【速報】ここでしか見られない Adobe の開発途中の新機能を一挙に紹介 ~ Adobe MAX 2016 Sneaksレポート
wakamsha
Sneaks って何?
Sneaks とは Adobe MAX で毎年行われる恒例セッションの一つです。現在 Adobe 社内で取り組んでいる最新の製品開発に関する情報をどこよりも早くチラ見せしてくれるのが特徴で、初日の基調講演と並ぶ人気のセッションです。単に最新情報だけを公開するのであれば特筆することのことではないかもしれませんが、Sneaks の特徴は将来的に製品に組み込まれるかどうか未定のプロトタイプであっても惜しまず公開してしまうところにあります。プロトタイプレベルなので中にはデモを披露しようとしてもうまく動かないようなものも少なくありませんが、それでもそんなものはご愛嬌で済ませられてしまうくらいぶっ飛んだアイディアが多いのがこのセッションの魅力です。
会場ではアルコール飲料が無料で振る舞われるので、従来のお硬い基調講演とは違い、かなりカジュアルなノリのセッションなのも特徴。
今回も実に多くのアイディアが披露されました。簡単ではありますがその内容をご紹介します。なお、それぞれのタイトルはそのまま Twitter のハッシュタグとなっておりますので、そちらも併せてご参照いただくと面白いかと思います。
1. #Stylit
紙などに描かれた手描きの画のタッチや色合いを全く異なる形状の 3D オブジェクトの着色として自動的に適用させることができる機能です。元となる絵の画材に制限はなく、パステルやクレヨン、水彩絵の具やマーカーなどが使用可能。それぞれの画材の持つ陰影やタッチがそのままシミュレートされて、無機質な 3D モデリングオブジェクトがまるで温かみのある 2D ペインティングのように着色されます。
また、元となる紙の絵からはあくまでタッチや色合いのみを参照するので、着色対象となる 3D オブジェクトと全く異なる形状であってもOK。さらに 3D オブジェクトは静止物だけに限らず動画でも利用可能となっています。
デモンストレーションでは恐竜の 3D オブジェクトに対してその場でパステルを使って単純な図形の絵を描いていましたが、絵の進み具合と同時にみるみる恐竜のオブジェクトが着色されていき、会場から歓喜の声が挙がっていました。
こちらのみ珍しくデモサイトが用意されていました。以下のリンクより実際にお試しいただけるようです。
2. #SyncMaster
音声ファイルの波形データを解析し、そこから音の区切りとなる箇所をキーイベントとして自動的に登録することができます。このキーイベントデータに対して動画クリップをスナップさせることで、音楽に完璧にマッチした映像を簡単に作ることが可能となります。
音声の波形データまで詳細に解析されているので、音楽のビートと映像へのエフェクトを同期させるといった演出も可能となります。
3. #ColorChameleon
あらかじめ用意したカラーパレットのテイストに合わせて画像の色合いを自動的に調整する事が出来ます。
例えば貴方がこれからペライチのフライヤーを作成するとしましょう。カラーパレットが決まり、テーマとなる画像のイメージも固まってきましたが、これだと思える画像がなかなか見つかりません。それっぽいものは見つかっても微妙に明るすぎたり青みがかかってしまっていたりなど、カラーパレットの色合いとマッチしません。普通であればこんな時は画像に対して一つずつ地道に手作業で色合いを調整していくところですが、 ColorChameleon さえあればワンクリックで色調整が済んでしまいます。もちろん画像の色調整は複数枚にも対応済み。これはデザイナーさんの大きな助けになるのではないでしょうか。
4. #LoopWelder
Instagram にアップロードされる動画はデフォルトで無限ループで再生されるようになっていますよね。普通、ループされる動画は開始時点と終了時点の画が一致していないことからループするポイントが容易にわかるようになっているものです。
LoopWelderは、動画のループポイントを自動で検出して自然なループ動画を生成することができる機能です。つまり今例に挙げた Instagram の例だと、どこがループのポイントなのかわからないくらい自然に調整してくれるというものです。
さらにLoopWelder が検出するループポイントは一箇所だけでなく、複数箇所を検出してそれらをいくつも組み合わせることでより自然なループを作り出します。これにより、1〜2秒といった尺の短い動画からでも一見ループしてることに気付かないくらい自然な感じで尺を伸ばした動画を生成することが可能となります。SNS だけでなく、プロの映像制作の現場においても大きな手助けとなることでしょう。
5. #ConceptCanvas
今回の Sneaks で一番インパクトが大きかったと言える発表でした。
