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プロダクトマネジメントは、フレームワークの提案や発信は進んでいる一方で、明確な「型」がまだ広く浸透しているとは言い難い領域です。だからこそPdMには、通常の視点にとどまらない、より高い視座が求められます。特に大規模かつ多層的な事業においては、既存のフレームワークをなぞるだけでは突破できない壁が存在します。
リクルートには、多様な領域で“突き抜けた強み”を持つシニアPdMが在籍しています。彼らはいかにして複雑な事象を構造化し、最適解を導き出しているのか。本連載では、社内でも一目置かれる「異能」たちの独自の思考プロセスに焦点を当てます。
第2回目は、『SUUMO』で、主にB2Bのソリューションを手がけるシニアPdM・岩森雅也にフォーカス。プロダクト作りにおける彼の基本姿勢は、クライアントの事業成果をプライオリティの最上位に据え、そこから逆算して必要な仕様や機能を設計していくこと。プロダクトはあくまで手段であると割り切り、緻密な仮説構築と徹底的なフィールドワークで、クライアントが抱える課題の本質を射抜く。そんな岩森のアプローチと思考に迫ります。
「クライアントが買うのは機能ではなく成果」“プロダクト屋”に陥らない、PdMとしての基本姿勢
――岩森さんのご経歴と、リクルートにおける現在の役割を教えてください。
岩森:2010年にITソリューション企業に新卒入社し、B2Bのソフトウェア開発に従事していました。2つの会社を挟んでリクルートに転職したのが2016年。住まい領域の新規事業開発チームで、サービスリリース後のエンハンスなどを担当しました。
現在の職務はプロダクトマネージャー(PdM)ですが、業務範囲はかなり幅広いです。サービスやプロダクトの中長期の戦略をさまざまなステークホルダーと一緒に考える上流から、開発をして最終的にアウトプットをするところまで、全体に関わっています。どちらかというと、サービスの新規開発、立ち上げフェーズから入ることが多いですね。
担当領域は、住まいの「戸建て流通」と「注文住宅」で、主にB2Bのソリューション(クライアントソリューション ※以下、クラソリ)を手掛けているほか、同事業の非連続な成長を実現させるプロジェクトにも携わっています。

――岩森さんがプロダクトマネジメントにおいて、最も大事にされていることは何でしょうか?
岩森:肝に銘じているのは、プロダクトは手段(How)であり、目的(Why)はクライアントの事業に貢献することです。クライアントが私たちのサービスを導入する理由は、言うまでもなく事業成果を出したいから。PdMはつい、プロダクトの機能や使い勝手といった“内側”に力点を置きがちですが、私たちが解くべきWhyはクライアント側、つまりプロダクトの“外側”にあることを忘れてはならないと考えています。
――PdMは“プロダクト屋”であってはならないと。
岩森:そうですね。プロダクト屋として機能だけを追求するのではなく、「全体の仕組み」を設計するのがPdMの役割です。もっと言うと「営業がどう売り、クライアントがどう立ち上げ、運用でどう成果を出し続けるか」という全体最適を導き出すことだと思います。
この考え方の原点は、前職のプリセールス時代にあります。私が担当していたのは新規システムの提案だったため定量成果がなく、いわば期待値営業となります。そこで重要なのは機能の説明よりも、「我々のソリューションがクライアントの業務課題にいかにハマるか」を実感していただくことです。バーティカルな業界に深く潜り、自ら提案してご発注いただくサイクルの中で、「クライアントが買っているのは機能ではなく成果だ」と骨身に沁みたことが、今の私の設計思想の根拠になっています。
――クライアントの業務課題を特定したうえで「成果」を示すには、どのようなアプローチが必要でしょうか?
