「ロボットに捧げた青春」を経て、データ組織の部長へ。未踏スーパークリエータが語る、技術者がビジネスを牽引する“必然”

目次

リクルートのデータ推進室の中でも、住まい領域サービス『SUUMO』などが保有する顧客接点とそこから得られるインサイトを武器に、事業の意思決定とプロダクトの進化を牽引するのが「住まいデータソリューション部」です。

その部長を務める友近 圭汰は、かつてロボットハンドの機能解析や、工場自動化のための物体認識システムなどの研究に没頭し、 IPA未踏スーパークリエータ (※)にも認定された生粋の技術者でした。「自分の手で作ったものしか信じない」と語るほどの完璧主義者だった彼が、なぜビジネスの最前線に飛び込み、入社6年目29歳という若さで部長を任されるに至ったのか。
新人時代の「生意気すぎる」エピソードから、データサイエンスで事業の障壁を取り除いた経験、そして技術者がマネジメントを担うことの意義まで。そのキャリアの道のりには、技術とビジネスが対等にぶつかり合い、高め合うリクルートならではの熱量がありました。

※IPA(情報処理推進機構)が主催する「未踏IT人材発掘・育成事業」において、特に卓越した成果を残した者に付与される称号。同事業は「突出したIT人材の発掘」を目的とした国策プロジェクトであり、エンジニアの登竜門として知られる。



友近 圭汰

経歴:
神戸大学工学部にてロボティクスを専攻後、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)情報科学研究科修了。2016年、リクルートホールディングスに新卒入社。働きながら未踏事業に再挑戦し、2018年にスーパークリエータ認定。『SUUMO』や『スーモカウンター』のマーケティング効果推定モデルの構築や、直接計測のための基盤開発・検証などをリードし、2019年に入社4年目でグループマネージャー(GM)に任用。2023年10月より現職、住まいデータソリューション部 部長。4歳の子供を育てるパパでもある。

「親指の骨」と「光る球体」。モノづくりにのめりこんだ学生時代

― まず、友近さんの原点について教えてください。学生時代は「ロボットに捧げた」と伺いましたが、具体的にはどのような研究をされていたのでしょうか?

実は、大学時代はかなりマニアックな研究をしていました。神戸大学のロボティクス系の研究室にいたのですが、取り組んでいたテーマは「人の親指の付け根にある骨の解析」です。人間の手というのは、親指と他の指の腹同士を合わせる動きができますよね。これ、実は他の動物にはほとんどできない動きなんです。なぜ人間だけが器用に指先を合わせられるのか。その鍵を握るのが、親指の付け根にある「大菱形骨(だいりょうけいこつ)」という非常に小さな骨です。この骨がどのようなねじれ構造をしていて、どう機能しているのか。1998年の古い論文データを現代のモデルに変換して解析する…そんなニッチな研究に没頭していました。

― そこから大学院へ進まれたのですね。

はい。大学時代の研究は過去のデータからの類推だったので、「もっと直接的にデータを計測したい」という思いが強くなり、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)へ進学しました。
同時に、工場での物体認識システムの研究開発にも携わったりしました。その工場では毎週10万個もの商品が代わる代わる流通しています。それをロボットがいかに高速かつ高精度に認識できるか。データを効率よく収集し、識別精度を上げるための「データファクトリー」的なシステムの構築に取り組んでいました。

2.2億円の出資より、まずは自分の成長を選んだ。「23時」のエントリー

― 学生時代、研究活動の枠を超えて起業にも挑戦されていたそうですね。

はい、実は学生時代に2回、本気で起業しようとしました。1回目は学部3年の時です。当時、IPA(情報処理推進機構)の未踏事業に採択され、そのプロジェクトとして起業を画策しました。テーマは「光る球体を使った身体表現の拡張」です。スターウォーズのBB-8のように自走し、七色に光る球体を100個くらい作って、ダンスパフォーマーの動きと連動させる……という構想でした。でも、ハードウェアを作るにはとにかくお金がかかるんです。学生の私費では到底まかないきれず、採算が合わずに頓挫しました。

― 2回目はどのような挑戦だったのですか?

大学院生の時で、当時研究していた「物体認識のための教師データを高速で作るシステム」での起業でした。ある企業の選考を受けた際、オーナー社長にこの事業プランをプレゼンする機会があったんです。そうしたら、「面白い。うちの会社で新規事業としてやるなら2.2億円出すよ」と言ってくださって。

― 学生に対して2.2億円!それは心が揺らぎますね。

揺らぎました。でも、最終的にはお断りしました。「会社の一事業」としてやるのは、自分が描いていた起業とは違うなという違和感があったのと、何より「今の自分には、2.2億円を預かるだけの実績も説得力もない」と痛感してしまったんです。いきなり社長の庇護下でやるのではなく、まずはビジネスの世界で「こいつなら任せられる」と思わせるだけの実力をつけたい。「自分は何者でもない」という現実を突きつけられた瞬間でした。

― それで就職活動へ舵を切った、と。

そうです。ちなみにリクルートとの出会いは本当に偶然で、就活中にFacebookを見ていたら、友人の友人が「リクルートのインターン募集、今日の0時まで」とつぶやいているのが流れてきて。それを見たのが夜の22時。「リクルートっていろんな事業を成功させているし、面白そうだな」と思い、締め切り1時間前の23時に滑り込みで申し込みました。もしあの投稿を見ていなかったら、ここにいないと思います(笑)。

インターンに参加してみると、メンターの方たちが優秀で感銘を受けました。「技術だけでなく、事業をどう作るか」という視座が高く、ここならビジネスを学びながら成長できると直感したのが入社の決め手です。

「張り合いがないですね」。今だから話せる、新人研修での“若気の至り”

― ちなみに、「未踏スーパークリエータ」に認定されたのはいつ頃なのですか?

