CES2025を通じて業務設計スキルとAIエージェントとの未来を学んだ話


はじめに

こんにちは!
リクルートのプロダクトデザイン室オペレーションデザインユニットの長村(おさむら)です。

2025年1月にラスベガスで行われた世界最大級のテクノロジー展示会「CES2025に、私の所属するオペレーションデザインユニットから4名が参加してきました。

オペレーションデザインユニットでは業務設計・BPR/DX推進を武器として、新しい商品のオペレーション設計をしたり、既存の業務プロセスをより効率化・最適化する設計を行ったりしています。オペレーションデザインユニットで活躍する社員の職種を「オペレーションディレクター」と呼んでいます。

この記事では業務設計のプロであるオペレーションディレクターがCES2025に参加して、AIの進化とその進化に合わせた業務設計スキルの活かし方について学んできたことを紹介したいと思います。

世界最大級のテクノロジー展「CES2025」とは

まず、「CES」がどんなイベントなのかについて軽く触れておきます。
CESは毎年1月にアメリカのラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー展です。大手企業からスタートアップまで幅広い企業が、AIやIoT、自動運転といった最新技術を展示したり、トークセッションを行ったりしています。

私たちが参加したCES2025のテーマは、”DIVE IN”。出展企業各社がAIを活用したプロダクトを紹介しており、明らかにAIがメイントピックとなっている様子でした。

私たちもAIに絞って展示ブースを回ったり、専門家のセッションを聴講したりしました。

会場の様子 Consumer Technology Association(CTA)®

なぜ業務設計屋の私たちがCESに参加したのか

先ほどご紹介したように、私はオペレーションデザインユニットという業務設計のプロが集まる組織に所属しているオペレーションディレクターです。
オペレーションディレクターは非効率な業務を最適化するプロフェッショナルなので、「業務設計屋」といってもいいでしょう。

そんな業務設計屋がなぜCES2025に参加したのでしょうか。

業務設計を行うときには、人間の業務を設計するだけではなく、業務の中で活用するツールやテクノロジーの運用も設計することが多いです。

最近はChat GPTをはじめとするAIテクノロジーが業務の改善に大きな影響を与えており、オペレーションデザインユニットでもAIの活用は大きなテーマとなっています。

個人的にも、AIを活用することで業務改善のスピードもクオリティも大きく引き上げられる可能性を感じていたので、テクノロジーの最新情報をキャッチアップしておきたいと思い、CES2025に参加することにしました。

実際に参加してみると、展示ブースでは家電・美容・自動車・人材領域など、あらゆる企業がAIを活用した自社製品を紹介していました。
様々な業務や生活の領域にAIが入り込んでくる未来が示されており、私たちの仕事においても「AIの存在を前提とした業務設計」をしなければならないと気付かされました。

「業務設計屋」の視点からAI活用の最新トレンドを理解することにフォーカスしたこのレポートが、業務設計やBPRなどの業務にかかわっている方のお役に立てれば幸いです!

CES2025参加レポート

セッションの様子 Consumer Technology Association(CTA)®

CES2025で語られていた「Human-in-the-loop」という考え方

CES2025のAI系のセッションの多くで、”Human-in-the-loop”というキーワードが繰り返し語られていました。

“Human-in-the-loop”でググってみると「システムのループの中に人間との相互作用が含まれていること」と説明されている記事がたくさん出てきましたが、私にはピンときませんでした。

そんな中、CES2025の「AI For All, How to Power AI with Enterprise AI Ready Data」というセッションの中で語られていたHuman-in-the-loopが分かりやすかったのでご紹介します。
ひとことで言ってしまうと、Human-in-the-loop=「人間がAIの開発と運用のど真ん中にいる」ということだそうです。

Human-in-the-loopとは具体的には、

  1. AIフレンドリーなデータ管理をする

  2. 意思決定とフィードバックのプロセスに人間が関わる

  3. 既存業務を最適化してから、AIの設計をする
    ということだそうです。

1.〜3.における人間の関わり方についてもう少し言及すると、

1.AIフレンドリーなデータ管理をする
AIのインプットとなるデータが汚いと、汚いアウトプットしか出てきません。データ分析の世界でもよく言われる、”Garbage in , Garbage out”ですね。
インプットデータをきれいにする仕事は人間の仕事であるということです。

セッションでは企業が扱うデータのうち構造化されたデータは約2割程度で、残りの8割は非構造データであり、しかもその8割にこそ企業がもつ知見や価値ある情報に眠っているのだと話されていました。アメリカでの調査によると、約83%の経営層が非構造データの統制・管理を課題に感じているそうです。

