"素うどん方式"を活用したら爆速でサービス構築できた件
リクルートの社内ICT(コーポレートIT)に関するブログを始めます!
こんにちは、ICT統括室の柳原です。
先日、リクルートの社内ICT組織の取り組みを、 リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023で、公開させていただきました。
このような情報をもっと頻繁に色々な方にお伝えしたい!と思い立ち、定期的なブログで情報発信をしていこうと思ってます。
その栄えある(?)1回目は、「コストを掛けずにクイックにサービスを作るには、どのようにモノづくりをすればよいか?」をテーマにお話ししたいと思います。
プロダクトアウトでサービス導入する場合、クイック、かつ、ミニマムに導入することが求められるケースがあると思います。とはいえ、ミニマムと言いつつも、UIや品質が疎かになるとその後のサービス展開に支障をきたすことにも繋がってしまいます。
そこで、今回は、最小限で価値あるサービス(=素うどん※)をクイックに品質高くリリースできた事例について、ゆる~くお伝えできたらと思います。
※ 素うどんとは?・・・
出木場CEOが提唱。サービス開発において、トッピング(オプション機能やお得感ある値段設定など)に走ることなく、まずは最高の素うどん(価値あるサービスそのもの)を作ることに重きを置く考え方(参考リンク)
そのため、特定の技術スタック、ツールの紹介といった技術的な内容には全く触れてません。ですが、社内システムのPdMの方に少しでも参考になればうれしいです!
始まりは雑談から 「未来の人事情報を検索できたら便利では?」
現在、私は社内で利用されている「従業員検索システム」を担当しています。
この「従業員検索システム」では、従業員の様々な情報が公開されています。従業員の「所属部署」はもちろん、所属部署以外にも、従業員をより広く深く知るための情報として、様々な情報を公開しており、業務メアドはもちろん、社用PCや携帯などのデバイス情報、各種利用システムの権限情報、更には本人記載の個人プロフィールまで、あらゆる情報が集約されており、高いユーザ満足度を誇っています。(参考リンク)
しかしながら、1点、カバーしきれていない課題がありました。リクルートでは、年に2回、4月と10月に大きく組織改編が実施され、組織構成やメンバー所属も大きく変更となります。変更が反映された人事情報は、4月人事であれば3月に、10月人事であれば9月に、PDFで従業員に公開されます。ところが、このシステムは、「その日時点」の最新の人事システムデータをベースに、所属部署等の従業員情報を公開する、という仕組みとなっているため、4/1や10/1当日にならないと人事情報は反映されません。そのため、従業員は何百ページにも及ぶPDF資料をつぶさにチェックしたり、検索して欲しい情報を得る、というのが当たり前の風景でした。
「膨大なページから情報を探すのは大変…」「見やすいフォーマットで確認したい!」という雑談から、高いユーザ満足度を得ている「従業員検索システム」を使って、4月/10月人事の「未来情報」を確認することができたら、とても便利なのではないか?という話となり、「それは確かに良いかも」ということで、本格的に検討する運びとなりました。
課題
とはいえ、雑談から検討をスタートしたこともあり、コストを大きく投下するわけにはいきません。
また、リクルートの従業員からすると「4月人事や10月人事情報は前月にPDFでチェックする」ことがアタリマエであったため、「従業員検索システム」で4月人事や10月人事の「未来情報」を公開することに対して、従業員のニーズがどの程度あるかは未知数でした。従業員は普段慣れ親しんだモノを好む、ということも予想されたので、「未来の人事情報を検索できたら便利なハズ」と思いつつも、なかなか確信が持てない状況でした。そのため、手数を掛けずに検証しながらサービスを作る必要がありました。
何を作るか?/どのように作るか?
