社内の14環境、延べ62,000人利用のJira/Confluence サーバー版をクラウド移行および統合した話
渡邊大貴
この記事はリクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023 16日目の記事です。
こんにちは。リクルート ICT統括室の渡邊です。
社内のSaaSツール(Jira・Confluence・Miro等)の保守/運用をメインにお仕事しています。
今回は、社内に乱立したJira/Confluenceサーバ版をクラウド版に移行した際の、推進過程や苦労話をご紹介します。
Jira/Confluenceのクラウド移行や環境統合に困っている方や、何かしらのSaaSツールで同じような対応をしようとしている方にとって是非参考となればと思っております!
本対応のきっかけ
当社では、Jira/Confluenceサーバ版を長きに渡り利用していましたが、製品ベンダーであるAtlassian社より、2024年2月15日での「サーバ版のサポート終了」が発表されました。
そのため、データセンター版(オンプレ)、またはクラウド版のどちらかへの移行対応をせざるを得なくなったというのが、本対応のきっかけです。
社内に計14環境、延べ約62,000人利用の独自環境が乱立!?
移行の検討初期に、社内にあるJira/Confluence環境を調査したところ、計14環境、利用者数で換算するとなんと延べ約62,000人利用の独自環境が乱立…(こんなにも乱立していたのは、リクルートが分社化し、その後統合したのが大きな理由です…)
独自環境が乱立している上での課題感は大きく3つありました。
- ①ガバナンスレベルのばらつき
各運用組織ごとの工数/費用余力でできる範囲のガバナンス対応を実施していたため、レベルにばらつきがある - ②情報検索の手間
情報が散在しているため、領域を跨いで仕事をしている場合に情報を探すのに一苦労 - ③重複作業、多重ライセンスコスト
複数の環境毎にそれぞれ似た運用保守作業が存在、また、環境毎にライセンスコストが発生
そのため、ただ移行するだけでなく、これを機にあるべき姿を模索し、そこに向けての組み換えを含めた移行方針を固めていくことになりました。
移行方針の決定
移行先の選択肢としては、「データセンター版」「クラウド版」の2つがありました。
いずれの環境に移行するにせよ、独自環境が乱立している、という現状の課題感を払拭するため、「乱立した環境を1環境に統合する」という方向性で検討を開始しました。
データセンター版・クラウド版それぞれにて必要工数に多少の差があれど、Confluenceは統合できる見立てが立ちましたが、
Jira統合には、データセンター版・クラウド版それぞれにてデータ移行可能とするための事前準備(※1)がかなり必要であり、
複数環境を抱える当社としてはそれを実行する工数を考えると、統合の実施は妥当ではないと判断しました。
※2 Jira構成:ワークフロー、カスタムフィールド、画面、課題タイプ、優先度、各種スキームの設定
そのため、「Jiraについては独自環境のまま移行する」とせざるを得ませんでした。
Jiraについてはいずれの案を採択した場合でも統合は難しいと見えてきましたが、
クラウド版の場合には独自環境をテナントの配下に移行でき、同一テナント配下の環境としてガバナンスレベルの統一をはかれそうなことが分かりました。
さらに、Atlassian社の「ユーザーエクスペリエンスの強化に積極的な投資を行う」というメッセージから、クラウド版はより一層進化していくだろうと推測しました。
結果、クラウド版で移行する方が今後を考えるとメリットが大きいと判断し、以下の移行方針としました。
・クラウド版へ移行する
・Jiraは独自環境のまま移行するが、Confluenceは基本環境統合する
いざ、移行へ
多くの独自環境が乱立していたので、移行する順番を工夫しました。
- ポイント①:管轄部隊が自組織もしくは近くにいる環境をまず移行する
- 手探り感で課題も多く出ましたが、移行推進担当=独自環境管轄直部隊であったため、直接ベンダーとコミュニケーションを取り、移行全体の動きも理解したうえでの判断が可能に!
- さらに、クリアになった課題をドキュメント化し、以下のフェーズ2以降の独自環境側に展開!
- ポイント②:似ている移行パターンは、同じフェーズで移行する
- フェーズごとに対応の流れやタスクが基本的に同じになるので、説明やタスク確認がまとめてでき、効率化!