実は、リクルートに入社してからなんです。学生時代の1回目の未踏挑戦の時、当時のPMから「スーパークリエータ」の認定をもらえなかったのがとにかく悔しくて。その「負けず嫌い」が発動して、社会人1年目の時に、大学院時代の仲間と別のテーマで未踏に再挑戦しました。そこで念願の認定をいただいたんです。「称号だけは取り返してやる」という執念ですね(笑)。働きながら社外活動にも全力投球できる、リクルートの懐の深さのおかげでもあります。

― 入社後も尖っていますね(笑)。新人研修でも伝説的なエピソードがあるとか。

ああ……ありましたね(笑)。今となっては本当に若気の至りで、思い出すと少し恥ずかしいんですが。 配属直後の技術研修が「JavaでWebアプリを作る」という内容だったんです。 当時はデータサイエンティストもリクルートホールディングス採用のネット人材の一職種として、PdM、マーケター、Webディレクターといった多職種と合同で研修を受けていたのですが、当時の僕からすればその内容はあまりにも簡単で。リクルートというフィールドに期待して入社したのに、スタートがあまりに基礎的な内容だったので、拍子抜けしてしまって……。そのギャップへの反発心から、「この研修内容では物足りない…」と態度に出てしまっていたんです。

ただ、口で文句を言うだけでは響かないと思ったので、行動で示すことにしました。最終発表で、審査員も驚くようなクオリティのものを作って、1位を獲ったんです。

― そこで実力を示したわけですね。

ただ、その後のコメントが余計でした。優勝コメントで、「皆さん全然張り合いがなかったんで、もうちょっと頑張ってほしいなと思いました」と言ってしまったんです。
今振り返ると本当に若気の至りで、穴があったら入りたいくらい恥ずかしいエピソードです。一般的な組織なら「協調性がない」と干されてもおかしくないですよね。

― ……凍りついたでしょうね(笑)。

そうですね…(笑)。ただ、この話には後日談があるんです。僕がそんな態度を取ったせいもあってか、翌年からはデータ職種の研修が個別に切り出され、内容もハイレベルなものに改善されたんですよ。今の研修内容は、当時の尖っていた僕が参加しても「面白い」と思えるような、ハイレベルなものになっているはずです。
生意気な新人の声を無視せず、仕組みそのものを変えてしまう。本質を見て改善に繋げる。このリクルートの柔軟さと懐の深さには、入社早々驚かされましたし、救われましたね。

実際、配属されてすぐに大仕事を任されました。『スーモカウンター』の出店場所を決める需要予測モデルの改修です。当時、既存のモデルの精度が落ちていて、VP(事業責任者)だった方から「なんとかしてくれ」と声が掛かったのです。新人の僕が作ったモデルを持ち込んだら、「これ、いいじゃん」と即決で採用してもらえました。その結果、ある不採算エリアへの出店を回避でき、数千万円規模の損失を防ぐことができました。

「生意気さ」を咎めるのではなく、「成果」を見て機会を渡してくれる。入社1年目の新人のアウトプットが、実際に事業の意思決定に使われ、巨額のお金が動く。年齢も年次も関係ない、このスピード感と裁量の大きさは、リクルートならではの醍醐味だと感じました。

「データがないなら作ればいい」。CM予算削減の危機を救った執念の可視化

― データサイエンスが事業に大きなインパクトを与えた事例として、他に印象に残っているものはありますか?

市場環境の変化により、全社的にマーケティング投資の費用対効果が厳しく問われる局面があったときのことですね。特にテレビCMのようなマス広告は、Web広告と違って直接的な効果が見えづらいため、「このまま投資を続けてよいのか」という慎重な議論が巻き起こりました。感覚値で議論していても結論は出ません。そこで僕たちが提示したのが、以前から準備していた「二段構え」の効果検証アプローチでした。

― 具体的にはどのような仕組みだったのですか?

