【PdM Days】DAY4④「社会課題をプロダクトで解決する起業家たち」
リクルート プロダクトデザイン室
多彩な領域のプロダクトマネージャー(PdM)が集結し、プロダクトづくりに関する様々なセッションを発信するカンファレンス「PdM Days」。全体を通してのテーマは「枠を超えて、未来のまんなかへ」。セッションを通じて第一線で活躍するPdMの視点を獲得し、これまでの自分の枠を超えて未来に挑戦する。そのきっかけを提供し、日本のプロダクトづくりに貢献していきたいという思いが込められています。
今回は、2月17日に行われたセッション「社会課題をプロダクトで解決する起業家たち」の模様をお届け。このセッションでは、社会課題に対し、プロダクトを通じて解決することを目指し起業した方々にお話しを伺います。
テクノロジーとコーチングをかけあわせたプロダクトにより、人々のウェルビーイングという社会課題に向き合う木村憲仁氏(株式会社mento 代表取締役)、産業廃棄物業界で、テクノロジーとデザインの力を活かしたプロダクトを通じて課題解決に取り組む近藤志人氏(ファンファーレ株式会社 代表取締役)。両者の経験をふまえ、社会課題をどう自分ごと化して捉えるのか、そして、その課題に対し、プロダクトを通じてどのように解決していくのか議論しました。
※2024年2月17日開催の「PdM Days Day4〜社会課題をプロダクトで解決する起業家たち〜」から、内容の一部を抜粋・編集しています。
若き起業家が挑む社会課題とは?
松本:本セッションのモデレーターを務めます、リクルートの松本美希と申します。セッションのテーマは「社会課題をプロダクトで解決する起業家たち」ということですが、はじめに木村さん、近藤さんが手がけられている事業について教えてください。
木村:株式会社mento代表の木村憲仁です。本日はよろしくお願いいたします。
木村:mentoは、マネージャーから組織を変えていくビジネス・コーチングプラットフォーム。月3万円から1on1のプロコーチングがオンラインで受け放題のサービスです。国際基準の資格を持つ200名のプロコーチとのネットワークがあり、導入いただいている企業の中間管理職の方々にご紹介しています。
木村:欧米、特にアメリカではコーチングが当たり前に浸透していますが、日本でも2019年頃から急成長している分野です。それまではコーチングって「一部のエグゼクティブが受けるもの」というイメージがあったかもしれません。しかし、最近では誰しもに必要なものという認知が広がってきたのではないでしょうか。
そんななかで、企業がミドルマネージャーにコーチをつける動きも出てきています。その背景として考えられるのは、採用競争が激化しているなか人に辞められないために、企業が現場を守るマネージャーのリーダーシップを重視していること。そのために、コーチングによってマネージャーの行動変容を求めたい。そんなニーズが高まっています。
最後に、僕たちは「夢中を普通にする」というビジョンを掲げています。コーチングを通して、夢中になって生きることを当たり前にしていきたい。そんな思いでこの事業をやっています。
松本:木村さん、ありがとうございます。では近藤さん、事業について教えてください。
近藤:ファンファーレ株式会社代表の近藤志人です。
近藤:私たちは産業廃棄物の業界に特化した、設立5年目のスタートアップです。
近藤:国内では年間で約4億トンの産業廃棄物が排出されています。これは、家庭ゴミなどの一般廃棄物の10倍ほどの量。ただ、この業界は深刻な労働人口不足に陥っていて、このままではゴミ回収ができなくなってしまいます。私たちはこの課題をITサービスによって解決し、持続可能な社会インフラを作っていくことをミッションに事業を行っています。
我々の「配車頭(はいしゃがしら)」というサービスは、廃棄物回収の配車計画を自動作成するSaaSで、配車担当の配車予定作成にかかる時間を1/100ほどに省力化できます。また、配車効率が約10%上がり、既存のドライバーでより多くの配車ができるため、労働力不足の解消につながります。現在、徐々に導入社数が増えていますが、配車だけでは産廃業界のDXは実現しませんので、他にもさまざまなサービスを展開していく予定です。
起業テーマとの出会い
松本:では、トークセッションを始めます。まずはお二人が起業に至った経緯を教えてください。
木村:僕は学生時代に1年ほど会社をやっていましたが、事業や会社を成長させるためには仲間も必要ですし、何よりビジョンがないとダメだと感じて。それを探すために新卒でリクルートに入りました。当初は3年くらい勤めて起業する気でいましたが、会社の仕事が楽しすぎて、気づけば4年が過ぎてしまったんです。これはまずいと、とりあえず会社を辞めて、もともと考えていたビジネスアイデアを二転三転させながら起業に至ったという感じですね。
近藤:私も学生時代から社会課題をビジネスで解決できないかと、事業に取り組んでいました。ただ、当時はなかなかうまくいかないところがあり、もっとスケーラビリティを持って社会課題の解決ができないかと考えて、新規事業のコンサルティングをやっている会社に入ったんです。そこで広くスケーラビリティのあるビジネスを学び、リクルートに転職してITプロダクトの開発や、IT組織の組織開発などを経験した後に起業を考え始めました。
松本:最終的に、どうやって現在の起業テーマにたどり着いたのでしょうか?
