【PdM Days】DAY4⑤「未来を創る想像力と実現力」
リクルート プロダクトデザイン室
多彩な領域のプロダクトマネージャー(PdM)が集結し、プロダクトづくりに関する様々なセッションを発信するカンファレンス「PdM Days」。全体を通してのテーマは「枠を超えて、未来のまんなかへ」。セッションを通じて第一線で活躍するPdMの視点を獲得し、これまでの自分の枠を超えて未来に挑戦する。そのきっかけを提供し、日本のプロダクトづくりに貢献していきたいという思いが込められています。
今回は、2月17日に行われたセッション「未来を創る想像力と実現力」の模様をお届け。プロダクトデザイナーとして世の中を驚かせる様々なプロダクトを生み出してきた根津孝太氏(有限会社 znug design)と、PdMとして同じく様々なプロダクトを世の中に送り出してきた宮田大督氏(株式会社 令和トラベル)をゲストに迎え、デザイナー・PdMそれぞれの視点から、まだ見ぬものや体験を生み出す面白さ、また、その際に心がけていることなどを語っていただきました。
※2024年2月17日開催の「PdM Days Day4〜未来を創る想像力と実現力〜」から、内容の一部を抜粋・編集しています。
未来を創るPdMに求められる2つの力とは
鹿毛:本セッションのテーマ「未来を創る想像力と実現力」。PdMという仕事の捉え方を変えてみると、「明日の当たり前をつくっていく仕事」ともいえるのかなと思います。それには、制約にとらわれず未来に向けた指針やビジョンをつくる想像力、そのビジョンに対して、いろんな人を巻き込みながら前に進めていく実行力。この2つの側面があるのではないかと思います。今日はデザイナーとPdM、それぞれの視点からまだ見ぬ体験を生み出す面白さ、あるいは苦しさに焦点を当ててお話を伺います。根津さんと宮田さん、よろしくお願いします。
根津:znug design(ツナグデザイン)の根津孝太です。プロダクトデザイナーですが、立場上なんとなくPdMっぽいこともやっています。乗り物やサーモスさんの水筒、タミヤさんのミニ四駆などのほか、最近はロボットをデザインすることが増えていて、「LOVOT」というロボットや、セコムさんの見回りロボット、それから人機一体さんの巨大ロボットなども手掛けています。
宮田:株式会社 令和トラベルの宮田大督です。これまでスタートアップを中心に、複数の会社でPdMを務めてきました。セッションのテーマである「未来を創る」ことをイメージし、手掛けてきた仕事について今日はお話ししたいと思います。
鹿毛:セッションに入る前に、お二人がこれまでに手掛けてきたお仕事について、もう少し詳しく教えてください。
根津:では、今回のテーマに近しい事例として、デザイナー兼PdMとして手掛けた電動バイクの話をします。ある時、僕はふと「ワクワクする電動バイクを作りたい」と思いました。そこで、カスタムバイクやサイドカーなどの豊富な制作実績を持つオートスタッフ末広の中村正樹さんを訪ねたのですが、「電動バイクはやりたくないな。三輪の乗り物やりたいんだよ」と言われまして。ここで断ったら次はないと思ったので「やります」と即答しました。どうせやるならすぐに答えたほうがいい。これ、結構大事ですよね。
根津:そこから三輪の開発を進めていくわけですが、これをやってみて、改めてオートスタッフ末広のすごさが具体的に分かったんです。むしろ、いきなり電動バイクを作るより良かったんじゃないかと思いました。その非常に特徴的な技術を全体に拡大してつくった電動バイクが「zecOO」です。僕はこの「相手の遺伝子を取り込む」みたいなことが、プロジェクトをやるときには大事なかと思っています。
根津:888万円もするアホな電動バイクなんですけど、どうせ日本じゃ売れないだろうと思いドバイに持っていったら売れました。ドバイ警察も欲しいと言ってくれて現地の新聞にも乗るという、まさかの展開もありましたね。
でも、一番嬉しかったのは、僕がバイクのCGをオートスタッフ末広の中村社長に送ったときの、こんな返信メールです。「かっこいい!」「未来を感じますね!」「やる気がもっと出ました! 頑張りましょう!」と。この瞬間に、自分のワクワクがチームのワクワクになったんです。結局、僕はこの一言が欲しくてやっていたのかなと思います。
鹿毛:ありがとうございます。では、宮田さんお願いします。
宮田:僕はこれまで、大企業、メガベンチャー、スタートアップと、色々な会社で様々なチャレンジをしてきました。そのなかから、3つの事例をお話しします。
