生成AI導入のリアル!新卒社員が Gemini for Google Workspace 導入で経験した悩みと取り組み
はじめに
はじめまして。
ICT統括室に所属して3年目になる西川 国洋と、今年新卒入社でICT統括室に配属された齊藤 泰斗です。
私たちは、社内ユーザー向けに提供しているSaaSツールの管理・運用を担当しています。
この記事では、Gemini for Google Workspace を社内に導入した経験をもとに、導入前〜導入後の悩みポイント、そしてそれに対しての実際の取り組みをご紹介します。
この案件は私(齊藤)にとって新卒入社後初めて担当する案件でした。
本記事を通して、ICT統括室の新規参画者が担当することのできる業務がどういったものなのか、というイメージや、新卒ならではの視点での感想もお伝えできればと思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください!
そもそもリクルートで使える生成AIサービスって?
Gemini for Google Workspace 導入前、リクルートでは以下の生成AIサービスを従業員向けに提供していました。
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Graffer AI Studio
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Microsoft Copilot
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ChatGPT Enterprise
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Microsoft 365 Copilot
「え、多くない?」と思った皆さん、安心してください。私も配属直後はそう思いました。
ICT統括室として複数の生成AIサービスを提供しているのは「現場で課題感を持っている人たちが、自らの業務に使ってみることで、どのようなツールがどの範囲でどれくらい効果が出るかを、広く試してもらうことが重要だ」との考えからです。
https://techblog.recruit.co.jp/article-4698/
私も入社前は「基本的に社内全体で統一されたツールを使う」という固定観念を持っていました。しかし、3ヶ月間の研修や配属後の業務を実際に行っていく中で、従業員の生産性を大きく改善し得る土壌(=サービスやツール)をICT統括室でいくつか用意し、それを現場で実際に試してもらう、そして活用できる幅の広さ・深さを見定めてもらう、というフローを経て、最終的に現場の従業員が本当に欲しかったものを提供できるのではないか、との考えに変容しました。
そんな背景から、生成AIの土壌に新たな仲間を入れてみよう!と始まったのが ”Gemini for Google Workspace 導入プロジェクト”です。
なんで Gemini for Google Workspace を導入しようとしたのか?
結論としては、「Google Wokspaceのデータをシームレスにインプットしたい」というニーズがあり、そのニーズに対してGemini for Google Workspace が適していたからです。
その結論に至った経緯を、機能検証・ニーズ把握という2つのプロセスから説明したいと思います。
まずは、Geminiで出来ることを把握するため、機能検証から始めました。(記憶が正しければこれが配属直後の業務です)
当時の私は、機能検証というタスクの必要性を疑問視していました。
なぜなら、製品機能については、公式ドキュメントや利用規約からも読み解くことができ、最終的にベンダーに聞けばかなり確実性のある情報が得られると考えていたからです。
そのため、ただ検証して「公式ドキュメント通りでした」と報告するだけでは面白くないと思い、「公式ドキュメントからでは読み取れないが、ユーザーから問い合わせを受けそうな機能を見つける」というテーマを自分なりに持ち、検証に取り組みました。
上記のテーマを掲げ検証をしていくうちに、Googleドライブの権限設定に応じて、Geminiへのデータ読み込み範囲に差があることが分かりました。これは公式ドキュメントには記載がなかった内容です。
具体的には「リンクを知っているすべての社内ユーザー」に閲覧許可しているファイルは、実際にアクセスしたことがある場合のみGeminiに読み込まれると分かり、機能検証の必要性を再認識することができました。
また、検証で実際にGeminiを利用することで、「Google Workspace上のデータをシームレスにインプット出来るのが楽!ユーザーニーズがありそう!」と仮説を持つことが出来ました。
次に、生成AIツールに求められる社内のニーズ把握を行いました。
機能検証は一人で黙々と行えばいいのですが、配属直後の私には、ユーザーの求めるニーズをどのように拾えばいいのか分かりませんでした。
そこで先輩とも相談しながら、過去問い合わせの分析や、各領域のDX・業務改善を推進する部門から連携される生成AI関連のニーズを分析することにしました。
その結果、既存の生成AIツールでは「データをシームレスに生成AIにインプットできない」ことに一定課題感があることがわかりました。
リクルートは早い段階から、多くの領域でクラウドシフトしていたため、ファイルをローカルにダウンロード後、生成AIへアップロードという行為に対し、かなり忌避感を持っている人が多い..ということだと推察します。
この2つのプロセスを経て、Google Wokspaceを利用しているユーザーであれば「データをシームレスに生成AIにインプットできない」という課題・ニーズに対して、Gemini for Google Workspaceの機能が最適であるという結論を出すことが出来ました。
導入前の課題って?