たしかに職人技的に「あの人なら知っている!」というような非構造情報に価値があることも納得できますし、AIを活用する前提に立つとそのような非構造情報をなんとか構造化していかなければならないというのは感覚的にも理解できます。
構造化する作業はAIに実行させてもいいかもしれませんが、データの構造化マネジメントを徹底するのは人間の仕事だということでした。

2.意思決定とフィードバックのプロセスに人間が関わる
日常生活でのちょっとしたAI活用ではなく、企業がビジネスとしてAIを活用する場合には、責任のある活用をしなければならない、とも語られていました。
何でもかんでも「AIが言ったことなので〜」と責任を回避するのは企業の行動として適切ではないということは真っ当な考え方ですよね。

とはいえ、AIは100%正しいことを言うわけではありませんし、100%の精度にすることも不可能です。

セッションの中では、「意思決定」と「フィードバック」のプロセスに人間が関わる必要があり、AIの判断プロセスやAIが潜在的に持つバイアスの存在を人間が理解して、できる限りバイアスやハルシネーションを軽減する対策を取ることで「責任あるAIの活用」ができるという考え方が紹介されていました。

AIが人間の集合知であると考えると、人間もミスをするのだからAIもミスをするというのは自然な考え方だと思います。

AIも人間もミスをすると考えると、AIを活用するときの意思決定やフィードバックのプロセスを設計することは、人間の業務を設計するときに求められるスキルや考え方とあまり大きく変わらないのではないかと思います。

つまり、企業としての「責任あるAI活用」を定義し、それを実現するための意思決定プロセスやAIの精度に対するフィードバックの仕組みを設計することも、まさに業務設計屋の仕事そのものですね!

3.既存業務を最適化してから、AIの設計をする
業務設計屋としては、この3つ目のポイントが非常に刺さりました。
そもそも業務設計とは非効率な業務を最適化することです。

既存の業務プロセスが非効率なままAIを導入しても多少の改善はするのかもしれませんが、効果は薄く、投資対効果が小さくなってしまうと話されていました。AI導入の投資対効果を最大化するためには、既存の業務プロセスの非効率な部分を特定して、改善・最適化した状態でAIを導入することが理想的だということです。

このパートはAIの話をしているようで、完全に業務設計屋の仕事の話をしています。業務最適化がなされていないとAIの価値が薄れると言っているので、業務設計屋がAI活用に果たす役割は非常に大きいですね!

業務設計とAIエージェントについての学び

CES2025ではHuman-in-the-loopと関連して「AIエージェント」についても多く語られていました。

The Rise of AI Agents」というセッションで語られていた内容を簡単にご紹介します。
このセッションでは、AIの進化の過程を紹介しつつ、2025年1月の時点で最新トレンドであるAIエージェントが様々な業界でどのように活用されているのかについて紹介されていました。

Consumer Technology Association(CTA)® (presented by Michael Anderson)

まず話されていたのはAIの進化についてです。
サポートセンターを例にして、AIは以下のように発展してきたと語られていました。

  1. AIチャットボット(FAQ型のBot)
    a. 特徴:用意されたFAQを参照して、定型的な回答をするAI
    b. 役割:FAQ対応など業務の一部分だけを担う

  2. AIプラットフォーム(会話型の生成系AI)
    a. 特徴:より高度で複雑な内容に対応し、他システムとの連携も柔軟に可能
    b. 役割:ユーザーの自己解決を促進したり、オペレーターの回答作成を補助したりして、人間の業務の一部を代替する

  3. AIエージェント
    a. 特徴:複数の情報ソース(マルチモーダル)に対応して、他のAIや人間を活用して、さらに複雑な課題解決や業務推進を自律的に行なう
    b. 役割:期待するゴールを達成するために必要なプロセスを丸ごと担う

AIエージェントは自律的に課題解決を進めてくれるAIです。時には他の専門性の高いAIを活用したり、人間に任せたほうが良いタスクは人間に依頼したりしながら、目的の達成のために必要なプロセスを担ってくれるというものだと説明されていました。

AIエージェントって、まるで人間のようですね。

ここで、業務設計屋の視点からAIエージェントの活用を考えてみます。
業務改善をするときのプロセスは、基本的には「業務の可視化」→「課題整理」→「改善案検討」→「業務再構築」→「実行」という流れになります。

