【対談連載 第二回】“意味のないロジック”を勇気を持って手放す。カオスをパズルとして楽しむエンジニアが見つけた、技術で事業を動かす真の当事者意識

目次

リクルートのデータ推進室長 野村が自ら聞き手となり、現場の最前線で試行錯誤を続けるスペシャリストたちの「手の内」を紐解く連載企画。

第2回のゲストは、2018年にキャリア入社した山畠 祥子です。もともと大手企業の研究所に所属していた彼女は、なぜリクルートを選び、そしてスピード感溢れる事業環境の中でいかにして「データ組織運営の基盤」を築いてきたのか。

「負債を整理し、筋肉質な組織を作るのが楽しい」と語る彼女の、技術力で事業のポテンシャルを高める仕事術、そして「打席」を自ら作りに行く当事者意識に迫ります。

〈プロフィール〉

山畠 祥子
2018年にリクルート(旧リクルート住まいカンパニー)へキャリア入社。機械学習エンジニアとして『SUUMO』の物件レコメンドの機械学習ロジックやAPI開発に携わる。2021年に産休・育休を経て、2022年より復帰。2023年より住まい領域のグループマネージャーとして、レコメンドや社内業務支援といったデータ活用アプリケーションを推進するチームを率いる。

野村 眞平
データ推進室 室長。ベンチャー企業で経験を積んだ後、リクルートへ。入社後は住まい事業領域で集客最適化やレコメンドシステムの構築、マーケティング分析などを担当。以降はリクルートグループにおける複数の事業会社/機能会社におけるデータ組織を統括し、ユニット長や執行役員を歴任。2021年のリクルート統合後は、データ推進室VP(Vice President)を経て2025年より現職。

自社データへの「手触り感」を求めて 、研究から事業の「当事者」へ

野村: 山畠さんは2018年入社だから、入って7年目になるんだね。もともとは大手企業の研究開発部門にいたと思うんだけど、そこからリクルートへ移ったんだよね?

山畠: はい。もっと自社で膨大なデータを持っている環境で、自分自身が事業の当事者として「データの手触り感」を持ってみたい、という想いを持ち転職したんです。自ら案件を仕掛け、意思決定にも深く関われる場所を求めて、リクルートへ飛び込みました。

野村: 実際リクルートに入ってみて、入社直後の印象はどうだった?

山畠: 一言で言えば「実行のエネルギーが凄まじい組織」だと思いました。前職までの環境は、きっちりしたプロセス管理が徹底されている、いわば「石橋を叩いて渡る」文化。それに対しリクルートは、何よりも「価値を届けるスピード」を最優先する文化でした。

野村: 当時は、とにかく「まずは動かしてみよう、やってみよう」という熱量が先行していた時期だったからね。

山畠: はい。ただ、その圧倒的なスピード感ゆえに、当時はまだナレッジを共有する仕組み化よりも突破力が重視されている状態でもありました。複雑なシステムの挙動を紐解くにも、ドキュメントよりは動いているコードを直接見に行くのが近道、という職人技に支えられていた部分が多かったんです。

野村: その状況を見て、山畠さんはどう動いたんだっけ。

山畠: 私はこの現場の熱量を活かしつつ、中長期的に強い組織を作るには「情報の構造化」が不可欠だと感じました。だからこそただ状況を嘆くのではなく、「私が得意なことを活かして、この組織を働きやすい形に整えよう」と考えたんです。…というと綺麗に聞こえますが、はじめは正直なところ毎日「オペレーションレベルが低い!」って怒っていました(笑)。ボトムアップで意思決定ができる会社だからこそ、自ら開発プロセスを設計し、レビューの文化を根付かせられる。そんな形で、「環境づくり」から手をつけることにしました。

伝説の「ピロピロ撲滅プロジェクト」——未来のために「手放す」勇気

野村: 山畠さんの仕事観を象徴するのが、入社1年目の「ピロピロ撲滅プロジェクト」だよね。

山畠: ああ、それですね(笑)。当時、『SUUMO』のレコメンドシステムの中に、何年も前に実装されたものの、今となっては誰も保守しておらず、効果も不透明なロジックが残っていたんです。その呼び名が、なぜか「ピロピロ」。

野村: 実は、僕が初期に情熱を注いで作ったロジックだったんだけど……(笑)。

山畠: そうだったんですよね(笑)。でもその時点ではすでに効果の高い部分が切り出されていたから、私にはもう役目を果たしたものに見えてしまったんです。どれだけ新しい機能を積み上げても、古い負債が残っていると、システムの複雑性は増し、検証のスピードは落ちてしまう。私自身、デスクトップが散らかっていると仕事に集中できない性格ということもあり、「これは今の『SUUMO』には不要です」と断言しました。

野村: 「野村さん、これいらないので消しますね」と笑顔で言われた時は、その潔さに驚いたけれど、同時に「おっ、やるな」と思ったよ。あの時あえて「消す」という誰もやりたがらなかった泥臭い調整を引き受けてくれたことで、組織内での山畠さんの信頼残高が積み上がった。入社間もない段階でそこまで踏み込める当事者意識があったからこそ、その後のプロジェクトもスムーズに進んだんだと思う。

山畠: リクルートは、待っていれば勝手に物事が動くというわけではない代わりに、自分から言うときちんとやらせてもらえますからね。入社後早い段階でそれに気づいて、どんどんやろうと思いました。新しいものを作るのは楽しいですが、古いものを責任を持ってやめることも、エンジニアリングの重要な仕事。結果として開発スピードが上がり、チームのみんなが本来の仕事に集中できるようになったのなら、よかったなと思っています。

技術的負債をお掃除し、技術を武器に現状打破する集団へ

野村: 今の組織で、山畠さんが「ここを変えていかなければ」と感じている課題はある?