結果、3フェーズで移行を推進していくことにしました。
- フェーズ1
-
- 移行推進担当=管轄直部隊の環境
- フェーズ2
- Jira/Confluenceともに独自環境のまま移行する環境
- Confluenceのみで環境統合する環境
- フェーズ3
- Jiraはそのまま移行し、Confluenceは環境統合する環境
クラウド移行推進中のハマりポイント
クラウド移行を推進していく中で、特にハマったポイントは3つです。
- ①実績ない大規模移行
- これほどの大規模かつ環境統合しながらの移行は、おそらく世界で例がありませんでした。
そのため、フェーズを区切った移行方針とし、課題を順次検知、修正する方針でした。 - 案の定、フェーズ1の段階でパフォーマンス性能に大きな課題があり、大分ハマりましたが、規模が大きくなるフェーズ2以降に間に合わせる形で修正できたことは救いでした。
- これほどの大規模かつ環境統合しながらの移行は、おそらく世界で例がありませんでした。
- ②機能提供タイミングの変更
- ID管理は中央テナントで管理するが、各環境の権限付与は環境ごとの判断基準もあるため、引き続き各独自環境で行ってもらう方針としました。
- 移行検討初期の段階では、各環境で権限付与する機能はなかったものの、フェーズ2ごろに機能追加が予定されていました。
- しかし、直前で機能提供タイミングに変更があり、自前でのREST APIを用いた権限付与ツールの開発を余儀なくされました。
- SaaS製品あるあるかなとは思いますが、今後のアップデート機能で運用検討する場合は、こまめに開発状況を確認し、代替案も含めたスケジューリングをすべきと思いました。
- ③ 想定以上に製品を使い込んだヘビーユーザーの存在
- ベーシックな機能については、事前に我々でも検証して洗い出したつもりでした。機能やアドオンの細かい違いも一定把握はしていましたが、基本的には問題がないと考えていました。
- しかし、いざ移行する際になってみると、様々な機能やアドオンを駆使し、想定以上の使い方をしているヘビーユーザーが思ったよりも多くいることがわかりました。結果的には、我々の事前の影響見立てでは不十分、解決までに非常に多くの時間を要しました。
- 移行検証などの早い段階でヘビーユーザーを巻き込んでおけば、お互い焦らず進められたのではないかなと反省しています。
得られた成果
検討開始から約3年を経て、2023年12月に全環境の移行を完遂しました!!
もともと抱えていた課題感を払拭できただけでなく、プラスで得られた成果(恩恵)がありました!(以下の太字部分)
- ガバナンス
- 社内ユーザーはシングルサインオンでのログインとし、セキュリティを強化!
- 退職時に自動でクリーニングされるよう設定!
- その他、IP制限・監査ログ等も一元管理!
- 情報検索の手間を軽減
- Confluenceはほぼ1環境に統合し、情報検索の手間を軽減!
- コストの最適化
- 独自環境の運用負荷軽減(環境によってはゼロに!)し、運用保守費用を削減!
- ライセンスコストは1ユーザー1ライセンスに!
- 新機能や機能アップデートをタイムリーに提供
- クラウド版は自動でどんどんアップデートされる。便利な機能をすぐに利用可能に!
今後の展望
- カスタマーサクセスの進化を追求
- クラウド版では、Atlassian Intelligence、公開リンク、ゲスト機能等々のような便利な新機能が出てくるので、都度セキュリティ的に問題ないかを確認しながら公開していきます。
- 機能が多く、どんどん追加されるゆえに、ユーザからの問い合わせが多くなります。分かりやすいTips記事の拡充や、より多くの問い合わせをチャットで自動回答できるような仕組みを整えていきます。
- クラウド版の独自環境の統合
- データセンターからクラウドへの移行時は、Jiraの環境統合は仕様上不可能でした。
- しかし、クラウド間での環境統合は技術的に可能であるため、環境を統合していくことで、さらなる運用負荷の軽減・情報検索の手間の軽減に繋げていきます。
これらの進化ができたタイミングでまた記事が書ければと思います!
リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023では、リクルートの社内ICTに関する記事を投稿していく予定です。もし興味があれば、ぜひ他の記事もあわせてご参照ください。