世界屈指の楽器メーカーFender社の工場はAI技術とIoTによって生産工程を管理していた! - AWS re:Invent レポート

この記事は RECRUIT MARKETING PARTNERS Advent Calendar 2018 の投稿記事です。

はじめに

好きなベーシストは細野晴臣。リクルートマーケティングパートナーズ開発支援グループ木村勇太です。

2018年11月にAWSの祭典re:Invent 2018がアメリカ・ラスベガスで開催されました。弊社からも二名参加し、大島が新機能App Meshの紹介記事を執筆しております。

今回も非常に多くの興味深いサービスが発表され、SRE的には先程上げたApp Meshの他, Cloud Map, Transit gatewayなどが気になるところです。

しかし! (私の中での)今回一番の驚きは、Werner VogelsのKeynoteで紹介された世界的楽器メーカーFender社の事例です!!!!

私自身エレキベースを弾くこともありFender自体は非常に親しみはあったのですが、楽器会社がIoT化やクラウド化の推進を自社でエンジニアを抱えて進めていることと、その導入事例が非常に興味深かったので、今回は How fender is Automating Its Manufacturing Operations with AWS というセッションの内容をまとめました。

セッションの内容 三行まとめ

  • IoTとAI技術をコンピュータビジョンと組み合わせることで製造プロセスの向上は可能なのか
  • AWSのIoTと分析機能をどのように使用して環境の検知と制御をしているのか
  • Fenderの工場で実際にどのようにAWSを活用してIoTとAIを活用しているのか

What’s Fender?

Leo Fender が1946年に創業したアメリカ・カリフォルニアの楽器メーカーで、主にエレクトリックギターやアンプの製造を行っています。1951年に世界初のソリッドボディエレキギターBroadcaster1)後にTelecasterに改名を開発・発表し、エレキベース Precision bassも開発。その後もStratocasterやJazz bassなどの代表モデルを立て続けに開発。現在にいたるまで世界屈指のエレクトリックギター・ベースメーカーです。

1950年代のFenderの工場の写真

  • Calfornia Fullertonはじめての工場を建てた、1950年代の写真です。ほぼ手作業ですね。
現代のFenderの工場の写真

  • 現在はCalfornia ColonaとEnsenada Mexicoに2つの工場を持っています。

AIoT ( AI and IoT )

『AI』と『IoT』をかけ合わせた略語です。Fender社ではAWSの様々なサービスを活用して工場での生産工程を管理しており、AI と IoT はループするような関係性にあります。

Data collection, model inference
RTOにAmazon RTOS、デバイスへのdeployにAWS Greenglassを利用している。
Data routing, security fleet management
デバイスとクラウドとの接続にAWS IoT Core、デバイスの管理にAWS Device Management,デバイスのセキュリティにAWS Device Defenderを利用
Data aggregation enrichment, cleansing, time series, model config
デバイスのデータの分析・集計にAWS IoT Analyticsを利用、集めたデータをQuicksightを使ってビジネスユーザーや管理者がが可視化出来るようにしている。
Machine learning & model generation
Amazon SageMakerで機械学習を行い、Greenglassはエッジでの推論の実行も行っている。

KANBAN replenishment

在庫の管理場所にIoT Buttonを設置し、材料の不足をButtonを押すことでWeb上のDashboardに表示出来るようにしています。

KANBAN replenishment dashboard

『いつ』『どこで』『なにが足りていないか』といった情報がリアルタイムで監視されているため、材料の発注や管理状況を確認出来るようになります。

KANBAN republishment system

こちらはKanban replenishmentの構成図です。AWS Iot ButtonからAWS IoT 1-Clickを起動、1ClickからLambdaを起動し、DataはDynamoDBに保存。同時にPusherを使って各所への通知を行っています

DashboardはAngularフレームワークで作られており、CloudFrontを介して従業員が見れるようにしています。このシステムは、三週間ほどで構築・運用出来たとのこと。

Process management

ギターの木材は楽器として使用するまでに乾燥させたり複数枚を張り合わせてなどの加工がなされます。そのような工程管理のシステムをIoTボタンを利用して構築しています。従来はマスキングテープにペンで時間をメモをして管理していました。

カートにIoTボタンを設置することで時間を管理出来るようにしています。ボタンは1回押すと開始、2回押すとリセットという簡単操作。従業員は作業の開始時にボタンを一回押すことでDashboard側に作業の開始が管理出来るようになりました。