木村:当初は今とは全く違う事業案でスタートしましたが、日増しにやる気を失っていきました。起業ってこんなものなのかな?と思いつつ、どんどん憂鬱な気持ちになってしまって……。そんな時に人の勧めでコーチングを受けてみたんです。
その時のコーチに「木村さん、本当は何をしたいんですか?」と、まっすぐな目で言われました。初めて会ったおじさんからの問いに戸惑いつつ、「もう二度と会わないかもしれない人の前で取り繕ってもしょうがないな」と思って。そうしたら、その問いがすごく自分に刺さってくるというか。少なくとも、今の事業テーマに、自分は全く興味を持っていない。それなのに、起業したいという思いだけが先行していたことを再認識させられました。
木村:同時に、自分のことを分かっていたつもりでも、意外とセルフ・アウェアネスってできていないものなんだなと。そう気づいた時に、コーチングというものに強い関心を持つようになりました。正直、最初は怪しい印象を持っていましたが、いざ体験してみたらすごく大事なことだと感じられたし、もっと世の中に広まっていいはずじゃないかと思ったのが、この事業テーマにたどり着いた経緯ですね。
松本:近藤さんはいかがですか?
近藤:僕はわりと「社会課題をどう捉えるのか? 何をもって解決と捉えるのか?」みたいなことを頭であれこれ考えてしまうタイプで、哲学書などを読みながら取り組むべきテーマをひたすら考えていました。リクルート時代にも副業でやっていたITコンサルの仕事を通じて、さまざまな社会課題に触れる機会があったのですが、そのなかで特に強い関心を抱いたのが産業廃棄物の業界です。
例えば「医療」や「教育」の問題って、多くの人が経験したことがある分野なので想像しやすいですよね。しかし、産廃業界のことって、ほとんど知られていない。公共性が高いにも関わらず、なかなか公共の目が向かない領域なんです。そこに対して、民間の資本を入れてコミットすることには大きな価値があるのではないかと考えました。
松本:そこからすぐに事業を立ち上げたのでしょうか?
近藤:いえ、まずは1年くらいかけて全国の産廃事業者を訪ねて回りました。当時は会社員だったので休日や有給を使い、業務を1日中見学させてもらったりして。自分のなかで、十分に理解と当事者意識が高まったと感じたタイミングで起業しました。
最初にプロダクトを作る時に気をつけたこと
松本:続いて、テーマに出会ってから最初のプロダクトを作るまでのことをお伺いしたいです。木村さんは、どんなことを意識されましたか?