まずメインとなるのが、統計的にブランド施策の効果を定量化する「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」 です。今でこそMeta社の『Robyn』やGoogleの『Meridian』といったMMM構築用のOSS(オープンソースソフトウェア)がありますが、当時はまだ存在しませんでした。なので、ブランドチームと1年かけて議論を重ね、ゼロから自前でモデルを構築し、磨き上げていたんです。「モデルが弾き出した数値を信じて出稿し、結果を振り返ってまた精度を上げる」という泥臭い検証を繰り返していました。

― ゼロから構築されたとは驚きです。

ただ、統計モデルだけだと「その計算式、本当に合ってるの?」という指摘がどうしても入ります。 そこでサブの武器として用意していたのが、スマートデバイスのログなどを活用した「直接計測」の仕組みです。 個人を特定しない形で「テレビCMへの接触が、Webサイトへの来訪にどう寄与したか」を推計する。この実データによる裏付けを、統計モデルと併用することで、データの信憑性を盤石なものにしました。

― 平時から仕込んでいた武器が活きたわけですね。

はい。このデータを元に、「CM投資がこれだけの事業成果に繋がっている」ということを定量的に示しました。 その結果、投資を縮小するのではなく、必要なブランド投資は継続するという前向きな意思決定がなされました。 ちなみに、当時構築したこのMMMは2020年から運用を開始しましたが、精度が劣化することなく、今も現役で使われ続けています。

もしあの時、僕たちが「言われた分析だけやる」スタンスだったら、合理的な判断材料を提供できず、事業のアクセルを踏み続けることはできなかったかもしれません。「見えないもの」を技術で可視化し、迷いが生じる局面でもファクトで意思決定を支える。 これこそが、僕たちの介在価値だと思っています。

また、「店舗の出店戦略」においても、データを武器に意思決定を変革してきました。 かつては、近接するエリアへの出店について「商圏が違うから被らないはずだ」といった現場の"定性的な勘"で判断されることがありました。 そこで僕たちは個人が特定できない形での位置情報データを用い、居住エリアと利用する商業施設の来訪傾向を可視化しました。その結果、これまで知られていなかった人の流れがファクトとして明らかになりました。

それまでは「勘と経験」で語られていた議論が、データという共通言語で語られるようになった。 これが、僕たちが事業にもたらした一番の変化かもしれません。

技術者だからこそ、マネジメントをやる。個人の限界を超えるための判断

― 友近さんは入社4年目でGM、29歳時点で部長になられています。技術志向が強い中で、なぜマネジメントの道を選んだのですか?

インパクトを最大化するための、合理的な判断でした。 僕一人が限界まで働いても、出せるアウトプットの上限はたかが知れています。でも、10人のチームを作れば、その総量は10倍になる。僕は「自分の手で価値を生み出したい」という欲求が強いですが、その「生み出したい価値」のスケールが大きくなればなるほど、一人の手では足りなくなるんです。自分がやりたい仕事を自分で選び、より大きなインパクトを出すためには、チームで動くのが最も合理的でした。

― 「管理職になると技術力が落ちる」という不安はありませんでしたか?

リクルートのデータ組織においては、マネージャーにも技術的な理解が求められる場面が多く、専門性を活かしながら意思決定を行うことが期待されています。 私自身、技術的な中身がわからなければ、成果物の品質担保ができないことを日々実感しています。何をどう作ればどういう精度が出るのか、その肌感覚がない状態で「この方針で行こう」と決めることはできません。最終的な意思決定をするのがマネージャーの仕事である以上、技術バックグラウンドがあることは「必須要件」に近いと思っています。

ビジネス的に求められている抽象度の高い課題を、具体的な技術戦略や組織の動きに落とし込んでいく。 そこには、現場のエンジニアとはまた違った「技術の使い方」が求められますし、そこがこのポジションの難しさであり、醍醐味でもあると感じています。

LLM×リアルタイムの未踏領域へ。求む、「強いこだわり」を持つ個性

― 現在、住まいデータソリューション部ではどのような挑戦をされていますか?

組織の規模は僕が入った頃の約3倍、60名規模になりました。フェーズとしては、従来の「構造化データの分析・レコメンド」をさらに磨き込みつつ、「生成AI・LLM×非構造化データ」の活用へと領域を拡張しています。これまで活用しきれていなかった「画像」や「音声」などのデータをLLMで解析し、それをいかに「リアルタイム」に価値に変えるか。
例えば、カウンターでの接客中に、お客様から許諾をいただいた上で会話の内容をリアルタイムで解析して、アドバイザーに最適な提案内容をサジェストすることで、お客様へのより良いご提案につなげていく。しかし、LLMのレスポンスには数秒〜数十秒かかります。それをいかに短縮し、接客のテンポを崩さずに提供できるか。まさに技術的な腕の見せ所です。もちろん、これ以外にも画像解析など、様々な非構造化データを活用したプロジェクトが水面下でいくつも動いています。

― 最後に、どんな人と一緒に働きたいですか?

「何かに強いこだわりを持っている人」ですね。 リクルートで活躍している人は、だいたいどこかしら「癖」が強いんです(笑)。

加えてリクルートは、上から言われたことをただこなす仕事があまりない会社です。 指示を待っているだけだと何も起きませんが、「これをやりたい」と意志を持って手を挙げれば、周囲が本気で向き合ってくれます。そして、年次に関係なく巨大なリソースと裁量を任せてくれる。

かつての僕のような、野心があり、技術への偏愛を持った方。そんな方と一緒に議論をしながら、次の「事業の景色」を変えていきたいですね。

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