スタートアップとの協業でR&Dを加速!イスラエルへ行ってきました
牧 允皓
こんにちは、データテクノロジーラボ部(以下、DTL部)でオープンイノベーションに取り組んでいる牧です。
先日、出張でイスラエルに行ってきました。現地のスタートアップと面談し、協業の可能性について議論してきました。DTL部としてイスラエルへの渡航は5回目でした。
せっかくなのでこれまで獲得してきた経験や知見について共有できればと思い、投稿することになりました。スタートアップとの取り組みの背景と、我々の求めるもの、そして得たものについてご紹介します。
スタートアップとのつながり ~ 投資ではなく協業
我々DTL部は、データテクノロジーを武器とし、リクルートグループのサービス改善を目指して、日々研究開発や各サービスへの機能実装に取り組んでいます。
多くのメンバーは人工知能、機械学習といった技術に関する分野を専門にしています。例えば機械学習のソリューションをA3RTというAPI群として開発、サービスへ機能実装したり(その一部を無料公開しています)、AI×ロボティクスといったハードウェアとの融合にも取り組んでいます。
・A3RT https://a3rt.recruit-tech.co.jp/
我々が開発した機械学習APIです。ここではその一部を無料公開しているので、ぜひ触ってみてください!
・ARISプロジェクト https://recruit-tech.co.jp/news/180920_002292.html
我々がR&Dの一環として取り組んでいるAIoTプロジェクトです。
研究開発の過程では様々な要素技術が必要になりますが、そのすべてを内製することは極めて困難です。多くの技術や理論、それらのフレームワークが目まぐるしい速さで研究され公開されています。最先端の技術力を持つためにも、内製だけでなく社外で開発された技術を利用することは不可欠だと考えています。
社外の技術をどうやって利用するか、その方法は様々です。今回は特にスタートアップ企業との"協業"に関してフォーカスを当てたいと思います。
スタートアップ連携に関してはすでに日本国内の企業も数多く、投資、出資といった形で関わっていますが、我々の部はデータテクノロジーの技術開発部門ということもあり、特に技術的な協業ということを目的に取り組んでいます。
なぜ協業なのか?という観点ですが、最先端の技術をより早く触れるという意味で比較的リードタイムが短い方法が協業だと考えているからです。また副次的な効果として、協業に関してお互いの課題や製品の説明・議論を行うことで 互いの技術力を高め合うことにも繋がると思います。
さらにスタートアップ企業が持つ、技術を製品に昇華し、ビジネスとして世に是非を問うという真摯な姿勢は、我々も見習うべき点が多くあります。定性的ですが通常では中々会得することができない学びがあるという観点も見逃せません。協業という形で接することで、そういった姿勢をより強く感じられると思います。
なぜ海外のスタートアップなのか
スタートアップが盛んな地域、といえばシリコンバレーを挙げる方が多いでしょう。ドットコム・ブームを皮切りに多くのスタートアップがイグジットしてきました。今では国内外問わず、多くの起業家が様々な事業で挑戦しています。
数多ある企業の中で、我々が協業のパートナーとして探しているのは、技術に特化したスタートアップです。スタートアップは国や地域によって様々な特色があります。その土地の文化や歴史、または税法など様々な影響を受けてスタートアップの在り方が形成されています。それぞれ長所短所がありますが、私達がここ数年力を入れているのがUSとイスラエルです。スタートアップ大国と呼ばれるイスラエルでは、起業家の資質を育む文化や、起業自体を促す仕組みが確立されています。政府の支援はもちろんですが、歴史的に様々な分野のスペシャリストを育成する必要性があったようです。歴史を紐解いてみると、イスラエルが周辺国とどのように関わってきたか知ることができます。兵役の義務や8200部隊といったエリート集団の存在はそういった状況から生まれたのでしょう。当初からそのような意図があったかは分かりませんが、結果的に育成されたスペシャリストたちが起業家精神を発揮してビジネスの世界でも活躍しています。
さらに詳しい歴史的な背景や、政府の詳細な取り組みについては書籍や記事が既に多く存在しますので、ここでは私達の取り組みで得た経験と知見にフォーカスしようと思います。
スタートアップ協業のスキーム
これまでの取り組みを通して、私達は協業のスキームを確立してきました。
まずは年2回の出張で、毎回15社程度のスタートアップと面談しています。これはスタートアップのスピード感から自然とこの頻度に落ち着いたのですが、PoC(Proof of Concept)への着手が早く、長期的に協業に取り組むかどうか決断を下すのに躊躇がありません。面談からPoC完了まで平均すると半年かからないため、また新しいスタートアップに会いに渡航します。こうしたフローはイスラエルのエコシステムと起業家精神があるからこそ成立するものかもしれません。
またこのスピード感でスタートアップと会い続けるために欠かせないのが現地でのネットワークです。我々はインキュベータと契約し紹介してもらうという方法を取っています。起業が盛んなイスラエルで最新の情報を日本からキャッチアップすることは難しく、現地の方々に頼るのが一番、信頼できます。
協業の副次的な価値
案件の中には協業を通してプロダクトが生まれないケースや、利益を生まないケースもありますが、様々な技術を貪欲に探すこと自体にも価値があると私達は信じています。日々痛感しているメリットから2つご紹介します。
1. 技術の選択肢を広げられる
ビジネス課題に直面した際、それを解決するために多くの選択肢があることは財産です。DTL部が掲げる6つの価値観の一つに「”できる”方法を考え抜く」というものがあり、達成困難なことに直面しても不可能と決めつけないマインドが奨励されています。解決策が容易に浮かばない問題に直面すると、未完成でも稀有な技術を知っている方が固定観念にとらわれずに手段を考えることができます。
利益だけを目指さずに様々な課題に挑戦をすることで、問題に対して多様なアプローチを考えるようになります。手段をオープンにもつことはチェスブロウ氏が提唱したオープンイノベーションの考え方に沿っていますし、技術の進歩が早い現代では不可欠な概念だと思います。
2. 自分たちの持つ技術や考え方を、客観的視点からみられる
海外のスタートアップと協業の過程で様々な未来や可能性について議論することで、自分たちの技術力や考え方を客観的に見ることができます。同じ組織の中で議論をしていると、どうしても考え方や解決へのアプローチが似通ってきて考え方も固定化されてくる、というリスクがあると思います。ズレた考え方を普通だと盲信することは非常に危険で、我々が問題に対して適切なソリューションを提供する組織である以上、客観性が重要です。違う業界、違う文化の技術者と交流することで、自分たちの強み、弱みなどをより客観的に認識することができます。
実際、プロジェクト自体の価値にとどまらず、非常に貴重な経験が得られており、人材育成の側面も備えていると個人的には思っています。
今後について
引き続きスタートアップとの協業を通して、自分たちの武器を磨き続けていきます。前述の通りスタートアップはその土地の文化などに影響を受けているので、違う国・地域で、これまで見てきた技術と異なるものが発見できないか探し続けていこう思います。また、協業によって生まれた成果についても機会があれば書いていきたいと思います!