宮田:大きく分けると「0→1」「1→10」「組織作り」の事例になるのですが、まず「0→1」はエクサウィザーズで手掛けた「音声介護記録サービス」です。介護士さんの両手がふさがっているときでも音声で記録ができるサービスですね。介護の質を上げていきたいという思いからスタートし、介護現場へのユーザー調査を実施するなかでアイデアをブラッシュアップしていきました。
「1→10」の事例は、メルカリで手掛けた「保存した検索条件タブ」です。この機能が生まれたきっかけは、地方に赴いて行ったユーザー調査でした。そのユーザーさんは近所に専門店や本屋がなく、趣味のグッズ情報をメルカリから仕入れているそうです。つまり、メリカリをECサイトではなく「メディア」として活用していると。この話をヒントに、アプリを開いただけでトップに自分の好きなものがパッと出てくる機能を作りました。既存のサービスに機能を追加する場合でも、これまでにない新しいアイデアを模索することが大事で、その想像力を働かせるために現場に行くのは、とても有効な手段ではないかと思います。
最後は「組織作り」の事例。Gaudiyのデザイン組織を「User Developmentチーム=お客様に関する専門家集団」と位置付け、発想(調査)から実現(制作)までを高速で行う土台をつくりました。PdMの仕事はアイデアを生み出したり、調査をしたりすることだけではありません。それらをたくさんのメンバーで効率よく実施していくためのプロセス・チームづくり、つまり「未来を生み出す土台づくり」も重要な役割の一つではないかと思います。
未来を創るための「想像力」とは?
鹿毛:では、トークセッションを始めます。1つ目のトークテーマは「未来を創るための『想像力』とは?」ということで、想像力に焦点を当ててまいります。先ほどのお二人のお話を伺っていても、それぞれ「想像力の原点になる材料」があるのかなと感じたのですが、根津さんいかがですか?
根津:そうですね。先ほど宮田さんからお客さんの課題の話がたくさん出てきましたが、僕も「問題意識」というところはすごく考えています。「もっと、こんなところをよくできるんじゃないか」「ここを解決したいな」という思いを持って世の中を見ていると、色々なものに対する解像度が上がっていくんですよね。それが段々と蓄積されていって、ある瞬間に想像力へとつながる感覚があります。あくまで僕の場合はですが、「突然閃きました」っていう感じではないですね。
鹿毛:そこで閃いたアイデアの種を、今やっているプロジェクトや新しいプロジェクトへと落とす過程にも、根津さんならではのプロセスがあるのかなと思いますが、どうでしょうか?
根津:まずはお客様を含めて、色々な人の話をとにかく聞きますね。初めて手掛ける分野の場合は特に、その製品と会社を取り巻く状況や課題をひたすら聞き取って、製品開発の背景部分の解像度を上げる。それは常にやっています。
鹿毛:ありがとうございます。宮田さんいかがですか? 創造力の原点となる材料というと。
宮田:繰り返しになりますが、まずは「お客様と向き合う」ことですね。それと、先ほど根津さんがおっしゃっていた「相手の遺伝子を取り込む」という言葉にすごく共感したのですが、僕もお客様と向き合い、その遺伝子を取り込むことで想像力を養っている部分はあると思います。
あとは、やはり自分の根底には「世の中を変えていきたい」という大きなビジョンがあって、この土台がなければ想像力は生まれないんじゃないかと思います。自分のなかにビジョンやバリューがあると取り組むべき課題の優先順位も決められますし、より良いアイデアになっていくので。ただ、その一方で、そのビジョンが強すぎるがあまり、お客さんと向き合うことを忘れてしまうと、ただの独りよがりなアイデアになってしまいます。ですから、自分のなかのビジョンとお客様と向き合うこと、そのバランスをどうとるかはとても大事だと思いますね。
鹿毛:そのバランスがうまくとれた、具体例があれば教えてください。
宮田:先ほどのメルカリの「保存した検索条件タブ」がまさにそうですね。一見、普通の機能っぽいけど、メルカリを趣味の情報に触れる「メディア」として使う人にとってはすごくワクワクできるものになっている。ビジネスの観点から見ても、たとえ買う目的ではなく情報を拾う目的だったとしても、アプリを開くことでリテンションが生まれ、最終的には購入にもつながる。さらに、僕がこの仕事をやっているときに個人的なビジョンとして持っていた、「近くに趣味を楽しむためのお店がなくて退屈な思いをしている人に、エンタメを楽しんでもらいたい」という思いも叶えられる。三方よしじゃないですけど、PdM冥利に尽きるような施策だったと思います。
未来を創るための「実現力」とは?
