『SUUMO』&『リクルートダイレクトスカウト』デザインリニューアルの裏側 【プロデザ!BYリクルート第23回】

リクルートのプロダクトデザイン室によるプロダクトマネージャー、デザイナーに向けた、ナレッジをシェアするイベント「プロデザ! BY リクルート」。第23回目となる今回のテーマは「デザインドリブンで進めるリニューアル事例!」。

不確実性の高いリニューアルプロジェクトにおいては、デザインディレクターがさまざまなステークホルダーと合意形成を行う必要があります。

そこで今回は、リクルートのデザインディレクター2名がどのようにリニューアルプロジェクトを推進したのか、『SUUMO』スマートフォンサイト のデザインリニューアルと『リクルートダイレクトスカウト』のリニューアルの事例をご紹介します。

デザインディレクターという枠にとらわれる ことなくプロジェクトを動かすための具体的なアプローチからぶつかった壁まで、ここでしか知れないナレッジに注目です。

※2024年9月25日に開催したオンラインイベント「デザインドリブンで進めるリニューアル事例!〜プロデザ!BYリクルートvol.23〜」から内容の一部を抜粋・編集しています。

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『SUUMO』スマートフォンサイトデザインリニューアルへの挑戦

プロダクトデザイン室の住まいデザインマネジメントグループでデザインディレクターをしております、沼田と申します。今回は、日本最大級の不動産情報サイト『SUUMO』のスマホサイトにおけるデザインリニューアルについてお伝えします。

沼田 博也 | プロダクトデザイン室 住まいデザインマネジメントグループ デザインディレクター 法政大学デザイン工学部にて課題解決を目的としたデザイン思考を学び、新卒で電機メーカ ーにUIデザイナーとして入社。主に海外toC向け機器やAPPのUIデザインを担当。その後、中規模ITベンチャーを経て2020年に株式会社リクルートに入社。現在は、日本最大級の不動産情報サイトである『SUUMO』を運営する住まい領域で、デザインディレクターとしてデザインルール策定やプロダクトのUIデザインやディレクションを担当。

『SUUMO』のデザイン面における課題

賃貸、売買、リフォームなど幅広いサービスを提供する『SUUMO』は歴史が長く、デザインは10年以上前に設計されたもの。今の『SUUMO』の魅力をもっと伝えるべく、リニューアルプロジェクトを推進することになりました。

しかしながら、デザインリニューアルというのはROI(投資収益率)を語りにくいもの。『SUUMO』も例外ではなく、定量データを重視するリクルートにおいて、合意形成までにはいくつもの壁がありました。

合意形成に向けて行った定量調査

そこで私たちは、課題とデザインリニューアルを行うリスクを明らかにするため、ユーザーに対して4つの調査を実施しました。

  1. ユーザーはデザインの新旧を見分けているか

  2. 『SUUMO』においてデザインの評価とユーザーの行動に関連性はあるか

  3. ビジュアル面で競合と比較したとき劣位している事実はあるか

  4. その他事業上の課題やリスクはあるか

1つ目の「新旧トレンドの与える印象調査」では、2005年時点のデザイン、2012年のデザイン、そして新デザインの3パターンの画像を見せて、どのような印象を持つか一般の方にアンケートを取りました。

結果としては、ユーザーはデザインの新旧を見分けていること、そして新しいデザインは「利用したい」「誰かに勧めたい」「最新の情報が載っていそう」など全項目においてポジティブな印象を持たれることが分かったのです。

2つ目の「デザイン評価とブランド指標・プロダクト指標との相関調査」では、『SUUMO』ではデザインとCVRなどのKPIとは関連性がないことが判明しました。つまり、デザインをきれいにしたからといって、KPIが上がるわけではないということです。一方、第一利用意向 などブランドの指標とは関連性が見えたため、ビジュアルデザインは『SUUMO』では短期効果ではなく、中長期的な体験に影響を及ぼすことがわかりました。

3つ目の調査では、競合比較で劣位しているかを調べました。結論、2012年から続くデザインでは、利用意向・推奨意向など全ての項目において競合より印象値が低いという結果になりました。このことから、物件数や使い勝手などが競合と同等になった場合、ユーザーが競合に流れてしまうリスクがあると 解釈できます。