岩森:やはり徹底的なヒアリングに尽きると思います。前職での具体例を出すと、化学メーカー向けの輸出管理システム提案時に、製品ごとの詳細なヒアリングを2時間以上かけて行い、クライアントの業務課題を徹底的に理解しようと努めました。表面的なことだけでなく、製品に使われるゴム素材に潜むリスク、例えば化学兵器に使われるような可能性がないかどうかといったことまで徹底的に洗い出すんです。そこまで深く入り込んで初めて本質的な課題を把握することができますし、クライアントも「ここまで理解して提案してくれるんだ」と信頼していただけるのだと思います。
練り上げた仮説を携え、フィールドワークでN=1の解像度をひたすら上げる
――プロダクトを通じてクライアントの事業成果という目的を果たすためには、プロダクトを使うお客様の課題を深く知り、解像度を高めることが重要になると。
岩森:その姿勢は、リクルート入社後も変わっていません。例えば、東海・関西エリアでとある施策の仮説検証を行う際、ヒアリングのために現地へ1週間張り付いてクライアント各社を回りました。また、分譲マンションの管理業務に関する新機能を検討していた際は、石神井にあるマンションの管理人室へ3週間ほど通い詰めました。
ただし、闇雲に訪問したところで、単なる“御用聞き”で終わってしまいかねません。私が現場に入る前に実践しているのは、「競合分析」と「クライアントの業務構造」の理解、それらを踏まえた「仮説構築」を極限までやり抜くことです。シェア上位の競合プロダクトを仕様やデザイン、細かい機能に至るまで徹底分析し、そのうえで他社サービスにはない『SUUMO』の解決策を携えておく。あるいは、クライアント各社に共通する業務内容や仕事の進め方を洗い出し、「この業務構造なら、この仕様が必然なはずだ」という仮説を持ってヒアリングを行います。
――ヒアリングの精度をより高めるための事前準備に余念がない。
岩森:仮説を構築せず丸腰でヒアリングに臨み、確からしい課題を得られたとしても、それは“たまたま”かもしれない。あるいは、その会社固有のお困りごとを、あたかも業界全体の課題であるかのように誤認してしまう可能性もある。こうしたラッキーパンチや例外を徹底的に廃し、必然の打ち手を導くことがPdMの責務です。
そして、練り上げた仮説をもとに、フィールドワークでN=1の解像度をひたすら上げる。そうやって初めて、クライアントの真の成果につながる本質的な課題に迫ることができますし、リリース後のブレも最小化できるのだと思います。ちなみに、ヒアリングにおいて心掛けているのは、担当者の業務を具体的にイメージしながらヒアリング項目を設計することです。こうした設計においてもフィールドワークによって実際に私たちのプロダクトを操作するところを見せてもらうことで、具体的な業務イメージが掴みやすくなる。そうした積み重ねをふまえてアップデートを続けて、ヒアリングの精度をどんどん高めています。
――そうした仮説の構築とヒアリングが奏功し、リリース後の手戻りが抑えられた事例はありますか?
岩森: 競合はすでに市場投入済みで、リリースの遅れが許されないというプロダクトの大規模開発がありました。MVPの策定にあたって要件は膨大で、そのまま作ると工数が溢れる。また、すでに競合が提供しているプロダクトを意識するあまり、それが本当にクライアントの業務にフィットしているかの検証が不十分なまま安易な模倣に走って、結果、開発後に手戻りが増えてしまっては本末転倒です。
こういう時こそ、徹底した仮説構築とヒアリングに立ち戻ることが必要だと考え、まずは競合3社のプロダクトの全機能(約300項目)を徹底調査しました。共通の機能を抽出し、その機能が存在する背景や理由を深掘りして、市場の必須要件を特定していったんです。そのうえで、クライアント候補3社にMVP案を提示し、現状業務や想定課題を踏まえた提案を実施しました。「この機能を導入すれば解決できると思います」という具体的な形で提示することで、仮説とのギャップの洗い出しを行いました。
漠然と要望を聞くのではなく、調査に基づいたMVP案をもとに複数社への多角的なヒアリングで蓋然性(確からしさ)を検証した結果、予定通りにリリースができ、手戻りもほぼありませんでした。開発工数も大幅に削ることができましたね。

リクルートが持つ「最強のインフラ」を活用し、バーティカルな業界の深淵へ潜り込む
――「クライアントの事業成果に徹底的にフォーカスし、緻密な仮説検証と丁寧なヒアリングをもとに逆算していくプロダクト設計」。こうした岩森さんのアプローチを実践するにあたって、リクルートのどんなアセットが役立っていますか?