山畠: 技術的負債と、正体不明のシステムがまだ多いことですね。「止めたいけれど、どこに影響が出るかわからないから止められない」というものが多くて、それが新しい挑戦の足かせになることがあります。ここをもっと可視化して、徹底的にお掃除していきたいです。

野村: お掃除好きの山畠さんらしいね(笑)。メンバーについてはどう見てる?

山畠: ビジネス成果を出すためには、既存のアセットや確立された手法で着実に戦うのも大事です。でも一方で、もっと「技術を武器に戦う」ような、新しい武器をバンバン持ってくる人がいてもいいと思っています。

野村: 技術的な面白さにワクワクして、現状を打破しに行くような勢い、ということだね。

山畠: はい。既存の枠組みに安住せず、「この技術を使えばもっと凄いことができる!」と目を輝かせて提案してくるような。そんな探求心と突破力を持つ人がもっと増えれば、組織はさらに面白くなるはずです。

技術力で事業を突き動かす——『スーモカウンター』×LLMの最前線

野村: さて、現在取り組んでいる『スーモカウンター』のプロジェクトについて聞かせてほしい。これは音声領域のバックグラウンドを持つ山畠さんにとって、まさに本領発揮の場だよね。

山畠: はい、先日行われた Recruit Tech Conference でもお話しした案件(※)ですね。実店舗での接客音声を解析し、LLMを活用してアドバイザーの業務を支援するプロジェクトです。現在は、接客内容の自動要約や構造化を行い、これまでアドバイザーが手作業で行っていた業務を効率化する仕組みを構築しています。
※ 動画リンクは こちら 、資料リンクは こちら です。

野村: このプロジェクトの難しさはどんなところにある?

山畠: 音声データはテキストに比べて圧倒的に情報量が多く、かつ「店舗」というリアルな場での録音環境に左右されます。ノイズの処理や発話の分離など、技術的な壁は多いですが、それ以上に「いかにして現場のアドバイザーが使いやすい形に落とし込むか」が重要です。 よって現場からのフィードバックを受けやすいよう、密に協働する上での体制面の工夫をしました。加えて個人情報を扱う案件特性上、セキュリティ面でも安心して使っていただけるよう、開発スピードと安全性を両立できるシステム構成を考えることに注力しました。

野村: 音声データはテキストに比べて圧倒的にノイズが多く、計算資源のコストも高いから、そこへの投資判断も大きい。

山畠: ええ、検証1回で数十万円、時にはそこから桁が上がるレベルのコストがかかることもあります。でも、リクルートでは「本当に価値がある」と判断されれば、そこへの投資を惜しまない。今期も多大な予算を投じて、この音声解析の精度を極限まで高めようとしています。こうした機会のスケールの大きさは、他の環境ではなかなか味わえないものですね。

現場に足を運び、マイク一つから「ファクト」を積み上げる

野村: 山畠さんの姿勢を語る上で外せないのが、あの現場検証への執念だよね。

山畠: 2024年の6月ですね。不注意で足を骨折してしまい、しばらく車椅子生活を余儀なくされました。ちょうど『スーモカウンター』の各店舗に専用マイクを設置し、音声を収集し始めるというプロジェクトの山場だったんです。

野村: 最初はメンバーに託していたけれど、結局自分でも行ったんだよね。

山畠: はい。最初は10種類以上のマイクの検証をメンバーにお願いしていたのですが、回復して動けるようになってからは、すぐに自分でも店舗を回りました。 デスクの上だけで考えていても、マイクの指向性や店舗の環境音、アドバイザーさんの話し方の癖までは分かりませんから。

野村: あの現場での地道な検証が、今の精度を支えている。

山畠: いろいろなマイクを試しましたが、最終的にはシンプルな付属品一つで劇的にクリアな音が取れるようになったこともありました。データは画面の向こうにあるのではなく、現場の熱量の中にある。それを体現し、泥臭くファクトを積み上げていくことが、技術を事業に馴染ませる唯一の道だと思っています。そうして技術が人の感情を動かし、ビジネスの成果に繋がっていく。その一連の流れを作ることが、私のやりがいです。

野村: 事業企画側との「綱引き」も、攻めているイメージがあるけど。

山畠: はい。企画組織が「この見せ方がいい」と言ったとしても、技術者の立場から「いや、このデータがあるならもっと高度な提案ができる。見せ方もこうすべき」と言うことがあります。技術起点でプロダクトの進化を牽引するという、攻めの姿勢を大切にしています。メンバーにも「小さくまとまらないようにしよう」と言っていますね。

