データ推進室 室長が語る、異色のキャリアとデータが拓く事業成長の未来

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リクルートグループのデータ推進室は、数多くの領域にまたがるサービスのデータ活用を牽引し、事業の成長を最前線で支える部門横断的な組織です。その室長を務める野村眞平は異色のキャリアを経て、データサイエンスの黎明期からこれまで、データによる新たな価値創出を追い求めてきました。
「気になることは何でも手を出してみる」という尽きることのない好奇心と探求心を原動力に、自身のキャリアを切り拓いてきたその歩みをたどりながら、リクルートデータ推進室が求める人物像、そして共に描きたい未来についてお伝えします。

好奇心の赴くままに。数学と旅を求めた学生時代

― まず、野村さんのこれまでのご経歴について教えていただけますか?学生時代は何を学ばれていたのでしょうか。

大学では数学科で、「複素数解析」という応用数学の分野を専攻していました。もともと文系科目が苦手で、理系科目が得意だったので、自然と数学の道に進んだんです。代数のような純粋な理論数学よりも、現実世界に近い、より実践的な数学に魅力を感じていましたね。担当の先生が素晴らしい方だったことも、この分野を選んだ大きな理由です。

― 勉強以外で学生時代に特に打ち込まれたことはありますか?

基本的にはお酒ばかり飲んでいた気がします(笑)。でも、アルバイトは結構真面目にやっていて、塾講師や家庭教師を掛け持ちしていました。
そして、最も大きな経験としては、2年間休学してバックパッカーとして海外を放浪しました。 当時の“自分探し”ブームに影響された部分もありますが、何より「学生の時にしかできないこと」だと思ったんです。海外に行ったことがなかったので、外の世界を自分の目で見てみたいという気持ちが強かった。

― 2年間も休学して一人で海外へ出るというのは、並大抵の決断ではないと思います。

不思議と、他の人が就職活動をしているから自分も、といった周囲に流される感覚はあまりありませんでした。旅のルートを誰かと合わせることもせず、完全に自分のスタイルで行動していました。もちろん、多少は世の中の流れに“流される”部分もあったかもしれませんが、根本的には 「とりあえず気になることは何でも手を出してみる」 というタイプなんです。

旅の途中では、強盗に遭うという大変な経験もしましたし、タイでは思い立ってムエタイジムに入門してみたりと、本当に色々なことがありました。とはいえその分遠回りしていますし、個人的には真面目に勉強して卒業された方のほうが立派だと思いますので、他の方にもお勧めできるような道のりではないのですが(笑)

「そういえば数学、得意だったやん」──異色キャリアを経てたどり着いた、データ分析の道

― 大学を卒業後、リクルートに入社されるまでにも、非常にユニークなキャリアを積まれていますね。その経験が、今のお仕事にどのように活きていると感じますか?

大学を卒業した後、最初に就職したのはアルバイト先の紳士服チェーンでした。当時の紳士服業界は先行きも厳しく、会社は生き残りをかけて業態転換を迫られていました。そこで、様々な新規事業の立ち上げに携わりました。

特に、ネットカフェの店舗立ち上げは印象深いですね。その店舗の店長を任され、自然とマネジメントする立場になったんです。オープニングスタッフの面接から組織作りまで一貫して行い、スタッフみんなが当事者意識を持って店舗をどう良くするかを自ら考える、そんな組織を作り上げることができました。スタッフの皆さんとの丁寧なコミュニケーションを心がけたら成果がついてきて、売上も順調になって。ここでマネジメントの面白さや、チームで成果を出すことの重要性に気づいた気がします。

― その後は、国会議員秘書という全く異なるキャリアも経験されていますよね。これはかなり珍しい経歴だと思います。

そうなんです(笑)。最初に就職した会社で働いた後、「ちょっと面白そうだからやってみようかな」という好奇心で、議員秘書の世界に飛び込みました。そこで、非常に優秀な方々と間近で話す機会を得て、短い期間ながら良い経験を積むことができました。

― そこからデータ分析の仕事へと進むきっかけは何だったのでしょうか?

仕事を渡り歩く中で、「あれ、そういえば俺、数学得意だったやん」 と思い出したんです(笑)。ただ、数学に関係ない仕事をする期間が長かったので、すぐに数学を活かせる仕事が見つかるわけではありませんでした。そこで当時、まだあまり注目されていなかった 「データ分析」 という分野に興味を持ち始めました。 最初はデータ分析を専門にするベンチャー企業に入社し、与信分析などに携わりました。この時期に、データが持つ可能性、そしてそれをビジネスにどう活用していくかという面白さに、改めて気づかされたんです。

― ベンチャー企業では、どのような経験をされましたか?

