目次
はじめに
2026年3月26日、初の試みとして、リクルート本社オフィスにて 「産学連携技術交流会」 を開催しました。本イベントは、データサイエンスや機械学習の最前線で活躍する研究者の方々と当社のデータ組織のメンバーが一堂に会し、日頃から産学連携活動でお世話になっている関係者の皆様と技術交流を行う場です。
今回は、全国から計8大学・14もの研究室から先生方や意欲的な学生の皆様にお越しいただきました。
これほどのアカデミアの知がリクルート本社に集結するのは、当社の歴史上でも類を見ないイベントであり、会場はまさに「半日の学会」と言えるほどの熱気に包まれました。
当日は、京都大学の鹿島久嗣教授による基調講演をはじめ、社内外から計34件ものポスター発表が行われました。
本記事では、大盛況となった当日の様子を詳しくレポートします。
なぜ、産学連携が重要なのか?
それは、リクルートの研究開発(R&D)やプロダクト実装において、アカデミアの皆様との協働から生まれる技術や知見が「イノベーションの源泉」となっているからです。
一方で、大学での高度な研究を実際のプロダクトへ適用しようとすると、計算量やコスト、レイテンシなど、ビジネスの現場ならではのリアルな「壁」に直面します。このリアルなデータや課題と、大学の学術的な英知を直接ぶつけ合い、融合させることこそが、社会をアップデートする次なる技術革新を生み出す最短経路の1つだと私たちは考えています。
ビジネスの現場にあるリアルな課題と、大学発の最先端の知見を直接ぶつけ合うことで、これまで接点のなかった研究室同士の交流を促し、この場から全く新しい研究テーマやコラボレーションを生み出していきたい——。
そんな未来の技術革新に対する強い想いが、このイベントには込められています。
リクルート データ推進室の紹介
冒頭では、データ推進室 データテクノロジーラボ部長の高橋より、データ推進室の紹介からはじまり、リクルート社内における最新のR&D事例とプロダクト実装の壁について紹介がありました。
具体的な取り組みとして、以下の2点が共有されました。
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Transformerを用いたレコメンドリストの最適化
各アイテム単体のスコアリングだけでなく、「おとり効果」などアイテム間の相互影響を考慮し、Transformerを用いてリスト全体の最適化を図る取り組みです。膨大な組み合わせによる計算量増加への対策など、実プロダクト特有の課題と最適化手法について言及されました。 -
タスク特化SLM(小規模言語モデル)の開発と実装
LLMをサービスに組み込む際、レイテンシ、スループット、コストといった非機能要件の壁に直面することが多々あります。そこで、汎用的な巨大モデルではなく、SFT(Supervised Fine-Tuning)や知識蒸留を用いてタスクに特化したSLMを自前で構築・サービングする挑戦が紹介されました。
「リアルな課題を知ってもらい、研究室間の垣根を超えた新たなコラボレーションを生みたい」 と、本イベントに込めた期待を語りました 。
基調講演:人間とAIの協働による意思決定~「人間中心AI」 から 「AI集合知」 へ~
続いて、京都大学の鹿島久嗣教授が登壇。AIが単なる予測ツールから、人間のパートナー、さらにはAI同士が協働する 「集合知」 へと進化するパラダイムシフトについて、多角的な知見が共有されました。
ハイライトをいくつかご紹介します。
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「介入効果」予測とグラフ深層学習
- 単なる結果の予測にとどまらず、「あるアクション(介入)を行った場合と行わなかった場合の結果の差」を推定するアプローチです 。大量のユーザー間における口コミの波及や、膨大な化合物の構造式といった「グラフ構造」を有限次元ベクトルにエンコードする手法が紹介されました。
これにより、グラフ深層学習を用いることで、過去にデータのない未知の介入に対しても「ゼロショット」で効果を推定することが可能になります 。例えば、特定の薬剤投与という介入が体調にどのような変化をもたらすかといった、高度な予測への応用が期待されます。
- 単なる結果の予測にとどまらず、「あるアクション(介入)を行った場合と行わなかった場合の結果の差」を推定するアプローチです 。大量のユーザー間における口コミの波及や、膨大な化合物の構造式といった「グラフ構造」を有限次元ベクトルにエンコードする手法が紹介されました。
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Human-in-the-loop:主観的類似度の相対評価
- AIに「色」や「形」といった絶対的な基準をあらかじめ与えることなく、人間による「どちらとどちらが似ているか」という相対比較のみから概念を学習させる試みです。ワーカーの主観的な評価を統合することで、AIがデータの中に潜む重要な観点を自ら見つけ出し、意味のある分類モデルを構築できることが、本手法の大きな知見として紹介されました。
