【リクルート シニアPdMの独自思考vol.4】「三次元的なサークル」の中央に立ち、関係者全員のコンテキストを繋ぐ。不確実な巨大プロジェクトを成功に導くプロダクトマネジメント ー『ホットペッパーグルメ』今井隆文

  
  
       

プロダクトマネジメントは、フレームワークの提案や発信は進んでいる一方で、明確な「型」がまだ広く浸透しているとは言い難い領域です。だからこそPdMには、通常の視点にとどまらない、より高い視座が求められます。特に大規模かつ多層的な事業においては、既存のフレームワークをなぞるだけでは突破できない壁が存在します。

リクルートには、多様な領域で“突き抜けた強み”を持つシニアPdMが在籍しています。彼らはいかにして複雑な事象を構造化し、最適解を導き出しているのか。本連載では、社内でも一目置かれる「異能」たちの独自の思考プロセスに焦点を当てます。

今回フォーカスするのは、飲食領域プロダクトデザイン部でGMを務める今井隆文です。彼がPdMとして牽引した飲食事業の成長戦略「ウォークイン市場の開拓と『席押さえ』機能のリリース」は、飲食業界へ新たな挑戦に踏み出すプロジェクト。一部エリアでの検証においてカスタマーとクライアント双方から好意的な反応が得られ、2026年1月から全国展開されています。

未開拓の巨大マーケットへの挑戦、複雑に絡み合うステークホルダー、そして会社の期待も背負う中で、自身とチームに課した高いデリバリー目標。正解が誰にも分からない不確実性の中で、このプロジェクトを成功に導いた根底にある、今井ならではの「独自思考」に迫ります。

今井隆文の独自思考:「三次元的なサークル(輪)の中央」に立ち、コンテキストを繋ぐハブになる

――今井さんのプロダクトづくりを支える「独自思考」についてお伺いしたいです。PdMとしてプロジェクトを推進するにあたり、どのような意識や考え方で臨んでいるのでしょうか?


今井:私が大事にしているのは、「三次元的なサークル」の中央に自分を置き、関係者全員のコンテキスト(文脈・背景)を繋ぐハブになる、という思考です。

大規模なプロジェクトになると、経営層と現場の視座や立場の違いから不協和音が起きてしまうことが多々あります。でも、これってじつは対立しているわけではなく「単に知らないだけ」「誰も教えてあげていないだけ」ということがほとんどですよね。

であれば、 PdMがフラットな「輪」の中央に立ち、経営層から新人のエンジニアまで、様々な場所にいる人たちの中心でコミュニケーションを取って、プロジェクトがバラバラにならないように繋ぎ止める役割を担えばいいと考えています。

今井 隆文(いまい・たかふみ) /2018年に新卒でリクルート入社。『スタディサプリ進路』のプロダクト改善を経て、2020年に『ホットペッパーグルメ』へ異動。現在は飲食領域プロダクトデザイン部 飲食プロダクトデザイン1グループのGMを務める。シニアPdMとしてカスタマー向けアプリの開発を牽引。組織のヒューマンマネジメントとプロダクトマネジメントを半々で担い、「プロダクトという武器を使いながら事業成長を牽引する」ポジション。


――「三次元的」な輪、というのはどういう意味ですか?

今井:同じプロジェクトに携わっていても、レイヤーによって視座の高さや、考えているレベル感は異なりますよね。だからこそ、PdMは上下(縦軸)の移動を含めた「立体的な動き」をする必要があります。

たとえば、現場が抱えている細かな課題をそのまま経営層に伝えても、それは必ずしも全員で共有すべき論点ではない場合もあります。逆に、経営層が懸念するリスクの話を現場にそのまま伝えても、なかなかピンとこないこともあります。

そこでPdMが三次元の空間を縦横無尽に移動し、「この階層に立ったら、こういう言葉に変換して伝えよう」「ここではこの論点を握ろう」と、自らがハブとなって情報を翻訳し、全員の目線を揃え続ける。これが、不確実なプロジェクトを最速で進めるための、私の基本的なスタンスです。

特に大規模なプロジェクトや、不確実性の高いプロジェクトの場合は、フェーズごとに各ステークホルダーへの合意形成やリスクヘッジなどを綿密に行っておかないと、どこかで破綻を招いてしまいます。PdMとしてそこを完全にやり切ることにかけては、かなり心を砕いていますね。調整役になるのではなく、各ステークホルダーが納得して価値あるプロダクトを作るために、然るべきタイミングでやるべきことを、常に最良の方法を選び取りつつやっているという感覚です。

