労しましたね。
――最も得られたことは何でしょうか?
一緒に働く方が大きく変わるので、普段接しない方々と触れ、お互いを知れたことが一番ですね。
特に3DCGエンジニアの方はアーティストのようで芸術分野にも精通しており、手順やクオリティへのコミット、デザイン思考はとても勉強になりました。皆さん自分とは全く異なるスキルセットを持っており、非常に刺激的な経験でしたね。自社だけでは学べないこと、得られない視点を得ることができる施策だと思いました。
――ありがとうございました!