4つ目の調査では、デザインが古いことによって事業上のリスクが他に存在するかを調べました。その中で一例として見えたのは、「この会社で働きたいと思うか」というような求職者の志望度に影響を与えるということです。企画職とクリエイティブ 職を志望する求職者は、最新のデザインを展開する会社の方が「デザインやカスタマー体験を重視する環境で働けそう」だと感じ、ポジティブに捉えるという傾向がわかりました。

これらの ことから調査をまとめると、デザインリニューアルによる短期的な効果改善は難しいものの、

  • 競合比較で印象値は劣位な状態

  • ブランド指標に影響がある状態

  • 一部採用活動に影響がある状態

だということが判明しました。
「古いデザインって何が問題なの?」という疑問に対して、このような課題やリスクがあるということを事業側に提示できたことで、リニューアル推進に合意をしてもらえました。

リニューアルプロジェクトを通した知見

今回の案件を通して、定量的な評価が重視されるリクルートにおいても、「1,000万円が5,000万円になる」といった明確なROI(投資対効果)が必ずしも見通せない状況下でプロジェクトを進めることがあるということを実感しました。重要なのは、課題やリスクについて合理的に納得できるまで検討を重ね、「やらない選択肢はないよね」という意思決定に踏み切れる状態に持っていくことだと考えます。

いざ新しいデザインにするときも、今まで調査してきた課題を解消できるように、そして、サービスの魅力を十分に発揮するために、 デザインコンセプトや、ビジュアルデザインの検討を繰り返してきました。最終的に社内80名、社外800名に対し、「新デザイン」と「旧デザイン」、「新デザイン」と「競合デザイン」の印象を調査し、結果として全項目で「新デザイン」が優位になるビジュアルデザインに仕上げることができました。

『リクルートダイレクトスカウト』のリニューアルから振り返る、ビジョンドリブンの可能性

プロダクトデザイン室HRデザインマネジメント部でデザインディレクターを担当しています、梁と申します。

今回は、企業やヘッドハンターから求職者にスカウトが届くサービス『リクルートダイレクトスカウト』のリニューアルプロジェクトについてお話しします。

梁 一誠 | プロダクトデザイン室 HRデザインマネジメント部 デザインディレクター中央美術学院(北京)でプロダクトデザインを学び、来日後は多摩美術大学・情報デザイン研究領域で会話型UIのデザインについて研究。2020年に新卒でUI/UXデザイナーとしてリクルートに入社、『ゼクシィ縁結び』のUI/UXデザインを担当。現在は、HR事業領域で、『リクルートダイレクトスカウト』『レジュメ』などのサービスを中心に、プロダクトデザインとデザインチーム運営を担当。

『リクルートダイレクトスカウト』は2014年にハイクラス人材に特化したヘッドハンティングサイト『CAREER CARVER』としてサービスを開始し、2021年に企業からも直接スカウトを受けられるサービスを新たに開始、『リクルートダイレクトスカウト』へと名称変更しました。

2023年12月に行ったリニューアルでは、各種機能やUIを全面的に刷新。しレジュメ機能やAIによるレコメンド機能も導入し、「求職者と企業それぞれの希望に合ったスカウトが届く」「スカウトから始まる求職者と企業の相互理解のコミュニケーションを後押しする」という2点を抜本的に改善することを目指しました。

リニューアル前後のデザインを見ると、新デザインの方がオープンさやスマートさを意識して、より直感的に操作できるように改善されたことがわかるのではないでしょうか。

リニューアルで取り入れた「ビジョンドリブン」のプロセス

リクルートでプロダクトを検討する際に「イシュードリブン」というアプローチをよく使います。これは、問題解決を重視し、論理的に課題を解決していく考え方です。しかし、今回のリニューアルでは、「ビジョンドリブン」を重視しました。なぜなら、今回は既存のものにとらわれず新しい価値を生み出す必要があったからです。