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XAI(説明可能AI)のゲーム化評価「Peek-a-Boom」
- AIが提示する根拠が本当に人間にとって有用かを測るため、「Peek-a-Boom」という2人協力ゲームを用いたユニークな評価手法です。XAI手法が画像のどこを開示するかを決定し、人間がそれを基に画像に映っている対象を推測できたスピードで根拠の確かさを定量評価します。
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LLMによる多基準意思決定支援と社会的意思決定
- 唯一の正解がない複雑な意思決定を支援する手法として、まずLLMとAHP(階層分析法)を組み合わせるアプローチが示されました。
- 複数人の利害が対立する資源配分問題において、公平性(EF1:1つの財を除けば妬みがない状態)をアルゴリズム(ラウンドロビンというアルゴリズム)の構造で厳密に担保しつつ、微分可能なシャッフル操作を通じて社会全体の効用を最適化する「ニューラル・ラウンドロビン」が紹介されました。
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AI集合知へ:LLM-in-the-loopとAutoML Arena
- 人間が行っていた役割をAIが代替し、AI同士が協働・競争する未来の展望です。汎用的なLLMが意味的・抽象的な特徴量を適応的に生成し、専門AI(ブースティング等)が厳密な最適化を行うハイブリッド手法や、複数のAutoMLエージェントをKaggleのようなリーダーボード上で競争させることで、単独よりも高い精度(特に回帰タスク)に到達するコンペティションの試みが共有されました。
- 人間が行っていた役割をAIが代替し、AI同士が協働・競争する未来の展望です。汎用的なLLMが意味的・抽象的な特徴量を適応的に生成し、専門AI(ブースティング等)が厳密な最適化を行うハイブリッド手法や、複数のAutoMLエージェントをKaggleのようなリーダーボード上で競争させることで、単独よりも高い精度(特に回帰タスク)に到達するコンペティションの試みが共有されました。
ポスター発表および飲食を交えた情報交換会
基調講演後は、データ推進室の室長の挨拶を皮切りに、ポスター発表・情報交換会へと移行しました。会場には食事やドリンクが用意され、参加者の皆様は飲食を片手にリラックスした雰囲気で交流を楽しんでいました。
合計34件のポスターが掲示され、数理最適化や機械学習、自然言語処理、人工知能といったデータサイエンスの王道を行く研究から、量子コンピューティングやHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)、サイバーフィジカルシステム、知的システムアプリケーションといった最先端の計算・基盤技術、そしてマルチエージェントシステム、計算社会科学、経営工学、マーケティングといった社会実装に直結する理論まで、極めて多角的な専門領域が凝縮され、領域の垣根を超えた刺激的な知の交差が実現しました。
日頃から産学連携活動でお世話になっている関係者の方々とのイベントだからこそ話せる「研究段階のアイデア」や「実装の議論」が至る所で飛び交い、エンジニア心をくすぐる濃密な時間となりました。
おわりに
今回の技術交流会は、予測モデリングや数理最適化、そしてLLMといった要素技術が、どのように結びついて実社会の「意思決定」をアップデートしていくのか、その最前線を体感できる熱量の高い場となりました。
ご参加いただいた学生の皆様からは、「自分の研究が実務の視点でどう役立つのか、現場のエンジニアと深く議論できて視界が開けた」「社会人になっても知的でエキサイティングな環境があるのだとイメージが湧いた」といった、研究を活かしたキャリアを身近に捉える声が数多く寄せられました。
また、先生方からも、産業と学問の連携、そして異なる専門領域が交差する場への期待や、学生の皆様が社会実装の出口を確信し目を輝かせて議論する姿に対し、温かい評価をいただくことができました。
公式な閉会の時間を過ぎても、ポスターの前では消灯間際まで熱心なディスカッションが続いていた光景が非常に印象的でした。 会場のあちこちで旧交を温める会話や、新しい共同研究の種が生まれる瞬間を目の当たりにしました。
今回の機会が、研究者の方々の新たな、あるいは懐かしい結節点となっていれば大変嬉しく思います。この熱量は、ひとえに日頃より産学連携・研究活動でご支援いただいている皆様のご協力があってこそのものです。
改めて、ご参加いただいたすべての皆様に、心より感謝申し上げます。
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