予約なしの来店に着目。『ウォークイン領域』への挑戦

――そうした今井さんの思考は、日々のお仕事のなかでどのように発揮されているのでしょうか? 具体的なプロジェクトの事例を交えて教えてください。


今井:2018年に新卒でリクルートに入社し、最初は『スタディサプリ進路』のプロダクト改善などを担当しました。2020年から『ホットペッパーグルメ』に異動し、現在は飲食領域プロダクトデザイン1グループのGMとして、カスタマー(一般消費者)向けアプリを中心としたサービス開発の責任者を務めています。役割としては、組織のヒューマンマネジメントとプロダクトマネジメントを半々で担い、「プロダクトという武器を使いながら事業成長を牽引する」ポジションですね。

直近の事例でいえば、現在まさに取り組んでいる「ウォークイン市場の開拓と『席押さえ』機能のリリース」です。

外食マーケットにおいては、事前にきっちり予約をしてお店に行くケースよりも、「今からご飯行こうよ」「仕事帰りにちょっと寄っていこう」といった、直接来店(ウォークイン)されるケースが日常的に見られます。

当社が実施した調査によると、事前に予約を受け付けている飲食店においても、来店客の約63%が「予約なし(ウォークイン)」で来店していることが分かっています※1。

加えて、カスタマーがお店を決めるまでの時間が短いケースにも対応するため、即時性が求められています。そこで事業としてこの未開拓市場に大きく踏み込むことを決断し、その一つの「How」として打ち出したのが、直前に空席を探して確保できる「席押さえ」機能でした。私はそのプロダクト開発サイドのリードを務めています。

※1 出典:株式会社リクルート プレスリリース「『ホットペッパーグルメ』「席押さえ」機能を全国で提供開始」(2026年1月発行)

今井:このプロジェクトにおいては、先ほどお話したような「三次元的な輪の中心で、縦横無尽に動き回る」といった思考が、大いに役立ったと感じています。

というのも、新しいマーケットなだけに「正解のUXが誰にもわからない」という極めて高い不確実性に加え、会社の事業として大きく踏み込むことになるプロジェクトであるため関係者の数もレイヤーも多かった。ボード陣やVP(ヴァイスプレジデント)、営業、 マーケティング、法務など、多様な関係者が関与し、それぞれが異なる視点からの意見を持っていました。こうした課題を解決しつつ開発の品質とスピードを担保するためには、各所の意見を取りまとめるだけでなく、自ら明確な方針を示して意思決定を推進するような立ち回りが求められたんです。

――それが「三次元的な輪の中央に自らを置き、関係者全員のハブになる」というアプローチですね。それは、プロジェクトの各フェーズでどのように発揮されたのでしょうか?

今井:まずはプロジェクトの超初期段階、経営層との合意形成のフェーズですね。プロジェクトは「スタートで全てが決まる」と思っています。初期の合意形成をミスると、後からどれだけ優秀な人がチューニングしても失敗します。

特に今回はステークホルダーが非常に多かったため、抽象論での議論を徹底的に排除しました。「なんとなくこんな感じになります」ではなく、超初期の段階から手触り感のある画面のモックアップを大量に作り、トップに対して「最終形を具体的にイメージしてもらう」ことに注力しました。

そのうえで、「我々はこの体験を通じてカスタマーにこういう価値を提供したい。だから、必然的にこの画面でこういう設計になりますよね?」と、一つひとつの意図を丁寧に説明しました。様々な選択肢がある中で、「なぜこのUXなのか」という合意を初期段階で“握り切る”ことに時間をかけました。 ちなみに、こうした合意形成のことを、チーム内では「ピン留め」と呼んでいます。

――タイトな開発スケジュールのなかでも、初期段階でのピン留めをおろそかにせず、じっくり時間をかけたと。

今井:そうですね。なぜかというと、その後の開発フェーズで現場に「余白(裁量)」を渡し、爆速で開発を進めるためです。初期にピン留めが完了していれば、あとはプロダクト開発に集中できます。

「確認してきます」「自分だけでは決められません」と即断できずに持ち帰る時間が一番の無駄ですよね。初期に重たい意思決定を終わらせたことで、開発フェーズに入ってからはほとんど前提条件に立ち戻る必要がなくなり、手戻りを最小限に抑えた爆速開発が可能になりました。

――なるほど。そうやって経営層から現場まで全員で「ピン留め」をするために必要なのが、「三次元的サークルのなかで上下に行き来をするPdM」の役割なわけですね

今井:はい。不確実性の高い新規案件の場合は、経営層は常に「本当に大丈夫か?」という漠然とした不安を抱えています。ここで合意を曖昧にしたまま進めると、後で方針がひっくり返り、開発現場が混乱してしまいかねません。

だからこそ私の役割は、具体的な画面(プロトタイプ)を見せて経営層の不安を取り除き、認識のズレを防ぐことでした。上層部を安心させて方針を固めることで、初めて現場に大きな裁量を渡し、圧倒的なスピードで開発を進めることができるからです。

対経営層はロジカルに、対現場は本音で。レイヤーごとに立ち回りを変える

――最初に大まかなUXの合意を握っていたとしても、開発では想定外のトラブルも起こります。そうした時に今井さんは“ハブ”として、いかに立ち回ったのでしょうか?