岩森:リクルートには有形無形のインフラが充実していますが、なかでも「顧客接点の圧倒的な厚み」は他社にない圧倒的な強みだと感じます。例えば不動産会社一つとっても、大手だけでなく中堅や、地方の小さな企業さんまで、あらゆる窓口を持っている。規模だけでなく、エリアも全国各地をカバーしているので、「四国エリアにある、従業員数10人規模の不動産会社」の課題を聞きたいとなった時にでも、営業担当を介してすぐに紹介してもらえるんです。
同じ不動産業界でも、規模やエリアによってクライアントの課題や商習慣は全く異なります。各セグメントのクライアントといつでもコミュニケーションができ、一次情報を得て解像度を高められるのは、あらゆるクライアントと強固な信頼関係を築いているリクルートならではだと思います。
この環境を生かすことで、不動産業界の現場に深く入り込みながら、クライアントの成果につながる仕組みを考え、設計することができます。
――クライアントから得る一次情報のなかで、特に重視しているポイントは何ですか? また、その情報は設計の「全体最適」にどのような影響を与えるのでしょうか?
岩森:新規サービスを立ち上げる場合でいうと、最も重視しているのは「顧客の意思決定における力学」を徹底的に解明することです。具体的に言うと、ステークホルダーごとに異なるインサイトの把握です。決裁者と現場担当者では、重視するポイントも抱えている課題も全く異なります。そのため、各ステークホルダーが何を重要視し、何に困っているのかを個別に、かつ漏れなく押さえにいくようにしています。つい、「トップダウンで指示が下りれば導入は進む」と考えてしまいがちなのですが、現場との強いハレーションが発生し、頓挫するケースも十分に考えられますから。
このアプローチの進め方としては、プロジェクトの初期フェーズにおいて徹底的に深掘りを行います。大袈裟に言えば全ての関係者に“憑依”するくらいに、各ステークホルダーの役割や思惑を分析し尽くすことが重要です。そのうえで、5W1Hを用いて細部まで仕様を詰め切る。関係者それぞれの立場で「これなら導入したい」と心から思えるまで、深く潜りこむ。これが第一段階ですね。
次に、そこで得た知見をもとにマーケティング展開へと移行するフェーズでは、全ての案件に同等の深掘りは行わず、リソースを最適化しながら効率的に展開していく、という時間軸に沿った強弱を大切にしています。

不動産業界のアナログな業務プロセスをリデザインし、クライアントが成功する仕組みを構築
――リクルートのアセットを使って、岩森さんがこれから実現したいことを教えてください。
岩森:私がやりたいのは、単に「便利なツール」を届けることではありません。リクルートの圧倒的な顧客接点というインフラを活用し、クライアントがより生産性高く、確実に成果を出せる「成功への方程式」を社会実装することです。
不動産業界には、まだアナログな業務プロセスも多く見られます。業務でFAXをはじめとした従来の手法が活用されている場面も多く、デジタル化の余地が大きく残されています。ただ、だからこそテクノロジーによって生産性向上や成果を出す白地が他の領域に比べて大きいと思っていますし、そこにやりがいを感じます。
プロダクトというHow(手段)を使って、クライアントの業務プロセスそのものをリデザインすること。そして、確実に「事業成果」を生み出すための、クライアントが成功する仕組みを構築すること。これが最大のミッションであると捉えています。
――そのミッションを共に成し遂げる、新たな仲間も必要ですね。
岩森:そうですね。プロダクトを目的化せず、クライアントのビジネスの成功を逆算して設計したい。そんな志を持つ方と、この難易度の高いテーマに向き合える現場を前に議論できることを楽しみにしています。ぜひ意見交換しましょう。
▼ご興味のある方はこちら(岩森 雅也 - LinkedIn)
www.linkedin.com/in/m-iwamori
