【リクルートシニアPdMの思考File vol.05】物事の枠組み・文脈を定義し、メンバーの創造性とチームの可能性を最大化。複雑な力学を操る思考法 —室長片山雄介

  
  
       

プロダクトマネジメントは、フレームワークの提案や発信は進んでいる一方で、明確な「型」がまだ広く浸透しているとは言い難い領域です。だからこそPdMには、通常の視点にとどまらない、より高い視座が求められます。
特に大規模かつ多層的な事業においては、既存のフレームワークをなぞるだけでは突破できない壁が存在します。

リクルートには、多様な領域で“突き抜けた強み”を持つシニアPdMが在籍しています。彼らはいかにして複雑な事象を構造化し、最適解を導き出しているのか。本連載では、社内でも一目置かれる「異能」たちの独自の思考プロセスに焦点を当てます。

今回フォーカスするのは、リクルートのシニア PdM である片山雄介の独自思考。『SUUMO』や『Indeed PLUS』をはじめとする全社規模の巨大プロジェクトなど、不確実性の高い領域で手腕を発揮してきた片山の思考の根底に流れる哲学。
それは、プロジェクトに潜む複雑な力学を調整し、自ら枠組みを定義する考え方です。正解がない中で、どのように推進し、チームの可能性を最大化しているのか。インタビューを通じて、その思考の深淵に迫ります。


プロジェクトの複雑な力学を操る片山雄介の思考法「物事の枠組み・文脈を定義し、メンバーの創造性とチームの可能性を最大化する」

——片山さんは全社規模の巨大プロジェクトをいくつも牽引されてきました。 関係者も多く、正解のないプロジェクトを進める際、はじめにどのようなこと を意識されているのでしょうか。

片山:新規事業であれ既存の巨大プロダクトであれ、大規模なプロジェクトというのは不確実性の高い要素が多く、それらが複雑に絡み合っています。失敗しないために不確実性は減らすべきではあるけれど、事前になくすことができない(なくせたとしても膨大なコスト・時間がかかる)ものも中には存在します。
これらすべての不確実性(=わからないこと)を事前に明らかにしようとすると、かえって物事の進みが悪くなることがある。これを意識してプロジェクトを進めるよう心がけています。

僕は「事前にどれだけ検討しても、わからないことは必ずある」「わかるためには、コストも時間もかかるから、事前に検討すべきではないものがある」という前提を置いて物事を考えます。すべての事柄に対して、失敗しないように前もって思いを馳せることで、コストも時間もかかってしまうと、結果的に効率が悪くなる。
それならば、失敗してもダメージが少ない環境を定義した上で、いわば「うまく問題を起こして、そこで起きた“明確な”問題に対処する」ほうが効率的である。この枠組みを作ることによって、チーム全体が効率的に意思決定ができる。そういった力学を作ることを意識しています。

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片山 雄介(かたやま・ゆうすけ)/(株)リクルート プロダクト開発 サービスデザイン室室長・販促領域プロダクトデザイン1ユニット(住まい)VP

——なるほど。確かにいくら綿密に計画を立てたところで、事前にすべてを見通すことは不可能です。

片山:一つ例を挙げます。あるプロダクトのリニューアルをするにあたり 、 従来の掲載課金型のモデルからクリック課金型のモデルへと移行する際、「リニューアルに際し、こういった機能がないと効果が上がらない」「逆にこの機能を削除すると効果が減るかもしれない」といった様々な不確実性が存在しました。

しかし、推進していく上で発生するであろう問題を、事前にすべて決め切るなんて無理でした。見極めようとすればするほど、「こういうリスクがあるよね」という声の中に、本当かどうかわからない「ただの不安」などのノイズが混ざってくる。それを全部カバーしようとすれば、平気で2 年、3 年とプロジ ェクトが遅れていきます。

——現場の不安をすべて潰そうとする議論が、かえってプロジェクトの遅延リスクになってしまうわけですね。そうしたジレンマを、どう突破したのでしょうか?

片山:リニューアルの対象エリアを絞るなど、致命傷にならない範囲をうまく定義し、「失敗できる砂場(サンドボックス)」を作り、まずは小さくリリースしてみるんです。そして、実際に起こった(確実なものになった)問題に対して対応することで、結果的に効率的なプロジェクト推進になります。
こういった考え方をチーム全体に引くことは、「枠組み」をコントロールす るということです。不確実で捉えどころのないプロジェクトに対して、「起きるかもしれない」ことは思い切って後回しにする。そうやって今解くべきこととの境界線を自ら引き、自分たちの手で意図的に枠組みを定めていくんです。

——プロジェクトに潜む複雑な力学を調整し、自ら枠組みを定義する。片山さんは、この「枠組みを規定し、コントロールする」ということを人一倍強く意識されているのですね。