木村:じつはセッション前に近藤さんと、この質問について話していたんですけど、共通していたのは「作らない」だったんですよね。どういうことかというと、いきなりちゃんとしたプロダクトを作らずに、その前段階でしっかり価値検証を進めることが大事だと思っています。
木村:僕がコーチングのマッチング事業を考えた時も、まずはニーズを確認するために自分で簡易的なLPをつくり、Twitter(現X)で「こんなサービスを始めます。興味がある人は事前登録してください」と発信しました。すると300人くらいの人が来てくれて、ここには確かなニーズがあると分かりました。
ただ、そこでもまだプロダクトは作らず、まずは登録してくれたお客さんと集めたコーチに手動でメールを送ってマッチングするっていう、アナログなことを一人でやっていました。そんなアナログなやり方でも、お客さんはお金を払ってくれる。それくらい大きなペインであることも確認できました。
最初はマッチングアルゴリズムとかは全く考えず、スプレッドシートで全部やっていましたね。はじめはできる限りシンプルなロジックで、できる限りコードを書かずに検証を進める。そうやってニーズや価値を確認できたら、これをどうスケールさせていくか、より多くの人にどう届けていくか、そのためにはどんなプロダクトや機能が必要なのか、といった具合に段階を踏んでいくのがいいんじゃないかと思います。
近藤:私にも似た経験があります。配車計画の自動作成という最初のサービスを出すときも、いきなりエンジニアを雇ってソフトウェアを作るのではなく、まずはスプレッドシートを駆使して簡易的なデモをつくり、お客さんに体験してもらいました。最初は半信半疑だったお客さんも、実際にデモをやると「え、これワンクリックで出てくるの?」みたいな反応になるんです。これを繰り返し、いけるという確信が得られたところで、初めてエンジニアを雇ってプロダクトを作り込んでいく。そこに至るまでの品質や価値の検証には、かなりの時間を使いましたね。
木村:重要なのは、サービスの価値の本質がどこにあるのかを見極めることですよね。うちでいえば「いいコーチと出会える体験」こそが価値の本質であり、そこに至るまでのプロセスはそこまで重要じゃない。むしろプロセスはできる限り効率化して、サービスの核になる価値を届けることに注力する。グロース前のフェーズでは特に、そこをしっかりやり切ることが大切なんだと思います。
PMFとユニットエコノミクス
松本:そうした十分な検証を経て最初のプロダクトをつくったあとに、PMFやユニットエコノミクスの検証をどう進めていったのでしょうか? あるいは、そうした成長指標の数値をトラックできる状態になるまで、どんなことに取り組みましたか?
木村:では、プロダクトができてから少しスケールしていく手前くらいのところの、生々しい話をしましょうか。mentoは当初のtoCからスタートし、現在はtoBをメインに据えているのですが、その切り替わりのタイミングで小さくピボットをしています。というのも、toCマーケットである程度のニーズは掴めているけど、これをスケールさせていこうと思ったときに、このままではユニットエコノミクスが成立しなさそうだなと。じゃあ、何をどう変えればいいのか? あるいは、そもそも全てやり直すのがいいのか? 検討の結果、mentoの場合はtoBにシフトすることでもう少し単価が上げられそうだし、マーケット的にもコーチングの認知が進んでいて、売れる確証が持てたので、少しだけサービスの方向をずらしてリソースを注ぎ込みました。
松本:PMFに入る前の、仕込みの部分をしっかりやったわけですね。
木村:そうですね。大手のサービスや、すでに回っているサービスのプロダクトマネジメントとまるで違うのは、トランザクションがないに等しい状態なので、まずは「流れ」を作り出すところから始めないといけないことです。実際、僕の場合も起業初年度はほぼ営業しかしていません。僕のバックグラウンドはPdMで営業はやったことがなかったので、失注しまくりでしたよ。それでも、ある程度のお客さんを確保し事業としての流れができるまでは、とにかく「根性でやりきる!」みたいな感じでしたね。
近藤:すごく共感します。私たちも似たようなことをやっていて、まずは全国各地にある産廃協会と、ひたすらコミュニケーションをとりました。毎年1月に各地域で産廃協会の方が集まる会があるのですが、それにも全て顔を出して。そうやって事業者の声をたくさん聞くなど、木村さんの言う「流れ」をつくるための下地を固めていきました。
木村: PMFだ、ユニットエコノミクスだと言われますが、結局のところ、その指標に落ちるところまでいかない事業がほとんどなんですよね。だからこそ、その前段階でどれだけ頑張れるか、やり切れるか。全てはそこにかかっているんじゃないかと思います。
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