まず、上司から徹底的に鍛えられましたね。当時私の上司だった人は、大学院で博士課程まで行っていて研究員も経験している方で、数学やデータ分析に関する知識がものすごく豊富だったんです。

例えば、製造業の予測分析に関するPoC(概念実証)の相談をした際、その場で突然、大学院生が読むような時系列分析の本を3冊渡されました。そして翌週に「読んできました」と報告すると、抜き打ちで「こことここ説明して」と言われ、結果答えられずにいると厳しくフィードバックされたこともありました。

データサイエンティストとしての基礎的なスキル、そして、社会人になってからも勉強し続けなければダメだということを、しっかり学ばせてもらいましたね。
2年くらいは、ひたすら大学のゼミのような感じで鍛えられたと思います。それが、働く上での強みを作る経験になったと強く感じています。

データサイエンスの力を事業成果に直結させる、リクルートの魅力

― 数ある企業の中から、リクルートへの入社を決めた理由は何だったのでしょうか?

当時から、「分析結果が実際に社会やプロダクトにどう役立つのか、その成果を自分の目で見届けたい」 という思いがありました。リクルートは、単にデータを分析するだけでなく、その分析結果を基にプロダクトを改善し、事業成果に直結させるまでを自社で完結できる会社だったんです。ちゃんとPDCAを回せる環境で働きたいという思いが強く、それがリクルートを選んだ決め手でした。

― 実際に入社されてみて、印象に残った出来事はありますか?

入社して2〜3ヶ月という早い段階で、私が携わった分析結果が、多額のCM予算の追加投資につながったことです。ただ大きな案件である一方で、個人的には反省点も非常に多く、十分に結果が残せず申し訳ないと感じていました。

しかしリクルートでは、結果だけでなく、そのプロセスやチャレンジ自体も評価される文化が根付いているんです。失敗を怒られるどころか、「結果はともあれ、きちんと振り返りをしているし、チャレンジした姿勢は良い。これからもどんどんやってほしい」と会社から背中を押してもらえたことが、深く印象に残りました。

それ以降私はデータサイエンティストとして、「何を分析すべきか」という課題設定からはじまり、分析結果を具体的なプロダクト改善に落とし込むことに情熱を注ぎました。レコメンドアルゴリズムや大規模データを処理・活用する環境の構築も担当し、社内外により大きな影響を与えることを意識して、楽しみながら仕事を進めてきました。

当時は忙しかったり出張が多くて大変だったこともあったのですが、頑張れば頑張るほど機会が与えられ、「この人には敵わないな」と思えるような尊敬できる人と一緒に働けて、学びが蓄積されていく。 そうして信頼を勝ち取れると、また新しい機会が巡ってくる。このサイクルが楽しかったんだなと思っています。

「個人」から「組織」へ、そして「社会」へ視座を高める

― その後はマネージャー、そして室長へとキャリアをステップアップされていかれるわけですが、この転機でどのような変化がありましたか?

もともとは、5年くらいで成果が出たらリクルートを辞めて、転職しようかなと考えていたんです。しかし、個人だけでなくグループとしてもデータ活用の成果が出せるようになってきたタイミングで、会社全体としてデータ活用のニーズが非常に高まってきて…。データサイエンスだけでなく、データマネジメントを行うような組織も必要となりました。そこで当時の上司から「新組織を作ってほしい」と言われ、転職をとりやめて部署を立ち上げることになったんです。

それまでずっと「自分が成果を出す」「自分が分析して価値を出す」というプレイヤー寄りの立場でしたが、いざ新しい組織を作るとなると、「自分が何を持っているか?」の枠を超えなければならない。「どうしたらできるようになるのか?」を考えて、協力してくれる人を集めていくうち、どんどん 「本質的にプロダクトの価値を高めていくことの面白さ」 を感じるようになりました。集まってくれたメンバーと共に、「ユーザーのため、どうすればプロダクトを良くできるか?」をとことん話し合う日々は楽しかったですね。

― 「個人で成果を出す」フェーズから、「組織で成果を出す」、さらに「ユーザーに価値を還元する」フェーズへと視座が高まっていったのですね。

その通りです。グループマネージャーくらいまでは自分自身の価値を高めることが中心でしたが、それ以降は、事業全体、ひいてはカスタマーやクライアントといった世の中のユーザーに貢献することを考えるようになりました。そのためには事業戦略を深く理解し、それに対してデータ組織が何をすべきか、自分たちには何ができて、何ができないのか、優先順位はどうつけるべきか、といったことを考え抜く必要があります。そして、サービスのプロデューサーやシステム開発組織と密に連携し、組織全体を動かしていくことが求められます。

実は、この視座の転換は決してスムーズではありませんでした。マネージャーになって少し経ったあるとき、当時の上司から 「ちゃんと事業戦略とデータ組織の強みを理解して、メンバーミッションに落とし込んでる?」と厳しくフィードバックされたことがあったんです。それが私にとって大きな転機になりました。それまでは、メンバーの「やりたいこと」と上から言われた「ミッション」をなんとなく組み合わせていたんですね。でもそれではダメだと。事業の戦略を深く理解し、それに貢献する形で、かつメンバーが最も成長できるミッションを設計する。 そんな当たり前のことができていなかったんです。しばらく厳しいフィードバックは続きましたが(笑)、その経験を乗り越えてから、私の仕事へのスタンスも大きく変わったと感じています。

― なぜそこまで厳しいコメントがあったのでしょう。

ひとえに、データ活用に対する期待が高かったからだと思います。今後事業戦略のコアになりうる部署なのに、その価値を高めるため本気になりきれていないということが、上司としては許せなかったのではないでしょうか。

データ推進室が拓く未来:マッチングを支える技術と、共に挑む「プロダクト志向」のプロフェッショナル

― ここからは、リクルートデータ推進室の今後と、共に働く仲間としてどのような方をお迎えしたいかを伺っていきたいと思います。まず、データ推進室は今、どのようなフェーズにあると捉えていますか?