片山:そうですね。実はこの「枠組みのコントロール」という考え方は、単にプロジェクトの進行管理だけの話ではありません。これからお話しする「チームづくり」「現場の可能性(クリエイティビティ)の最大化」という、大規模プロジェクトを動かすためのあらゆる局面に通底しているコアの考え方なんです。
プロジェクトの枠組みをうまく規定し複雑な力学をコントロールできれば、チームのクリエイティビティと自走度を最大化させられる。そのための思考法といえます。

【チームづくり】目的とスコープで枠を引く。変化し続ける組織設計

——では、「枠組み」をコントロールすることによって現場の可能性を最大化させる、具体的なアプローチについて教えてください。

片山:まず大前提として、僕が何より大事にしているのは「物事が早く進み、かつ現場がクリエイティビティを最大限に発揮できる状態を作ること」です。そのうえで、それを実現するために、どんな枠組みが必要かを考えてチームづくりをしています。

大規模プロジェクトにおいて、物事が進まなくなる原因のひとつに「チームの組み方の失敗」があります。例えば、企画、開発、営業といった「機能(職能)別」で切られている組織の場合、プロジェクトを進める際も、その組織図に引っ張られて、業務設計、画面設計、開発…と「役割別」でチームを作ってしまうケースがあります。他にも、目的を再分化しすぎてチームを作ってしまうケースもあります。

でも、人はみな「自分に見えている世界の範囲内」で最適化を図ろうとする生き物です。企画には企画の世界が、開発には開発の世界がある。工程や役割でチームを分けると狭いスコープでの最適化になり、全体の最適化につながらなくなります。また、仕様を決めるのにもすべてのチームがすべての目的の会議に出なければいけなくなってしまう。全員が全体像を理解し、すべての物事で整合性を取る必要が出てくるため、コミュニケーションコストが膨れ上がり、必ず混乱します。僕も過去、こういったスタイルのプロジェクトでうまく推進できなかったことがありました。

会社の組織図が機能別になっていたとしても、プロジェクトを前進させる時の切り方としては、それに引っ張られてはいけないし、目的別に区切ったとしても目的を再分化しすぎるとうまくいかないケースもあります。

——人によって見えている世界が異なることを捉え、その上で「プロジェクト を進めるための枠組み」を最適化して構築し直す必要があると。では、どのよ うにチームの枠を引くのが正解なのでしょうか?

片山:「目的別で、可能な限り目的を実現するための体験が線でつながり、途中で分断しないように」分けるんです。簡単な例でいうと、「アンケートシステム」を作る際、回答画面を作るチームと設計画面を作るチームを別にするよりも、同じチームのほうがスムーズなことは明らかだと思います。大きなプロ ジェクトでも、こういったことを意識してチームを分けています。その目的を成し遂げるために必要なケイパビリティ(企画、フロント、開発、業務設計など)を持つ人を目的とスコープ(システムや業務の影響範囲)で区切ってそこに集める。

そうやって、「そのチームだけで意思決定し、自走できる状態」を作るんで す。そうすれば、その目的に関わらない人は会議に出なくて済むので、進行がすごくシャープになります。

ただ、この枠組みは一回作ったら終わりではありません。「フェーズ」によって最適な境界線は変わるため、常に変え続けることが大事です。最初は細分化せず、リーダー数人だけで集まって問いとスコープを決める。そして、切り出せる範囲が見えてきた瞬間に、初めてチームを作って渡していく。リニューアルの時も、必要になった際、その都度変えていました。

——頻繁にチームが変わると、現場でハレーションは起きませんか?

片山:メンバーに対しては常日頃から「状況に応じて適切な形は変わる」ということを前提にした会話を心がけていますし、そこに納得度があればハレーションはあまり起きません。むしろ、スムーズに事が進むと歓迎してもらえます。

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【現場の可能性】「どこを攻めるか」は閉じ、「どうやるか」は開く。抽象度の ダイヤル調整

——チーム編成など様々な枠組みが変わっていくなかで、現場の自走やメンバーの能力を最大化させるために、具体的にどのようなアプローチをとっているのでしょうか。

片山:僕自身が「なぜこの判断をしたのか」「なぜこの優先順位なのか」といったことを、定例会議などで繰り返し説明し続けます。何度も繰り返し伝えることで、メンバーは「片山はこういう考え方をするな」と理解し、それが共通言語になり、自走の土台になります。
その上で、僕は現場に対して「自分の想像を超えるアウトプットを出してほしい」と強く期待しています。メンバーのクリエイティビティを発揮させるためには、「How(どうやるか)」まですべて決めてはいけません。一人ひとりに対して、こちらが「どこまでを決めて、どう伝えるのか」を丁寧に考える必要があります。

——メンバーの可能性を信じて任せているのですね。

片山:はい。ただ、信じている一方で、冷静に見ている部分もあります。人にはそれぞれ、最高のパフォーマンスが発揮できる「ツボ」のようなものがあるんです。例えばジュニア層のメンバーに、いきなり大きすぎる球(抽象度の高い課題)を投げても打ち返せません。
だからこそ、一人ひとりへの任せ方を考え、その人に合った枠組みをこちら で規定して任せるんです。課題の抽象度は、いわばクリエイティビティの「割り当て量」を決めるダイヤ ルです。同じ問題でも、渡す相手の力量によって「課題文が規定する枠組みの広さ」は変えなければなりません。