  • ビジョンドリブン:実現したい未来(ビジョン)を起点に、逆算的に現在取るべき行動を直感的に考える考え方

  • イシュードリブン:現状の問題を解決することに焦点を当て、課題を改善・解決する考え方

今回のリニューアルでは、ビジョン思考に基づいた、以下の4つのステップでデザインプロセスを進めました。

  1. 理想を描く

  2. インプットする

  3. 組み替える

  4. 表現する

1.理想を描く
まず、「ボタンを押すのと同じくらい簡単に、早く、仕事に就けるようにする」ために、PdM、デザイナー、エンジニアが集まって議論しました。そして、単なる一つの転職サービスにとどまることなく、求職者と企業双方を見据えた未来の体験をまず作り始めました。

具体的には、
・ 質問に答えるだけでレジュメが完成する
・ 5分で求人を作成してすぐにスカウト送信ができる
・ スカウト送信後、すぐに候補者とマッチングできて会話できる

そんな未来を想像して、プロトタイプを作成していきました。

2.インプットする
夢で終わらせず、ビジョンを具体的なソリューションへとつなげるために、必要なのは大量のインプットとアウトプットです。

ユーザー調査、人材紹介事業『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザーやリクルーティングアドバイザーからの 現場ニーズの調査、サービスのリサーチ、海外のトレンドなど、さまざまな 情報をインプットすることで、ビジョンの解像度を上げていきました。

3.組み替える
次に、集めたアイデアをそのまま使うのではなく、設定したビジョンに合わせて組み替える作業を行いました。

例えば、リクルーティングアドバイザーの現場では、企業に対して、候補者の条件を市況に合わせて提案することがよく行われます。この現場からの声をもとにビジョンに合わせて組み替えた結果、取り入れたのがレコメンド機能です。


他の業界ではすでに使われているレコメンド機能ですが、『リクルートダイレクトスカウト』では活用されていませんでした。 今までは採用担当者が候補者の検索条件を細かく設定する必要がありましたが、リニューアル後は求人票をセットするだけで候補者を企業にレコメンドしてくれるようになりました。

4.表現する
ビジョン思考は、長期的なイノベーションを起こすために重要ですが、ビジョンが広く理解されない段階では、小さなステップで着実に進める必要があります。

そこで、Lean UXの手法を用いて、思い込みや仮説を検証し、蓋然性を高めました。ビジョンをもとにMVPを構築して、高速で価値検証を行い、その結果をもとにUXを磨きこむ。さらに、ユーザーヒアリングやリサーチを重ね、フィードバックをもとにプロトタイプを改善していく…。

こうしたプロセスを通して、ビジョンとは異なる、間違った方向性に進んでしまうというリスクを最小限に抑え、失敗と改善を繰り返しながら、一歩ずつビジョンの実現に近づいたのです。

ビジョンドリブンの可能性

ビジョンを描き、実現するためのインプットを集め、その情報をビジョンに合ったアイデアに組み替え、アウトプットとフィードバックを繰り返しながら一歩ずつ実現に近づけていく。このようなアプローチでリニューアルを進め、2023年12月にリリースすることができました。

リニューアルをビジョンドリブンで取り組んだ結果、以下の点でメリットがあったと感じています。

  • 初期段階でビジョンを描いたことで、大規模開発でも軸を持った意思決定がしやすくなった

  • デザイナーが検証ポイントの設定に関与することで、精度の高い仮説検証を速く行えた

  • エンジニアと初期段階からMVP検証に参加することで、プロジェクト開始時に描いたビジョンに基づき、実現可能かどうかを早い段階で確認できた。その結果、最終的に提供したい価値を確実に実現することができた

まとめ

今回のイベントでは、リクルートのデザイナー2名のリニューアル事例を通して、不確実性の高いリニューアルプロジェクトを推進するノウハウを紹介しました。

ユーザー調査で課題を明確化し、その結果をもとに 事業側と合意形成を行いながらプロジェクトを進めた事例。そして、ビジョンドリブンという思考のもと、多方面の立場の人々を巻き込みながら、実現したい未来を形にした事例。これらの事例が、さまざまな分野のプロダクト変革に向き合うみなさんの参考になっていたら幸いです 。

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※本記事に記載されている社員の所属部署および役職は、インタビュー実施時点の情報です。


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