一定の「覚悟」を持って、働き方を自らデザインする

野村: ここまでは仕事の話を中心に聞いてきたけれど、山畠さんはプライベートでは育児の真っ最中でもあるよね。そのバイタリティはどこから来ているんだろう。

山畠: 正直に言えば、仕事も家庭も成り立たせるには、それなりの覚悟を持って日々に向き合うことが必要だと感じています。現在、家庭内での育児分担については、いわゆる「ワンオペ」に近い状態でして。日々押し寄せるタスクをどうコントロールし、自分自身のパフォーマンスを維持するか、ある種の総合的なマネジメント力が試されている感覚です。

野村: その状況でマネージャーとして、そしてスペシャリストとして走り続けている。

山畠: それができるのは、リクルートという組織が持つ「個人の事情を尊重する風土」に助けられている部分が大きいです。役員クラスでも子供のお迎えのために夕方に退社するのは当たり前ですし、子供が急に熱を出せば「仕事のことは気にしないで、すぐに退勤して」と皆が言ってくれる。この環境があるからこそ、私も「限られた時間の中でも成果を出そう」という意志を持てるんです。

野村: 「家庭を大事にする」ことと「プロとして成果を出す」ことが、矛盾せずに両立しているんだね。

山畠: はい。もちろん、何もせずに全てが上手くいくわけではありません。仕事と家庭どちらもやり抜くには、自分なりに優先順位をつけ、やり切るという覚悟は必要です。でも、リクルートには「自分で自分の環境を作っていく」ことを推奨する文化がある。家庭の状況に合わせて働き方を自ら作り、かつ刺激的な仕事も諦めない。そんな主体的な姿勢こそが、この会社で働いていく鍵なのかなと感じます。

人間とシステムの「依存関係」を、パズルのように解く

野村: 話を聞いていると、山畠さんはデータ組織の「未整備な部分」すらも楽しんでいたように見えるね。キャリア入社で入って馴染みやすい人って、どんなタイプだと思う?

山畠: 「違和感を早めに察知できる人」でしょうか。あれ、ここプロセスが整っていないかも、と違和感に気づいて、自ら「人間とシステムの依存関係」を把握しに行こうとする姿勢が大事だと思います。

野村: システムのロジックだけを解くのが好きなだけじゃなくて、それを動かしている組織やオペレーションといった環境を整えることも面白がれる人、ということだよね。

山畠: まさにそうです。私はもともとパズルが好きなんです。リクルートの仕事って、純粋な技術課題だけじゃなくて、人間観察も含めて「あ、この人とこのシステムがこういう風に繋がっているから、ここをこう変えれば上手くいくんだな」と紐解いていくパズルのような面白さがあるんですよ。

野村: その「人間臭さ」を、ロジカルに解いていく感じが山畠さんらしい。

山畠: 逆に、画面の向こう側の技術だけに没頭したい方には、若干向かない部分があるかもしれません。スピーディーに物事が動くゆえにプロセスが完成されきっていない中で、いかに人を巻き込んでシステムを動かしていくか。そこを楽しめる方なら、やりがいを感じやすいと思います。

形式知化を推進し、アドバイザーの「能力」を拡張する未来へ

野村: LLMの活用が進む中で、今後、山畠さんがやりたいと考えていることは?

山畠: いま提供しているのは、まだ自動要約や議事録作成といった、業務効率化の域を出ないものかもしれません。でも将来的には、もっとアドバイザーの業務を形式知化し、アドバイザー自身の能力を拡張するようなシステムに進化させたいと考えています。
ただ、やりたいことに対して、圧倒的に手が足りません。予算は用意できたとしても、それを形にする仲間がもっと必要です。

野村: 山畠さんと一緒にこの問いを解く仲間としては、どんなマインドの方がよいのだろう。

山畠: 技術力はもちろんですが、何よりも「技術を手段として、ビジネスの本質的な課題を解決したい」という意志を持つ方です。自分のこだわりを優先するのではなく、事業成果を出すために技術をどう適合させるか。そのプロセスを楽しめる方が向いていますね。

野村: なるほど。山畠さんの話を聞いていると、新たなプロセス作りをも楽しめることがリクルートの面白みのひとつなんだなと改めて思ったよ。これからもその突破力で、『SUUMO』の仕組みをどんどんアップデートしていってほしいな。引き続きよろしくお願いします!

技術で、ビジネスを動かす手応えを求める方へ

リクルートのデータ組織には、山畠のように「高い専門性を持ちながら、それをいかにして現実のビジネス成果に結びつけるか」という意欲を持つメンバーが集まっています。

リアルな現場にこそ、解くべき複雑な問いがある。 圧倒的なデータアセットと計算資源で、まだ誰も見たことのないビジネスインパクトを技術で作り出したい。そんな探求心をお持ちの方の挑戦を、私たちは全力で歓迎します。

記事内容及び組織や事業・職種などの名称は、編集・執筆当時のものです。

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