例えば、ある民泊サービス において、「宿の画像品質が悪く、予約が増えな い」という問題があったとします。この際、メンバーに対する仕事の渡し方はシニア層・ミドル層・ジュニア層によって次のように変わります。

・シニア層へ(課題設定ごと委ねる):「画像品質が予約率を下げている。どこを攻めるべきか?」と、課題設定そのものから委ねる。

・ミドル層へ(手段を開く):「誰もがプロに無料で頼める状態を作る」のように、攻め口(カメラマンを変える)は固定しつつ、仕組みづくりは委ねる。ここが最も創造性が発火しやすいスイートスポット。

・ジュニア層へ(実行を閉じる):例えば「プロカメラマン 20人と契約し、予約フローを作る」といった形で、“実行の枠組み”を閉じる。迷子にならず、実行の中での工夫に創造性を絞ってもらうため。

閉じすぎればただの実行になり、モチベーションを削ぐ。開きすぎれば迷子になり、無難な一般解に逃げてしまう。相手の中で最大のクリエイティビティが発火する抽象度にダイヤルを合わせ、彼らが活躍できる枠組みを規定することがマネジメントの役割です。

——その抽象度を見極め、調整していく中で、ステークホルダー間で意見が衝突することもあると思います。

片山:意見が衝突するからこそ、良いアイデアに着地することもあるように思います。僕自身、そんな時にはあえてこちらの「スタンス」を強く打ち出すこともある。「プロダクトとしてはここまで振り切りたい。どうでしょうか?」 と、極端な球を投げたりします。

「〇〇の部署はこういうと思うから」と勝手に中途半端な落としどころを探っても、誰も幸せになれません。あえてスタンスをとって意見を言い、それに懸念があるなら懸念に思う人が声を上げる。そこで初めて、論点の「外形」が掴めるんです。外形が見えてから、みんなで「じゃあ重心はどこにあるか」を探り合う。最初から美しい四角形を作ろうとするのではなく、ぶつかり合いながら見えていない境界線を明らかにしていく感覚ですね。

これはスタンスの取り方全般に言えることですが、極端に変革を推進したい人がいる時は、僕はあえて安定側に回ってリスクを指摘します。逆に、安定志向の人が多い場合は、僕が変革側に回って捨てる選択肢を提示する。常に偏りがある状態を意図的に壊していくんです。こういった議論が当たり前になるようなチームづくり(力学づくり)を心がけています。

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失敗の裏にある「原理」を解き明かす。独自思考のルーツ

——非常に洗練された思考法ですが、この「枠組みの規定」という考え方は、どのようにして培われたのでしょうか?

片山:過去のプロジェクトでの混乱など、数々の失敗から学んだ蓄積に尽きます。チームを細分化しすぎて全体像が見えなくなったりと、色々と失敗したことがあります。一方で、うまくいったプロジェクトもありました。僕は昔から、微分積分など、公式を丸暗記するのが苦手なタイプです。でも 「なぜそうなるのか」という裏のロジックを知ると、大体すべての問題が解けるようになる。仕事も同じで、自分の中で考え方やプロセスの一本筋が通っていないと、応用が利かない人間でして。だから、裏の原理を全部知りたがる。

うまくいった時も失敗した時も、「あの時、あの切り方をしたからミスったのか」といった部分まで言語化しないと気が済まないんです。

——ご自身の失敗体験を徹底的に言語化し、抽象化してきたからこそ、今の思考法があるのですね。

片山:そうですね。現場で決められず、結論が出せないままモヤモヤした状態を放置しておく自分が気持ち悪いんですよ。失敗したことにちゃんと悩み、ど うすればよかったのかを考え抜き、それを「考え方の型」としてドキュメントにまとめ続ける。

教える側が言語化できていないと、何も伝えられませんよね。だから僕は、自分がどうやって頭を使っているのかを言葉にして、定期的に整理・ドキュメント化しているんです。それを繰り返してきたからこそ、不確実な対象であっても、どこに線を引けばいいのかが少しずつ見えるようになってきたんだと思います。

——最後に、この記事を読んでいるシニアPdMの方へメッセージをお願いします。

片山:今の世の中、正解がわからないことなんて、たくさんあります。そんな環境下でPdMに求められるのは、「わからないことへの向き合い方と、その中でもチームのパフォーマンスを最大化させる力だと思っています。
僕自身、そうした不確実な状況を面白がりながら、現場の創造性を引き出せる存在でありたいですし、メンバ ーにもそれを期待しています。
そんな考え方に少しでも共感し、ご興味を持ってくださった方がいたら、ぜひ一緒に、世の中を驚かせるようなプロダクトを作っていけたら嬉しいです。

  

   記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。