まず、この取り組みのベースとなる4月人事や10月人事といった未来の人事データを、前月に取得することがキモとなりますが、人事部の協力もあって首尾よくデータ取得する手筈を整えることができました。
未来の人事情報という具材は揃ったので、あとは「従業員検索システム」を活用して「何を作るのか?」「どのように作るのか?」というようなサービス設計や開発方針がポイントになりました。
ポイント①:何を作るのか? 「全部のせ」VS「素うどん」
ここからは、うどん(…と言いつつ、図はラーメンw)を例にして、説明していきます。
当初、メンバーには「新規サービスをリリースするのであれば、やっぱりより良いものを作りたい!」という思いがあって、「豪華な全部のせ」を想像していました。「豪華な全部のせ」とはつまり、既存の従業員検索システムの中に、これまで載せていた従業員の「現在情報」と、今回新規に追加する「未来情報」を並べて、同じメニュー内に同居させる、というUIでした。
ただ、「現在情報」には前述の通り、従業員の現在の所属情報以外にも、デバイス情報や各種権限情報、プロフィール情報など、より広く深く知るための情報も掲載しており、そこに更に「未来情報」も追加するとなると、未来の情報を見たい人にとっては見づらくなってしまう、逆も然りで、現在の情報を見たい人は見づらくなってしまう、と考えました。要は、「豪華な全部のせ」にすることで、今の味が好きな人が離れてしまう、というジレンマに陥ることが予想されました。
であれば、元々の目的である「未来の人事情報を確認しやすくするには?」に立ち返り、その命題にシンプルに対応するために必要最小限の作りにした方が良いのでは?と考えました。「豪華な全部のせ」ではなく、むしろ、シンプルな「素うどん」にする、ということです。つまり、「現在情報」は何も変えずにそのままで、「未来情報」は別メニューでシンプルな素うどんにする。「未来情報」を見た際に、現在の詳細情報を見たくなったら、導線を用意して別メニューである「現在情報」に遷移して見てもらう。「好評な今の味を残しつつ、新しい味を求めるヒトに最適なサービスを提供する」ことを考えた結果、未来情報は「素うどん」を別メニューで提供する方向に舵を切りました。
ポイント② 「素うどん」を作るには? 「引き算型」VS「足し算型」
未来情報を別メニューの素うどんで提供することは決めましたが、では「どのように素うどんを設計するのか?」が続くポイントになりました。
本来であれば、未来情報を見るために特化したUIを設計するのが王道だとは思います。別メニューにしたから尚更です。ですが、ゼロベースで素うどんを生み出そうとすると、生地をこね、スープを作る、、という工程が必要となってしまい、「手数を掛けずにサービスを作る」という前提にそぐわなくなってしまいます。
そのため、「既存資産を徹底活用」することを思い立ち、そこに「素うどんを作る」という考えを当て込んだ手法を採ることにしました。
ここでいう既存資産とは、既存の「従業員検索システム」自体です。というのも、先に述べた通り、既存の「従業員検索システム」は高いユーザ満足度を得ており、UIとしてはすでに完成形であったためです。
ですが、「未来の人事情報を見る」という目的に照らすと、不要な機能や項目も多くありました。それら未来情報を見るためには不要な機能・項目を取り除いていく、つまり、トッピング的な要素を削ぎ落としていくことで素うどんにしていく、そうすることで自ずと未来情報検索として最適なUIができあがるのでは?という仮説を立てました。
この「既存資産から引き算して素うどんを作る」という方針を採ることで、要件定義やチーム内のすり合わせがとても容易になりました。ワイヤーを作らずとも「この表示項目は要る?要らない?」「この機能は要る?要らない?」というように要否を確認するだけで、ほぼ要件定義が済んだので、めちゃめちゃ楽でした。
また、副次的に、もともと「要る!」と思っていた機能の中にも、「この機能は未来情報を見る上では実は不要では?」という意見もメンバーから自発的にでてくるなど、良い効果を生み出しました。
そして、このようにトッピングを削ぎ落とすことで洗練されつつ、未来の人事情報を知るのに適した素うどん、未来の従業員情報検索が社内でリリースされる運びとなりました。また、リリースした結果としては、UIや操作性に関するネガティブな意見もほぼ無く、狙い通りの効果を生み出すことに成功しました!
まとめ
素うどんの作り方
本来、素うどんのサービスを作る、ということは、ユーザの目的やニーズに照らして、軸となる価値をシンプルにつくることにとことん向き合う必要があるため、とても時間がかかる工程かと思います。
今回は、すでに、麺や出汁(トッピングも)が世に出せるレベルで完成している商品がすでにあったので、その既存資産を徹底活用し、余計なモノを削ぎ落とすことで、クイックに素うどんを作ることに成功しました。
ただ、その「余計なモノを削ぎ落とす」という行為も、逆に言うと「何を残すのか?」を見極めることが大事です。「何を残すのか?」=「ユーザーにとって大事なものが何か」をしっかりと見極めつつ、既存資産から「余計なモノを削ぎ落とす」ことが、この手法における成功のポイントになるのでは、と今回の取り組みを通じて感じました。同様の場面は少ないかもしれませんが、素うどんのサービスを作るためのひとつのやり方として、是非参考にして頂けたらと思います。
より良い開発方針とは?
今回の取り組みでは、「余計なものを削ぎ落とした素うどんを作る」という開発方針を立てましたが、このように、新しいモノを作る際に方針を設定するケースも多いかと思います。
開発方針を掲げる目的として、メンバーの動きをなるべく制限して進む道をブラさない、少し悪い言い方をすると、そのような側面があると思います。
ですが、一方は、方針でロックしてあげることでチームがわかりやすく動けるようにする、他方では、方針のもとでメンバーの意見を引き出しやすくする、そのような開発方針が本来リーダーが立てるべき方針だと思います。
今回「余計なものを削ぎ落とした素うどんを作る」という方針を立てたことにより、チームの共通認識を揃えスムーズに開発できただけでなく、方針のもとでメンバーから自発的なアイデアを引き出すことにも繋がりました。
方針を立てる際に少しでも参考になれば嬉しいです。
最後に
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