データ推進室が発足して約5年が経過しました。当初はデータ活用が十分にできていない事業もあったので、「各事業が環境の整備を行い、事業のコアになる案件に貢献できるようになろう」という“立ち上げフェーズ”でした。しかし今では、各領域でデータ活用が進み、分析の仕組みや基盤も整ってきています。

これからは、基盤が整った上で 「10→100にする」というような取り組みが中心になります。各事業で、レコメンデーションや検索機能などを中心としたUX(ユーザーエクスペリエンス)改善、リクルートの持つ膨大なデータをクライアント様向けに活用する業務支援サービスなど、様々なデータ施策をさらに進化させ、高速でPDCAを回していく段階です。

― あらためて、データ推進室のミッションと、「リクルートのデータ組織の強み」についてお聞かせください。

リクルートグループはマッチングを主要ビジネスモデルにしているので、「いかにマッチング精度を上げるか」 が事業の生命線です。たとえば住宅領域であれば資料請求や契約に、HR領域であれば応募や入社に、ユーザーを繋げること。ユーザーの満足度向上を最大限求めつつ、マッチングの質を高めるために、我々データ推進室がどう貢献できるかを常に考えています。

現在は技術も体制も少しずつ整ってきており、データ推進室は、リクルートが提供するプロダクトの “マッチングのコア” を担う存在となっています。これをさらに強化し、より多くの領域へとその貢献の幅を広げていくことが私たちのミッションです。

組織固有の強みは、何と言っても 「技術的に強い人が圧倒的に多い」 ことだと思います。しかも、そうした高い専門性を持つ人たちが、プロダクトに非常に近い場所で働き、実際に大きな成果を出している。PoC(実証実験)で終わることなく、きちんと実装まで持っていき、事業インパクトを生み出すことができる。これが、リクルートのデータ組織の強みといえるのではないでしょうか。

― 近年話題の生成AIについては、どのようにお考えでしょうか?

生成AIは、もはや私たちデータ推進室にとって切っても切り離せない存在です。最近では生成AI活用の対象として、非構造データ、例えば紙媒体の文章や画像データ、音声データなども取り込みマッチング精度を向上させるという、新たな挑戦を始めています。これまでの「構造化データを使った分析」から、「構造化されていない情報を活かす」方向へと、データ活用の領域を大きく拡張しているところです。

ユーザーがまだ言語化しきれていない潜在的な希望を、AIがサポートしてくれる未来についても見据えています。例えば「世田谷区に住みたい」という人は、実は場所に絶対のこだわりがあるわけではなく、「緑が多いエリア」を求めていたのかもしれない。そうしたニーズの深掘りがAIでできるようになれば、マッチングの質はぐんと上がると信じています。

― では、今後ご入社いただく方に期待することについて伺います。まず、現在データ推進室で活躍されている方に共通する特徴はどのようなものでしょうか?

一つは、明確な「得意技」、特に技術的な強みを持っていることです。そして、その技術をどうすればプロダクトの改善に活かせるか、どうすればユーザーやクライアントに価値を届けられるか、という視点で考えられる方が活躍しやすいですね。

ハードスキルだけでなく、ソフトスキルとしては、やはり 「なぜこれをやるのか?」を深く考える力が重要です。「言われたからやる」のではなく、「なぜこの施策が必要なのか」「どうやったらもっと良いものになるのか」を自分で考え、何をやるべきかを当事者として考えられる方が、私たちの組織にはフィットしやすいと思います。

また、今いる優秀なメンバーから積極的に学ぼうとする 「素直な向上心」 も大切です。リクルートには各分野のプロフェッショナルがたくさんいますから、「この人に弟子入りしよう」くらいの気概があれば、驚くほど成長できるのではないでしょうか。

― 今後、野村さんが一緒に働きたいと思うのは、どのような方ですか?

一番はプロダクトに真剣に向き合ってくださる方ですね。社内向けのツールであっても、社外向けのサービスであっても、自分が関わるプロダクトをより良くすることに深くコミットする方です。あとは専門性を持ちつつ、それを基盤に「何を作るべきか」を自ら考え、実際に実装までできる方です。

そのような意欲ある方々が、技術的な議論を気軽に活発に行い、互いに学び合える。組織長としては、そんな 「技術的な緊張感と刺激」がある環境を築くことでサポートしていきたいですね。私自身、優秀な先輩たちから鍛えられ成長させてもらえた経験があるので、そのような環境が理想だと考えています。

記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。