ConceptCanvas は全く新しいタイプのイメージ検索で、現在は Photoshop の部分機能として開発されています。
素材として使う画像を探すというのはとても大変な作業です。例えば犬の画像素材を探したいと思っても、どのようなアングルであったりサイズのものが欲しいのかはケースによって様々であり、そうそう都合の良い状態で写っている画像を探すのは決して簡単ではありません。
ConceptCanvasは、まず Photoshop のアートボード上に欲しいサイズの矩形シェイプを配置し、そのシェイプに欲しい要素のキーワード ( アノテーション ) をテキストで入力し、これで検索をかけます。するとそのシェイプの配置とサイズ感に適した画像を検索結果一覧に表示させることができます。シェイプとキーワードは複数指定でもOK。それらの要素の全てに合致した画像を検索することができます。
6. #InterVector
写真からベクターデータを生成することができます。類似の機能は Illustrator のライブトレースや Adobe Capture というモバイルアプリで既に提供されていますが、InterVector はそれらの機能をさらにもう一歩向上させたものです。
写真を取り込んでそこからアウトラインを抽出するというところまでは一緒ですが、InterVector はデティールの調整やアウトラインの適用・削除などをブラシツールなどといった UI で直感的に調整することができるのが特徴となっています。現在 Illustrator の部分機能として開発が進められています。
7. #Wetbrush
絵筆の描き味を物理シュミレーションすることができる機能です。
描かれた画は 3D データとしてモデリングされているため、実際の油絵のように重ねた絵の具の立体感まで表現させることが出来ます。アングルを変えると画の凹凸が確認できるのが分かります。さらに光源の調整も可能となっており、絵に反射した光のテカリまで表現することが出来ます。絵というデータを作るのではなく、まさしく絵というオブジェクトそのものをデジタルで作り出す事ができるというわけです。
こちらのデータは 3D プリントすることで、本物の油絵のような質感を出すことが出来ます。僕も実物を触らせていただきましたが、あまりのリアルな質感にため息が出ました。
8. #QuickLayout
レイアウトの配置に合わせて画像サイズを自動的に調整してくれる機能です。複数配置された画像のうち一つを調整すれば他の画像のサイズや位置が自動で調整されて最適化されます。イメージとして Instagram の Layout というアプリが近いでしょうか。
9. #SkyReplace
画像にある空の部分を自動で検出して他の画像の空に差し替えることができる機能です。
単純に他の画像から空の部分を差し替えるだけでなく、地面や建物の陰影などといった他の箇所の色合いも自動で調整されるのが特徴です。
また、差し替え用の画像は自分で用意するだけでなく検索により自動で候補を出すことも出来ます。これをAutomaticSkyReplacementと呼びます。
10. #VoCo
音声データから文字起こしをして、そのテキストを操作することで音声データを編集することができる機能です。例えばテキストを並べ替えたりコピペして切り貼りするなどをして音声データをコラージュできる。編集された音声データに違和感はなく、とても自然な感じで再生されます。
さらにデモでは、元の音声データにない言葉も合成して再生するといった荒業もやっていました。開発者いわく、『20分間ほど喋ってもらうと、その人の特徴を掴むのに十分なサンプルが取れるよ』とのことです。恐ろしい時代が来たものですね。
11. #CloverVR
Oculus Rift といった VR ゴーグルを被って VR 動画を実際に視聴しながら編集をすることができる機能です。VR 製作には映像編集の結果が分かりにくいというのが課題としてあります。HMD を付けたり外したりしながら編集するのは非常に手間ですよね。編集結果を少しでもわかりやすくするためのソリューションとして現在開発が進められています。
おわりに
今回紹介された11の機能はどれも斬新かつユニークでありながら、しっかりと実用性を考慮された非常に魅力的なものばかりでした。ちなみにこの Sneaks は事前に社内コンペのようなものがあり、そこでは100以上もの応募があるそうで、その厳しい競争を勝ち残ったものだけがこの晴れ舞台に立てるというものらしいです。Adobe という会社の懐の深さと層の厚さが窺い知れるところです。
冒頭で述べた通り、ここで紹介された技術の全てが本製品に採用されるわけではありませんが、一年の間にコレほどまでインパクト大かつ実用製も含んだ機能を大量にブチかましてくるAdobeという企業には、誇張なしに驚かされるばかりです。