鹿毛:次のテーマは「未来を創るための『実現力』とは?」です。お二人はそれぞれ想像力を持って未来を創るためのプロダクトやサービスに向き合っていますが、その想像を超えるようなアウトプットを生み出すための心構えや工夫などはありますか?
根津:僕は「変わること」がすごく好きなんですね。たとえば、会議に臨むにあたって自分のなかでベストな仮説を持っていたとしても、時には異論や反対意見も出ます。そうした、人それぞれ異なる視点や考え方に触れる度に、自分がアップデートされる感覚があるんです。もちろん「これを実現したい」っていうビジョンはありますが、そこに至るまでの方法論やアプローチはどんなふうに変わっても構わないと思っている。むしろ、会議が終わったあと、自分の考え方が何も変わっていなかったり、新しい視点を獲得できていないほうが嫌で。0.1ぐらいバージョンアップしてないと嫌なんですよ。そういう意味では、今日なんてすでにメジャーアップデートが2回入ったくらいの感覚がありますね(笑)。このセッションが始まる前の自分とは、ちょっと変わっていると思います。
鹿毛:宮田さんはいかがですか?
宮田:想像を超えるアウトプットは、自分一人では出せません。チームのメンバーにも思いを共有し、愛を持って取り組んでもらうことがとても重要だと思っています。自分の思いを周囲にどう伝えるか、どうやって人を巻き込むかみたいなことは、かなり考えていますね。
たとえば、ユーザー調査の結果をメルカリの社内報に載せる際にも、普通に書くだけでは興味を持ってもらえません。そこで、『日本列島 ダーツの旅』を意識した文体で面白おかしくまとめたのですが、そうすると「あれ読んだよ。こんなこと思いついたんだけど」と言ってくれる人が出てきたりするんです。周囲を巻き込むために、何事も四角四面に伝えるのではなくコンテンツ化するみたいなことは、工夫ポイントの一つですね。
「未来を創る」とは?
鹿毛:最後のテーマは「未来を創るとは?」。ここまでの「想像力」「実現力」の話をふまえ、お二人にとって未来を創るとはどういうことなのか、改めて教えていただけますか?
根津:宮田さんのお話を伺っていて改めて思いましたが、お客さんも含めてつながっていくこと、コミュニティをつくることが、未来を創る鍵になるんじゃないかと。znug designには「コミュニケーション=クリエイション」という社是があって、コミュニケーションが創造を生むと思っています。先ほど、このセッション中に自分がバージョンアップされたと言いましたが、大事なのはやはり人と話すこと。
そういう意味では、一番クリエイティブな人ってコミュニケーションの場をつくれる人なのかもしれません。今回の「PdM Days」もそうですよね。まさにこの場が「未来を創る」のはじまりなんじゃないかと思います。
鹿毛:他者と交わるところに未来のきっかけがあると。ありがとうございます。宮田さんはいかがでしょうか?
宮田:今日ここに来るまで、根津さんのようなスーパークリエイターは、自分とは別世界の人だと思っていました。ただ、お話を伺っていて、共通する部分もあるんだということを感じましたね。特にそう感じたのは、未来を創るためのアプローチです。ずば抜けた発想力がベースにあるとしても、お客さんとのコミュニケーションを大事にし、色々な人から想像力の源泉となる材料を得ているんだなということが分かって、刺激と勇気をもらいました。
また、今日のセッションで確信したことがあります。それは、未来を創るためには「今」が何より重要だということ。今、泥臭く、色んな事象と向き合って正しい課題を見つけたり、それを解決するために頑張る。それを一歩ずつ積み重ねた先に未来が見えてくる。当たり前のことですが、改めてそう感じましたね。
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