今井:実はリリース直前のテスト段階で、いくつか気になるバグが見つかりました。自分たちでかなり“攻めた納期”を設定していたこともあり、正直「これは予定通りリリースできないかもしれない」と冷や汗をかきましたね。

――なかなかヒリヒリする状況ですね…。どう乗り越えたのですか?

今井:朝一番に対応判断の振り分けを全て終わらせてチームに申し送る、という日々をリリース前週まで続けていました。

この時、私が意識的に実践していたのは、「超先回りのリスクヘッジ」です。こういった状況を放っておくと関係者や対応するチームにも不安が広がる原因になります。

そこで私は、チームには「この基準で振り分けるから、目の前の修正だけに集中してくれ」と安心させつつ、一方でVP陣を全員集めて状況を赤裸々に共有しました。「今こういう危機的状況ですが、最悪のケースを想定したプランBとプランCを用意しています。この日のこのチェックポイントで基準を満たさなければプランBに切り替えます」と、先回りしてコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の合意に向けて動きました。確実なロジックと代替案によって経営層に安心感を与え、結果的にチームのモメンタムを守り抜くことができました。

――対経営層へのロジカルなアプローチの一方で、今井さんの現場へのアプローチは非常に「泥臭い」ように感じます。

今井:そうですね。先ほどの「三次元の移動」の話でいうと、そうやってレイヤーごとに聞き方・伝え方を変えながら、全体として最適な情報流通ができている状態を実現するのが、PdMの役割なんです。たとえば現場のエンジニアの困りごとは、俯瞰した全体会議の場からは見えてきません。

だから私は、障害やバグが起きた際、抽象的なインシデント報告のドキュメントで済ませるのではなく、現場エンジニアのデスクまで行って一緒に 「あのバグって、なんだろうね」とフランクに直接対話をします。「何件の障害が発生して品質が…」という上段の言葉ではなく、彼らのレイヤーの言葉で、同じ画面を見ながら話すようにしていますね。

また、PdMとして難しい判断を迫られた時は、無理に強がるのではなく 「一回冷静になって考えるわ」と本音も開示します。こうした単なるタスク管理を超えた泥臭いコミュニケーションの積み重ねが、強固な信頼関係を生み、全員で成功を信じられる状態を作り出すのだと信じています。

リクルートで発揮するPdMの真価。「AIだけでは拾いきれない生々しいコンテキストを繋ぐ」

――そうした取り組みの結果、プロジェクトはどのような成果を収めましたか?

今井:複雑な利害関係や不確実性を乗り越え、一部エリアでの初期リリースをスケジュール通りに達成しました。結果として、当初掲げていた目標値を上回るアクション数(直前に空席を探して確保する動き)を記録し、今年1月には全国展開へのGO判定を獲得することができました。世の中に新しい体験を届け、これだけの規模で数字を出せたことは大きな成果です。

ただ、本当の勝負はこれからだと思っています。世に出したことで、カスタマーからのフィードバックや、クライアントである飲食店からの声、想定外のトラブルなど、生きたデータが毎日入ってきています。今まさに学習を回し、戦略を練り直している最中であり、まだ成否を語れるフェーズではないのかなと。

――最後に、この記事を読んでいる他社のシニアPdMや、リクルートに興味を持っている方へメッセージをお願いします。

今井:これからAIがさらに進化すれば、自分の席に留まって行う業務はどんどん自動化・効率化されていくでしょう。そんな時代に人間のPdMに求められる最も重要な価値は、自ら現場や経営層のところまで足を運び、AIでは拾いきれない「生々しいコンテキスト」を集め、繋ぎ合わせることだと思っています。その点、リクルートでは多くのPdMが私のようにレイヤーを問わず縦横無尽に動き回り、コンテキストを繋ぐことを当たり前のようにやっています。

そうした自由度の高い動きが可能なのは、リクルートに「意思ある人間を、いい大人たちが全力でバックアップする」というカルチャーがあるからです。今もし、「本当はこういうアプローチで本質的な事業成長を仕掛けたいのに、会社の役割や制約があってできていない」という思いを抱えている方がいるのなら、リクルートに興味を持ってもらえたら嬉しいです。あなたが「やりたいのにできていないこと」は、リクルートなら実現できるかもしれません。私自身も、そういう熱量を持った方と一緒に、これからの世の中を変えるようなチャレンジをしたいですね。

  

   記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。