AI活用は目的じゃない。変化に強いデザイン組織をつくるための半年間

  
  
       

はじめに:AI活用は、組織を強くするための手段だった

こんにちは、デザインマネジメントユニットの熊崎です。

最近、「AI活用」という言葉を聞かない日はありません。

ChatGPT、Gemini、Claude。新しいツールや活用法が次々と登場し、SNSにも毎日のように活用事例が流れてきます。

私たちのデザイン組織でも、デザインレビュー、リサーチ、プロトタイピング、デザインシステムなど、現場ではAIを活用した実践が日々生まれていました。

一方で、多くの組織が直面している通り、現場では「情報過多による疲弊」や「検証した知見が個人の中で完結してしまう」といった悩みも聞こえてくるようになりました。

情報が多すぎて追いきれない。
良い取り組みはあるのに、組織全体の力になりきっていない。

私は昨年10月より、横断デザイン組織でAI活用推進を担当することになりました。リクルートのデザイン組織であるデザインマネジメントユニット(以降デザマネ)は、100名規模のデザイン組織です。

個人の挑戦や成果は、すでに数多く生まれていました。

次のテーマは、AIを使うことではなく、個人の試行や学びを組織全体の力へ変えること。

新しい技術が現れても、組織として学び続け、取り込み続けられる状態をつくること。AI活用は、そのための重要な手段です。

この半年間、その仕組みづくりに取り組みました。



1. 個人の試行や学びを組織の力へ変える3つの壁

私たちの組織には、AIを積極的に活用し成果を生み出しているメンバーが数多くいました。

一方で、それらの知見や実践を組織全体へ広げようとすると、いくつかの構造的な壁が見えてきました。

① 個人の知見が広がりにくい壁

「こんなプロンプトを使ったら良かった!」「この業務が効率化できた!」

そんな発見は日々生まれていました。

一方で、それらが個人のSlack投稿やチーム内での共有にとどまり、組織全体の知見や資産として蓄積されにくい構造がありました。

② 検証の優先度の壁

AIは日々進化しています。

だからこそ継続的な検証が欠かせません。

しかし、日常業務が忙しい中では、AIの検証は後回しになりがちです。

意志や熱量だけに頼るのではなく、組織として「検証すること自体が価値である」と位置づける仕組みが必要でした。

③ 点の成果を面へ広げる壁

あるチームで成果が出た取り組みも、そのまま他のプロダクトで再現できるとは限りません。

多様なプロダクトや専門性を持つ組織だからこそ、成功事例を横展開し、組織全体の共通施策へつなげるには、共有だけではない一段上の仕掛けが必要でした。

根本にあったのは、個人の熱量を組織の力へ変えること

これらは、AI活用が進んでいなかったから生まれた課題ではありません。

熱量のある個人が自ら試し、成果を生み出していたからこそ見えてきた壁でした。

だから私たちが目指したのは、AIをもっと使うことではありません。

個人の熱量や学びを、組織全体の力へ変えていくこと。

人が入れ替わっても、業務が忙しくなっても、学びが積み上がり続ける状態。

そのために設計したのが、「AI活用循環モデル」です。


2. 私たちが作ったのはAI施策ではなく「循環モデル」

そこで私が目指したのは、「誰かの熱量に頼らなくても、ナレッジが流れる仕組み」を作ることでした。

名付けるとすれば、AI活用の循環モデルです。

個人が試して気づく。
それがチームで検証・共有される。
組織全体にナレッジが広がる。
また新たな個人の試みが生まれる。

このサイクルを回すことを目指しました。

社外を見渡しても、大規模プロダクトのデザイン業務が、一発ですべて変わる魔法の一手はまだありません。

AIは毎月のように変化します。今日の正解が、半年後にも正解とは限りません。

だからこそ、「正解の活用法」を1つ作るよりも、学びが循環し続ける組織を作る方が重要だと考えました。

小さな動きが止まらずに回り続ける仕組みがあれば、組織は少しずつ変わっていく。AI技術が進化しても、組織として取り込み続けられる。

そう考えて、この循環モデルを設計しました。


3. 循環モデルを支える3つの仕組み

循環モデルを実現するために、役割を3つの層に分けました。

第1層:全メンバー──ミッションで「使う理由」を作る

デザマネメンバー全員に、AI活用のミッションを設定しました。業務の5%程度をAI活用にあてるイメージです。

全員にミッションを設定するのは、一見すると負荷にも見えます。

ただ、各領域のデザインマネジャーも、自分のグループでAI活用を促したいという思いはありました。一方で、AI活用にまだ明確な正解がない中、各自がバラバラに模索するのは難しい状況でした。

