ConveyUX ’24 イベントレポート
リクルート プロダクトデザイン室
はじめに
こんにちは!リクルートのプロダクトデザイン室でプロダクトマネージャーをしている、吉川、三上です。私たちは旅行領域の『じゃらん』というプロダクトを担当しており、旅行者や観光産業の事業者への提供価値を高められるよう日々業務に取り組んでおります。
今回私達は2024年2月にアメリカのシアトルで開催されたConveyUX ’24に参加してきました。こちらのnoteでは、そのカンファレンスの様子や聴講してきた内容についてシェアしたいと思います。
ConveyUXとは・参加しようと思った理由
ConveyUXとは、ユーザーエクスペリエンス(UX)に関するカンファレンスで、2013年から年1回BlinkUX社によって開催されています。マイクロソフト社やGoogle社などのIT企業で経験を積んできたプロダクトマネージャーやリサーチャー、開発者、デザイナーなどが集まり、新しい技術やトレンドについて発表・ディスカッションを行います。今年は、2月27日から2月29日までオフラインのみならず、オンライン参加者に向けてのライブ配信をしながら開催され、3日間で約34のセッションと交流会が実施されました。
私が今回このUXカンファレンスに参加しようと思った理由は、日本では最新のUX事例や動向についてキャッチアップする手段がなかなか無いと感じたからです。プロダクトデザイン室のUX担当に就いて以来、本やメディアでUXの勉強、事例を見て業務に活かそうとしてきました。しかし、私が参考にしていたメディアでは、UXに関する記事は更新されても週に1度程度。日本ではまだUX分野が浸透しておらず、事例にアクセスしづらいと感じていました。そんな中、特定のツールシェアなどではなく、世界のUX最新トレンドや技術について広くシェアしてくれるこのカンファレンスを見つけ、プロダクト作りのヒントや現地ならではの熱量を感じたいと思い、このカンファレンスへの参加を志望しました。
今回このnoteでは、特に私達が面白いと感じたセッションや現地参加して感じたことについてシェアしたいと思います。
印象に残ったプログラム①:There Is No Such Thing as "User Experience"
概要
GoogleにてUXシニアディレクターを担当しているチャーチル氏による講演でした。1980年代に"User Experience"という単語が広く使われるようになる前の、そもそも「体験」とはどのようなものを指すのか?という話から始まり、UXの価値を問う質問を通して議論が行われました。例えば、「"体験"は主観的すぎて測ることができないのではないか」「UXという語は幅広すぎて、結局何の話をしているのか分からない」といった質問に対して、UXを様々な観点から要素分解していくことで解像度を高めていきました。
特に、「UXは開発チーム(エンジニア・マーケター・プロダクトマネージャーなど)のメンバー全員でつくり出すものである。UXデザイナーという職業は必要なのか」という問いが印象的でした。この問いに対してチャーチル氏は、UXデザイナーだからこそ持つことができる観点の1つとして「様々なコンテキストでユーザーがプロダクトを使うことに対して理解しチームに提言することができること」を挙げていました。例えば、ユースケースをひとつに限定してしまうことはよくないことだ、と知った上でチームに提言できるのもUXデザイナーの仕事の1つなのです。
最後に、今後どのようにUXの核心部分が変化していくのか、の議論がありました。複数ユーザーでのプロダクトの共有、AIの登場や物理的なものとデジタルなものの境界線が曖昧になっていくことなど、時代の潮流の変化に対してUXがどのように語られるべきなのかが話されました。
感想
UXに関するカンファレンスのなかで「UXなんて存在しない」というタイトルが目を惹き、聴講してみることにしました。この題の意図は、UXという幅広く曖昧に使われがちな単語を、時代の変遷も踏まえながらどう構造分解して言語化していくべきか考える必要があるというメッセージだと分かりました。私もUXデザインに携わるものとして、チームだけでなく、会社全体に対しても、で自分の果たすべき役割を明確に言葉でも伝えられるようになりたい、と気が引き締まる思いでした。
印象に残ったプログラム②: Designing for Competing Goals
概要
The New York Times社の広告部門のディレクターとプロダクトデザイナーによる講演による講演でした。この講演では、同社が提供するゲームサイトの収益化プロジェクトにおいて、異なるミッションを持つチームが共通の目標と方針を設定し、それに基づいて解決策を見つける過程が語られました。
プロジェクトの初期段階では、広告チームが広告効果の最大化を主目的として解決策を模索していました。しかし、その解決策に対してUXチームからユーザー行動の阻害の指摘があり、両チームの意見が対立してしてしまったようです。そこで、両チームは「ユーザーにサービスを楽しんでもらう」という共通の目的に立ち戻り、共にユーザー行動を整理した上で、どの場所であればUXを阻害せずに広告効果も生み出せるのかを議論しました。最終的に、The New York Times社の全てのゲームサイトに共通する「スタートボタン押下後」に、新しく一枚の広告だけの画面を追加することで、本来のサービス目的と収益化を両立させることができたと話されていました。
