自動化の恩恵は「自動化されて楽になるだけ」に非ず!
石丸洋樹
この記事はリクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023 17日目の記事です。
こんにちは。ICT統括室にてスタッフ組織のBPR支援をしております、 石丸です。
この記事では、スタッフ部門の業務の自動化をする、あるいは検討することで得られるメリットについて、単なる自動化による工数削減以外の観点からもお話しします。いわゆるBPRです!
今回は技術的なお話ではないので、箸休め的にご一読いただければと思います。
対面する組織の業務について
私がBPR支援を行っているスタッフ組織では、様々な情報を取り扱います。
カスタマーの個人情報は言うに及ばず、社員の情報でも機微なもの(査定情報や育成計画等)が多くあり、取り扱いには慎重を期す必要があります。
たとえば、「現在の部署では積めない経験をしたい、という社員の本音を、別部署の組織長が第三者的に聞く」という施策があるとします。その施策では、過去の育成計画や、キャリアの評価などの機微情報を、その社員の直属の上司以外に共有して、どのような業務・部署が良いかのコメントをもらう必要があります。様々な不安要素や制約を勘案しながら、現場業務の手段をベースにやりたいことをそのまま実現しようとすると、下記のようなフローになってしまうと思います。
①社員のキャリアについて、開示同意を受けた情報を見せた上で、第三者のコメントがほしいな…。でも、社員情報が今の仕組みで見られるのは人事と直属上司のみに限定されている
②では、データベースから情報を抜いて、更に見せていい情報だけに加工してExcelに転記しよう!そこにコメントを書いてもらうようにしよう!
③このファイルをファイルサーバやクラウドに置くと、アクセス権を都度設定しなくてはならないし、誤ったアクセス権を付与した際のリスクが大きい。メールにファイル添付して関係者だけに送るようにしよう!
④万が一、無関係の人が誤って見てしまった場合に備えて、ファイルにパスワードをかけておこう!
⑤誰からコメントをもらったかどうか、メールに返信がきたかどうか分からなくなってしまうから、台帳で管理しよう!
といった感じで、業務フローのプロセスが増えたり、複雑になっていきます。
自動化する前に業務を簡単にしよう!
仮に先述の様な状態になると、業務フローはどんどん増えていき、最初は小規模だからできていた運用が、業務範囲の拡大と共に立ち行かなくなっていきます(なにせ社員数がすんごい)。
そのようなタイミングで、我々ICT組織へ相談が舞い込んで来ます。
「自動化がしたい」と。
既に運用開始している業務を自動化することは簡単ではありません。技術的な難易度もそうですし、複雑なプロセスをそのまま全て自動化しようとすると、保守困難なスパゲッティツールが出来上がってしまう可能性もあります。
そのため、自動化の前に、まずはなるべく業務フローを簡単にすることが求められます。
いわゆるBPR(Business Process Re-Engineering)の一種ですね。
チェック項目はざっとこんなものでしょうか。
・そのプロセス自体が本当に必要か
・(必要なら)そのプロセスは簡素にできないか
(例:複雑な条件分岐やイレギュラーの排除)
・(あまりに複雑なら)複雑さの要因となっているプロセスだけ切り出して手運用にできないか
業務を簡単にする際の代替策の提案や問いかけの仕方は、ICT組織の腕の見せどころですね。
業務を簡単にするための現場とのコミュニケーション
業務を簡単にする際の代替策の提案や問いかけにおいて、現場とのコミュニケーションの取り方が重要になります。現場の人たちも、無駄なことはしたくないという思いで我々に相談してくれています。
「この業務をやって何の意味があるんですか!?」と、どストレートに聞くよりは、
「どんな目的でその業務をやっているんですか?」を確認する目線から話を進めることが大切です。
たとえばイレギュラーケースが多い場合、「イレギュラーケースを許容することで、皆さんが注意すべき点が増えてミスが発生する可能性があります。イレギュラーケースは一律受け付けない、という方針にした場合、どういった点で困りますか?」などのように質問していきます。
複雑な分岐が多い場合、「分岐が多いと、判断を誤ってしまい、間違った手順を踏むリスクが発生してしまいます。この分岐条件はどういった観点で設定していますか?」などのように問いかけます。
作業の目的が見えにくかった場合、「この作業は、何を目的としたものですか?これを行うことで担保されることや、やらないことでどういったクリティカルな影響が発生しますか?」
といったように、その要件を取り込むこと自体が現場側にとって本当に必要なのか、嬉しいことなのか、という観点からの問いかけや提案を繰り返します。その問いかけが結果としてプロセスの整理に繋がります。
プロセス整理が実を結び、自動化してみれば…
自動化によって、手で作業するスコープが極小化され、工数が削減されたことは言うまでもありません。加えて、プロセスの整理をすることで、
「本当にやらなくて良いことが整理され、やらないで良くなった」
「やるべきタスクも、プロセスの見直しで削減されて楽になった」
「ミスの発生確率が下がる運用に変えられた」
といったように、終わってみれば自動化前よりも業務フロー自体がシンプルになり、属人的な作業や神経を張り巡らせる作業を少なくすることができます。
特に、当社は全く異なる業務へのチャレンジや経験値の獲得を求める社員が多く、会社としても機会の提供を重視しています。そのため、人員配置が変わることは全く珍しいことではありません。したがって、業務のプロセスを日々型化・簡素化しておくことは非常に重要です。そういった持続性の意味で、自動化とは、それ自体がもたらす工数削減効果だけでなく、自動化に乗じてプロセス自体が見直されるという大きなメリットがあります。
また、相談を受けるなかで、技術的な実現可否というのは必ず検討し現場と共有します。一緒に作り上げていく過程で、現場もまた「システムで簡単にできることとそうでないこと」の知見が溜まっていくわけですね。
そうしていくことで、「ここはこういうフローにしておけば自動化しやすそう」「ここはこういう技術を使えば、手作業が要らない」などの知見が現場側で溜まっていき、次の業務設計時にはより洗練されたフロー設計ができるようになっています。
さらには、自分たちで開発をしよう!となってくれる方もいて、自組織へ技術を伝播してくれるので、組織全体のITリテラシーの底上げに繋がるのも嬉しいことですね。
おわりに
すごく簡単ではありますが、フローの自動化業務について、単にシステムで自動化して楽になることだけが効果ではなく、業務フローそのものがシンプルに整理されますよ!ということをお伝えさせていただきました。これを読んでいただいた皆様が「業務フローのシンプル化」について少しでも視点の広がりを見い出せておりましたら幸いです。
以上、拙文ではございますが終わりとさせていただきます。リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023では、リクルートの社内ICTに関する記事を投稿していく予定です。もし興味があれば、ぜひ他の記事もあわせてご参照ください。