そこで、デザマネ横断で仕組みを作ることで、個人が試した結果が蓄積され、「今の社内での正解」が見えてくる状態を目指しました。

これはマネジャーにとっても、ゼロから答えを探すより、集合知を自チームに届ける方がずっと動きやすい。

そのような背景から、マネジャーたちもメンバーのミッション設定を協力的に進めてくれました。

第2層:デザマネAIアンバサダー──チームの橋渡し役

各領域から1〜2名を選出し、総勢16名のアンバサダーチームを組成しました。業務の10%程度をこの活動に使うイメージです。

アンバサダーの役割は、専門家になることではありません。

情報の橋渡し役です。

自分の領域での検証結果や試みを他のアンバサダーへ共有する。
他のアンバサダーからの情報を持ち帰り、自領域で展開する。
AI活用における困りごとを定例に持ち込む。

「Slackに流す」だけだと読まれない情報も、アンバサダーが噛み砕いて伝えてくれると届きやすくなります。

情報を置くのではなく、人が運ぶ。

この設計が、循環モデルを回すうえで重要でした。

第3層:委員会──組織全体の施策を回す

私も含む4名で構成するデザイン生産性向上委員会が、組織全体の検証状況を把握しました。

今何で困っているのか。困っていることを突破したチームはないか。アンバサダーから上がってくる声をもとに、組織全体へナレッジ共有する企画を立てたり、社外のイベント交渉を行ったりしました。

