組織で実現するUX~アナリティクス編 ② ~NETサービスにおける顧客ファーストな戦略づくり
間宮 浩平
こんにちは。
ウェブアナリティクスグループ(以下WAG) のマネージャーをしている間宮と申します。
WAGではアナリストとしての基礎スキル、付加スキルを分解し、それぞれ4段階のレベルを定義していて、それぞれの強みを活かした個性的なアナリスト集団となることを目指しています。
それにより、メンバーひとりひとりが、それぞれの強み(個性)を活かしナレッジを共有し合いながら、アナリティクス領域の進化を図っています。
前回は、サービスコンセプトの開発からPDCAまでの一連の流れについて、事例を踏まえてご紹介しました。
今回は実際に実践している(私なりの)分析時の「心構え」について、マーケティング戦略に関わる分析事例を踏まえて少しご紹介したいと思います。前回記事はこちら
1.固定観念を捨て、常に顧客目線で全てのことを疑う。
市場のカテゴリーは、我々サービス提供者サイドのSCM(サプライチェーン・マネジメント)の観点や管理会計上の特性から「管理のしやすさ」で作り上げられていることが多いのですが、こうした提供者目線の「括り」はサービス利用者にとって最適な「括り」でないこともあります。
例えば、旅行業界では「国内旅行」「海外旅行」といったカテゴリーで管理されていることが多く、「パンフレットの棚」などカスタマーとのタッチポイントでも、こうしたカテゴリーが反映されてしまっています。
私個人としては旅行を探す際に、この「括り」の方がわかりやすいのですが、果たして全ての人にとって最適なカテゴリーなのでしょうか?
もしかしたら、旅行者の中には「癒されたい」と思い、「ハワイ」と「沖縄」を同時に比較するかもしれませんし、「リゾート」と「温泉」を一緒に比較するかもしれません。
こんな風に、我々アナリストがサービスの基礎分析に関わる際には、まずカスタマー目線でマーケットを再定義していくところから取り掛かります。
カスタマーが期待するベネフィットを可視化するプロセスについては前回の記事でも書いていますが、そうして抽出されたベネフィットによってマーケットを再定義していきます。
この分析は、特に足元のマーケットが成熟している中で更に事業を拡大していくケース、もしくはニッチャーとしてリソースを集中投下していく領域を選定するケースなど、新たな白地を探索し投下すべき資源の再定義(戦略の見直し)を行う際に重要な示唆をもたらしてくれます。
実際にこうした分析を行いブランド戦略のリニューアルをしたあるサービスのKPIはそれまでの約2倍の伸長率を達成しています。
2.分析結果は活かされてなんぼ。社内に浸透してはじめてカスタマーファーストに。
セグメンテーションには様々なメソッドが存在しますが、どのようなメソッドを採用するかはそのサービスにおいて「戦略性」「捕捉性」「切れ味」「実効性」「浸透性」を最も担保できるものは何か、という観点で見定めていきます。
価値観などの「切れ味」などを追いすぎると「捕捉性」がトレードオフになりやすいなど、それぞれの観点は互いに関係し合っています。
「戦略性」…セグメント毎のイシューが明確で事業課題とリンクしているか
「捕捉性」…各セグメントのカスタマーを捕捉できるか(オンライン上のログで再現できるか)
「切れ味」…何がカスタマーを分類する最も強い因子となるのか
「実効性」…各セグメントに対する「プロダクト」「プロモーション/集客」「コンテンツ」などの効果の見込める施策がイメージできるか
「浸透性」…対内外のコミュミケーションコンセプトがシャープにイメージできるか
「捕捉性」の観点では、作成したセグメントをオンライン上で再現できるのか、どうすればオンライン上で再現きるのか?を考えます。
WEBサービスの大きな特徴は、耐久消費財や日用品と異なり、よりOne-to-Oneのサービス体験を提供できるハードルが低いということではないでしょうか。
最近ではDMPなどのオーディエンスデータなどでカスタマーセグメントを再現できる環境が整いつつありますし、マーケティングオートメーションのツールなどを活用しながらオフラインからCVまでのコミュニケーションを極めて「One-to-One」に近い形でマネジメントしていくことが可能になってきています。
「浸透性」の観点では、顧客とのタッチポイントを管理する全ての部署で共通の認識を直観的に持てるようなセグメント攻略のスローガンを作ることが大切だと考えています。
特に嗜好性や価値観のセグメントをベースに作った際は、戦略上のイシューとの紐づけ(戦略性)とスローガン化が戦略遂行のKSFとなってきます。
このような観点を大切にしながら、最適なセグメントを探索していきます。実際は相当数のトライ&エラーの繰り返しですが、セグメンテーションは戦略の肝です。ですから、アナリストには大きなスキームから細部の分析業務まで、しっかりと監修し品質を担保していくことが求められるのと同時に、現場感を持つことも求められていると感じています。
3.脱最大公約数へ。多様なお客様ニーズに寄り添うために。
ファネル分析はとてもわかりやすく、最近ではオーソドックスな分析として扱われていますが、ファネルを見誤るとそれ自体がサービス成長の制約となってしまうこともあります。
先ほどのサービスとは異なる事例なのですが、あるサービスでカスタマーの導線をコホート分析で可視化していきました。
具体的には決定木分析などを用いてファネル間移行のKSFを探索していったのですが、分析を進めていくうちに、操作説明を通り越して自分なりに色々とサービスを触ってみた人の方がその後アクティブ化しやすいことがわかりました。
当初は登録→操作説明(チュートリアル)→アクティベーション・・・という流れであるという仮説を立てていたのですが、仮説と異なる結果となりました。
このサービスは立ち上げて間もないフェーズだったのですが、分析を進めて行くと、さきほどの結果はイノベーター気質のカスタマーが多いという立ち上げ期特有の要因が影響していることもわかりました。
更に、アクティブ化するまでの流れを分類(セグメント化)していくと、自分流に操作しながら覚えたい人と、ちゃんと説明を受けた上で操作したい人とで組むべきファネルやKPIに至るまでの中間指標が異なるということもわかりました。
サービスの立ち上げ期ではイノベーター気質の人の構成比が高いことが多いのですが、こうしたログをベースにサービスを磨いていくと、この先サービスが市場に浸透していった際にマジョリティとなるであろうカスタマーの期待値からどんどん乖離していく、といった中長期的なリスクがあります。
とはいえ足元では、キャズムを越えるまでは「今目の前にいるお客様」のログをベースにサービスをグロースさせていく必要もあります。
SMTP(Segmentation Multi Targeting Positioning)のスキームを用いることで、短期的なターゲットと中長期的なカスタマーをセグメントに対して、異なるプロダクト設計をしていくことが可能となりこうしたジレンマも解消されるのです。
さて、本日ご紹介した事例は全て実際にリクルートのサービスで行った分析です。
このように、リクルートテクノロジーズには、サービスの主体者としても分析のスペシャリストとしても活躍できる幅広い舞台が用意されています。