Process management dashboard

従業員は工程の管理状況をweb上のdashboardで確認出来ます。工程(Operation)毎に表示が区切られており、Keynoteの資料から確認出来たのは、『Conditioning Wait Time 72h』と『Glue Wait Time』の二つでした。

同じCartは同じ色で表示されるようになっており、乾燥が終わったものはReady,途中はIn progress,使っていないcartにはIdleと表示されるようです。

IoT Button to process management

IoT Button側は Kanban republishment systemとほぼ同じ構成です。AWS Iot ButtonからAWS IoT 1-Clickを起動、1ClickからLambdaを起動し、DataはDynamoDBに保存。同時にPusherを使って各所への通知を行っています。

IoT Buttonだけでなく、monnit2)各種センサー(温度、湿度、加速度色々あり)と、センターからIoTでデータを送り、Onlineで可視化するサービス。https://www.monnit.com/経由で温度・湿度管理もIoTで行っています。楽器の接着や乾燥には温度と湿度が非常に重要なので、Dashboard上で常に監視しています。

IoT Buttons for manufacturing support requests

工場で働く人の多くはコンピューターを持ち歩きません。そのため何かSupportが必要になったときは、IoT Buttonを押すだけで、管理者やリーダーにslackで通知が届くという仕組みを作っています。

IoT Buttons for manufacturing support requests architecture

非常にシンプルな構成で、IoT clickからlambdaとSNSが呼び出します。これにより、lambdaからのslackの通知やSNSへのEmail通知を実行しています。

Wood matching Quality assurance

ギターのボディとなる木材は、通常一枚では十分な大きさが確保出来ないため、2~4枚程度の複数枚を張り合わせて利用します。その際に『見た目』『強度』『木材の色』『木目』などを考慮して張り合わせます。ただし、この手法は職人技的でクオリティを統一するのが非常に難しい。そこで、機械学習を活用して木材マッチングのクオリティを統一しようとしているそうです。現在はまだデータの収集と実験段階とのこと。

悪い例。
1️⃣と2️⃣はそれぞれ色が異なっており、3️⃣と4️⃣は木目が合っていません。
良い例。
木目と色がそろって無垢(一つの木材)のように見えるため、透かしの塗装をしても美しい見た目になります。

Wood matching Quality assurance architecture

Cameraで撮影した画像データを AWS lamdbaで登録。SageMakerにそのデータを送って学習モデルを作成しています。

まとめ・感想

「あのFenderがAWS?」 と最初は驚いたのですが、事例を通して見てみると、ManagedサービスやServerlessを中心とした『cost』『mantainance』『scalablity』が非常に良く考えられたアーキテクチャだと思いました。

いざITを導入しようとすると、最初のうちから全ての要件を消化しようとして複雑化してしまったり、既存の仕組みを大きく変えてた事によって膨大な教育コストが発生してしまいがちです。しかしFender社は、導入のインタフェースをIoT Buttonに限定しました。これにより無駄な連携を減らすなど導入コストを最低限に抑えているあたりの堅実さが興味深く、非常に参考になりました。

近年のギター業界は冷え込みがちなイメージがありますが、今回のような柔軟な変化や効率化を行うことで、もっと盛り上がってほしいところです!

セッションの概要はこちら

動画

スライド


In this session, we explain how combining IoT and AI technologies, such as computer vision,
enables you to increase the productivity of a manufacturing process. Using AWS IoT services and analytics,
we show you how to sense and control environmental conditions.
Finally, we show you how to quickly transition from a patrol-based model to a notification-based model for replenishment scenarios

Speaker
Ryan Burke - Senior Solution Architect, Amazon Web Services
Michael Garcia - Product Solutions Architect, AWS
Michael Spandau - CIO, Fender Musical Instruments
Mike Imes - IT Director, Fender Musical Instruments Corp
Agenda
The next industrial revolution
The Journey to industrial IoT
Fender Musical Instruments

余談・おまけ

Sessionの終わりに登場したFenderが作ったAWS Guitar(笑
私の愛機 Fender Jazz Bass

脚注

脚注
1 後にTelecasterに改名
2 各種センサー(温度、湿度、加速度色々あり)と、センターからIoTでデータを送り、Onlineで可視化するサービス。https://www.monnit.com/