委員会は、組織の「背骨」になるポジションです。

また、アンバサダーから報告のあった検証の中から、汎用性の高い施策の兆しを見つけ、組織展開を前提とした検証を行い、組織としての効果を測る。

点を面に変える役割も担いました。


4. 循環を止めないための3つの運用

循環モデルを動かす「場」は3つです。

個人AI研究〜実用施策リスト

全メンバーが、自分のAI研究テーマと進捗を記録していくスプレッドシートです。

一番の価値は、誰が何を研究しているかが一覧で見えること。

「そのテーマ、うちのチームでも試していました」
「その業務なら私が先にやっているので相談に乗れます」

こうした横の連携が生まれます。

同じことを別々にゼロから試す、いわゆる車輪の再発明を防げるわけです。

下期が終わる頃には、158件が蓄積され、組織全体のAI活用の地図のようなものができあがっていました。

アンバサダー定例:月1回、1時間

16名のアンバサダーが集まる定例を、月次で運営しています。

アジェンダは、各チームの進捗共有、研究結果の共有、相談、最新ツール情報など。

チャット上で質問が飛んだり、困りごとを持ち込んで相談に乗り合ったりする時間にもなっています。

そしてこの定例で一番大事にしていることが、各アンバサダーが内容を自領域に持ち帰ることです。

アンバサダーが橋渡し役として機能することで、定例の場に来ていない80名にも情報が届く設計になっています。

デザマネAIナレシェア会:月1回

AIナレッジの共有イベントです。

通常は「ナレッジ共有」として、効果の高い施策やAI活用方法を、1回につき2〜3名が発表する形式にしています。

発表した人の手応えにもなりますし、見ている側にとっても「こんな使い方があるのか」という発見になります。

デザインマネジメント組織に限らず、オープンイベントとして開催してきました。

期末の最後2回は「研究発表会」として、下期を通じた個人研究の成果発表の場にしました。82シートの結果が集まり、組織外の方々も含めて平均150名が参加しました。


5. 半年間で何が変わったのか

半年間の取り組みを通じて、少しずつ成果が見えてきました。

  • 5回のナレッジシェア会に、1回あたり平均150名が参加

  • 82件の成果発表シートが集まる

  • 158件の研究が蓄積

  • アンバサダー満足度は4.2 / 5.0

  • アンバサダー16名の100%が満足度4以上

運用から半年後に、アンバサダー16名にアンケートを取りました。

満足度は4.2 / 5.0。全員から4以上という評価をいただき、手探りで始めた仕組みとしては、まずは継続できる土台ができたと感じています。

具体的には、こんな声がありました。

他チームがどんな使い方をしているか知ることができて視野が広がった。
定例があることで、情報を探しに行かなくても向こうから届く感じがある。

一方で、課題の声もありました。

情報量が多くて消化しきれない。
チームへの展開はまだ難しい。

インプットはできても、アウトプットが難しい

アンバサダーとして情報は得られる。

でも、「それを自チームの業務にどう落とすか」は、また別のスキルが必要です。

ここに応用の壁があります。

チームによって、プロダクトの実装方法も、業務プロセスも、デザイナーの人数も異なります。

一部のプロダクトでできた事例は参考になりますが、「自領域のプロダクトにどう落とし込むと効果的か?」は見えづらい。

これは、とても難易度の高い壁です。

ただ、この壁が見えたこと自体も、半年間の大きな学びでした。

今期はここに向き合うため、定例にワークショップの場も作っていく予定です。


6. 続いた理由はAIではなく、組織設計だった

ここまでを振り返ると、この仕組みが満足度の高い状態で継続できた理由は、AIツールそのものではありませんでした。

大事だったのは、組織設計です。

① ハードルを低くし続けた

最初から高い成果を求めると、誰も参加できなくなります。

ミッションも「5%試みること」という入口の低さにしました。定例も「雑談レベルで持ち寄るだけ」。施策一覧も「やることを選べる形式」。

始めやすさと続けやすさを、設計の最優先にしました。

② 学び続けられるイベントを作った

ルーティンだけでは、人の関心は続きません。

ナレシェア会や、外部の会社をお招きしたイベント勉強会など、現場で次に取り組もうとしていることをキャッチアップし、今欲しい旬な情報を共有することを意識しました。

AIは変化が速いからこそ、情報を固定化するより、学び続けられる場が必要でした。

③ AIを一部の人のものにしなかった

「やりたい人だけ」の自主参加では、参加する人が固定化されていきます。

全員に小さなミッションを設定することで、「関係のない話」から「自分ごと」に変わる人が出てきました。

各マネジャーが集合知を活用しながら自チームに展開してくれたことも、大きかったと思っています。

AI活用を、一部の詳しい人のものにしない。

組織として学ぶためには、この設計が重要でした。


7. ボトムアップだけでは組織は変わらない

循環モデルは、デザインマネジメント組織で立ち上げたボトムアップの取り組みです。

一方で、組織横断で別の動きがありました。それがParagonPJTです。

サービスデザイン室という、デザマネを含む3組織が、各組織でAI活用を推進することを目的として立ち上げられたプロジェクトで、組織としての成果を生み出す文脈の中で動いていました。

このプロジェクトをうまく活用することが、循環モデルだけではカバーできない部分を補ってくれました。

循環モデルの中で「これは効きそう」という兆しが見えてきたものが、Paragonの検証テーマに格上げされていく。

循環モデルが探索の場で、Paragonが組織レベルで証明する場。

そんな関係です。

探索だけでも、証明だけでも足りない。

個人やチームの試みを集めるボトムアップの仕組みと、組織として効果を測るトップダウンの仕組み。その両輪があって初めて、AI活用が自主的な文化から組織的な動きに変わっていくのだと感じました。

検証の一例として、AIセルフレビューの導入で1チームのレビュー効率が20%超改善したことや、AI最適化されたデザインシステム、デザイン構造のチェックリストの構築といった成果が出ました。

Paragonで成果が出た施策が「組織として装着の必然性が高い施策」として認知されることで、セクション1で挙げた「点の成果を組織全体へ広げる問題」に対して、一つの答えが見えてきたと感じています。


おわりに:AI活用より大事なのは、変化し続けられる組織を作ること

AIは日々変わっていきます。

今日のベストプラクティスが、半年後には古くなっていることも珍しくありません。

だから重要なのは、「一番AIに詳しい人」を増やすことではなく、組織全体が学び続けられる状態を作ることだと思っています。

今回ご紹介した取り組みも、AI活用そのものが目的ではありません。

変化の速い技術を、組織として取り込み続けられる状態をつくること。

AI活用は、そのための手段です。

まだまだ課題はあります。

個人の学びを、どうすればもっと組織の資産へ変えられるのか。今も試行錯誤の途中です。

それでも、この半年で感じたことがあります。

組織は、一人の熱量だけでは変わりません。

でも、学びが循環する仕組みは、人が入れ替わっても、少しずつ組織を前に進めてくれます。

AIの進化はこれからも続きます。

だからこそ私たちも、「AI活用」を追い続けるだけではなく、変化に強い組織を育て続けることに取り組んでいきたいと思います。

同じ課題を感じているデザインマネジャーやUI/UX推進担当者の方にとって、何かひとつでも参考になるものがあれば嬉しいです。

熊崎栄倫子 / リクルート デザインマネジメントユニット


  

   記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。