Human-in-the-loopの考え方でも紹介しましたが、AI活用においては業務プロセスの最適化を先に実施する必要があります。

AI活用をする場合の業務改善プロセスは、まず「業務の可視化」と「課題整理」を行います。その後、AI活用を前提とした「改善案検討」や「業務再構築」を行うという流れになるのだろうと考えます。

つまり、AIエージェントの活用をするにあたり、どの業務プロセスをAIエージェントに任せ、どの業務プロセスを人間が担当するかは人間が設計する必要があることを意味します。AIエージェントを使いこなせるかどうかは、業務設計屋の腕の見せどころであると言えるでしょう。

では、「AI活用前提の業務設計」と「人間の業務設計」とで必要なスキルに差分はないのでしょうか。

The Rise of AI Agents」のセッションでは、「リスク」と「体験」の観点からAIエージェントを活用するとき固有の気をつけるべきポイントが語られていました。

セッションでの情報をもとに、CES2025に一緒に参加したメンバーと、AIエージェント活用を前提とした業務設計における固有の観点について整理してみました。

以下が人間の業務設計とAIエージェント前提の業務設計の差分だと考えます。

  1. システム全体の構造理解

  2. ケアするべきリスク

  3. 継続的な改善のやり方

1.システム全体の構造理解
AIエージェントが効果を最大限に発揮するための環境(=システム構造)を理解しておかないとAIエージェントを活かした業務設計ができません。

いくらAIエージェントが人間っぽいといっても、あくまでもシステムです。そのため、AIエージェントが「働く環境」としてのシステム構造を人間が整えてあげることが必要です。システム設計はエンジニアの仕事ですが、業務設計屋としてもAIエージェントが機能しやすい条件が揃っているのかという観点は持っておくべきでしょう。
(そうじゃないと業務設計屋とエンジニアの会話も成立せず、プロジェクトがうまく進まないかもしれません)

具体例を1つ上げると、Human-in-the-loopの考え方でもご紹介した「データマネジメント」もAIエージェントの働く環境の1つの要素だと言えるでしょう。

非構造データを構造化する業務や、構造化データを管理する業務を実際に行うのはデータエンジニアかもしれませんが、業務設計屋としてもそのデータがどのように作られているのかを知り、どういう意味をもつのかを理解する必要があります。
それを理解できていないと「意思決定」や「フィードバック」のプロセスを適切に設計することができないかもしれません。

2.ケアするべきリスク
ケアすべきリスクについてもAIエージェント固有の観点があります。

AIエージェントは人間ではないので、人間なら絶対にしないような言動をする可能性があります。
リスクの観点としては

  • リーガルリスク

  • 倫理的リスク

  • レピュテーションリスク
    です。

例えば、人種差別につながる発言をしないように制御を加えておく(倫理的リスク)とか、誤回答をすると訴訟になりうる内容については回答DBにない情報から推察して回答させない(リーガルリスク)などの事前策を取っておく必要があります。これをガードレールの設計というそうです。

3.継続的な改善のやり方
人間の業務においてもPDCAサイクルを構築・実行することで継続的な業務改善が行われると思います。

ただし、人間の業務における継続的改善は、生産性の向上や品質担保といった「マイナスをゼロにする」ような役割が主眼です。
一方、AIエージェント活用における継続的改善の取り組みは、顧客体験の向上や競争優位性につながるといった「プラスにする」役割もあります。

また、AIエージェントの改善は人間の業務以上に目に見えづらいという特徴があります。そのため、どのようなログを取るのか=どういう指標を改善したいのかを事前にきっちり設計して、データで改善課題の検知をできるようにしておく必要があります。

おわりに:業務設計屋が最新テクノロジーをおさえておく重要性

会場の様子 Consumer Technology Association(CTA)®

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

業務設計屋が最新テクノロジーのトレンドをおさえるためにラスベガスまで行く必要があるのだろうか?と思う気持ちがゼロだったかというと嘘になります。

しかし、実際には行ってみて本当に良かったと思います。会場の熱量やどんなワードが頻繁に飛び交っていたかなど、リアルでしか感じられない「トレンド感」を捉えられたことは大きい収穫だったと思います。

しかも最新トレンドとして多く語られていたAIエージェントやHuman-in-the-loopの考え方は自分たちの業務にダイレクトに関係するものでした。
業務設計屋だからといって、業務のことだけを考えるのでは十分ではないと思います。

業務改善のために、様々なテクノロジーを活用する必要性や機会が増えてきていると思いますが、その機会を活かすためにはこういった最前線の考え方を取り込んでおくことは非常に有意義だと感じました。

今回CES2025で学んだ考え方を今後の業務で活かしていきたいと思います!


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