感想:
私たちが携わっている旅行領域においても、広告効果とユーザーの予約のし易さを別の担当者が追っており、チーム間で意見が対立することがあります。そのため今回の講演内容は、自分の実務で直面していた課題と重なる部分があり、非常に参考になりました。
また講演後、登壇者に「幾つものプロジェクトで多様なチームと協働してきた中で、プロジェクト推進時に必ずやっていることや意識していることは何か?」と質問してみました。すると登壇者のアージェス氏は、「プロジェクトが始まる前に関わる全職種メンバーをオフラインでオフィスに招集し、フラットに対話できるワークショップを実施している。こうした対話の機会を設けることで、互いの視点や言葉を理解し合うことができ、それがプロジェクトの成功の秘訣になってきたと思う」と話していました。
最近は私のチームではリモートワークが中心となり、自ら積極的に動かなければ社内の人々と関係性を構築しにくい現状があります。講演と質問を通じて、単に会議内でのやり取りだけでなく、日常的関わりを持ちにいくことが仕事の成果に繋がることを実感したので、今後自分が牽引するプロジェクト実施時には、事前に職種を超えたコミュニケーションを取り、1つのチームとして協働出来るように動いていきたいと感じました。
また参加者が、講演後にも列を作って講演者に質問しに行っており、UXはまだまだ未成熟な業界で、携わる多くの人が悩みながら業務に取り組んでいるんだな、と実感すると共に、日々手探りで業務に取り組んでいる私も励まされました。
シアトルの街を散策
カンファレンス後の空き時間に、シアトルの街を散策しました。シアトルには、Amazon社やMicrosoft社などのIT業界を牽引する企業の本社があります。Amazon社のビルだけでも40以上あると言われており、無人店舗で有名なAmazon Goの店舗もありました。
特にAmazon本社の横に建つThe Spheres(スフィアーズ)が印象的でした。The Spheres(スフィアーズ)では世界30カ国以上から集められた1000種以上の植物が4万株以上も育てられているほか、社員のワークスペースとしても使用されています。
シアトルは他の大都市同様、場所によっては治安面で危険度が増すエリアもあるのですが、Amazon社のある一帯では、Amazon社が雇用している警備員による巡回が行われ、夜でも安心して過ごすことができました、くらいではいかがでしょうか?。今後は政府だけではなく、企業が街づくりにも積極的に携わっていく時代になるのかなと感じました。カンファレンス内容だけではなく、こうした世界のビジネス現場に足を運んだ事で、刺激を得ることができました。
全体の感想
今回のカンファレンスでは「UXデザイン」という分野が学問・職業として欧米は日本よりも確立されていることが一番印象に残りました。 欧米を中心としたIT企業では「UXデザイン」を専門とする人々がポジションとして明確に存在し重要視されているようでした。
一方で、職種による役割分担が進んでいることで、他の専門性を持ったメンバーとどのようにコミュニケーションを取っていくのかが、日本企業よりも明確に課題として捉えられているように感じ取れました。日本でも同じように専門性を持って分業していくべきなのかどうかは、チームのサイズや文化など、様々な観点を持って議論していく必要があると思いました。
カンファレンスでは、講義を受けるだけでなく、他の参加者とのネットワーキングの機会も多く作られていました。世界各国のUXデザイナーと一緒に食事をし、情報交換をすることもできました。日系IT企業で働いたのちワシントン大学でUXデザインを学ぶ方との出会いのほか、オーストラリア・香港・カナダなど各国からUXを学びにきている参加者との出会いにも恵まれました。これらの方との会話で、海外企業では「UXデザイナー」「プロダクトデザイナー」などの職種に明確に違いがあり、それぞれで専門性を持って開発に向き合っていることが分かりました。
とはいえ、エンジニアなどの他の職種と比べると「UXデザイン」が職業としてまだ発達段階にあると感じる場面もありました。各講義が終わった後に講師に個別で質問をした人の話を伺うと、自らの仕事の中で「どのように他の職種の人と関わっていくか」「UXデザインを周囲に理解してもらうか」といった、より具体の内容を聞いている人が多くいました。まだまだインターネット等からの情報収集では得られない生の経験談を求めている人がたくさんいるのだと感じられました。カンファレンス参加者だけのLinkedInグループも作成され、そこでも活発な質問が飛び交っています。今回のカンファレンスに参加したことで、まだまだ発達段階のUXデザインの国際的なコミュニティの一員になれたように思えました。
終わりに
私たちは、新卒でリクルートに入社してまだ1年も経っていない中、今回のカンファレンスに参加する機会を得ました。リクルートでは、新卒1年目からでもこのような貴重な経験を積める環境が整っています。キャリアに悩んでいる方や、UXデザインが実際にどのような仕事なのかこれから知る方にとって、このnoteが少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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