もちろん
私「ニーズがあるので導入します!」
上司「はい、どうぞ」
と簡単にいくわけではありません。
「ちゃんと投資対効果出るの?」「セキュリティや法務観点のチェックは?」など、導入にかかる起案の際にネックとなるポイントを洗い出し、上司を納得させるための事前準備・事後施策を用意しました。
- 投資対効果について
投資対効果は新規サービス導入時にはわからないのでは?というのが配属直後の新人の正直な気持ちでした。
しかし、社内ではGoogle Workspace の利用が広く進んでいること、データをシームレスにインプットしたいというニーズがあることを念頭に置き、整理していくことで一定、費用対効果は出る見込みが立ちました。
また、無駄なコストをかけないようにするため、30日間利用していないユーザーに対してライセンスの削除を行うことに決めました。これは、社内の他のツールに比べて厳しい水準です。
そして、広報対象は、日頃から Google Workspace の利用頻度が高く、既存の生成AIツールを活用している方に限定することに決めました。サービスの初期段階では、Geminiを使いこなせそうなユーザーにターゲットを絞ることで、投資対効果を最大限に得られると考えたからです。
上記2点については至極当たり前のようにも感じますが、既存ツールの運用等を参考に、できるだけ自分で考え、先輩のレビューを受けるというプロセスを繰り返し、最終的に承認をもらえた部分だったので、かなり安堵したのを覚えています。
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セキュリティ・法務観点のチェックについて
リクルートではITガバナンスを考慮し、全社的なセキュリティレビュープロセスが構築されており、このレビューを通過しなければITツールを利用できないという仕組みとなっています。
このレビュープロセスでは、導入したいツールの仕様やツールで取り扱う情報などを記載・連携することで、複数観点でのレビューを一気通貫で受けることができます。
しかも、生成AIツールでは通常のセキュリティレビュープロセスに加え、生成AIツール特有の観点をセキュリティ・法務にチェックしてもらう「生成AIレビュー」というものがあります。
ここ最近出てきたホットなツールにもかかわらず、重大なインシデントを未然に防ぐ対策が講じられているスピード感にも新卒社員としてかなり驚きました。
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他の生成AIサービスとの棲み分け
もう1点、複数の生成AIサービスを提供している手前、気にしなければならないのが「他の生成AIサービスとの棲み分けってどうすべき?」という関門です。
ここに関しても、既にICT統括室では盤石な体制が敷かれていたので、安心でした。
それぞれのツール担当とは別に、ITツール選定に関する横断的なガイドを作成するチームが存在しており、ユーザーのユースケースによってどの生成AIサービスが適切かをガイドしています。そのガイドラインに Gemini for Google Workspace も追記し、ユーザーが初手で迷わないように心がけました。
このガイドラインにはツールを管理・運用する立場としても、1ユーザーとしても日々助けられています。
上記の課題を、他部門の担当者の方の力も借りながら解決し、今日 Gemini for Google Workspace を従業員の方々に提供できています。
導入後の課題って?
さあ、ここからが若干の反省+悩み、そしてそれに対する改善施策パートです。お付き合いください。
導入後の悩みはズバリ「実際の利用状況が伸び悩んでいること」です。
先ほど、「Geminiはユーザーニーズを満たせるので導入すべき!」と意気揚々と語っていたのは別人か!?と疑いたくなるようなテンションの下がり具合です。
Gemini for Google Workspace は管理コンソール上で日次のアクティブユーザーを見ることが出来るのですが、アクティブユーザー率はリリース後1ヶ月の時点でライセンス付与者のうち約15%程度に留まっていました。
この時点では、Googleドライブとの連携ができず、「Googleドライブ上のデータをシームレスにインプットする」という当初のニーズを満たせていなかったのが原因だと考えています。(※導入タイミングでは利用可能な想定でしたが、リクルートではGmail機能を意図的にオフにしており、その設定がコンフリクトを起こし、シームレスな連携が出来ない状態になってしまうということが後で判明しました / 現在は解消しています)
その後、Googleドライブとの連携が可能になってからは、アクティブユーザー率は約20%ほどで安定しています。
もちろん他の生成AIツールとの単純比較は難しいですが、当初の期待値よりは低いかなというのが率直な感想です。
リリース当初に立てた「クラウド上のデータをシームレスに生成AIにインプットしたい Google Workspace ユーザーには Gemini for Google Workspace が最適だ」という仮説は、リリース前のユーザーニーズの分析や、リリース後の利用者からのフィードバックから正しいと考えています。
しかし、それらの現場の従業員の声をさらに紐解いていく過程で、データをインプットしたいのは「前提」であり「手段」であって、その「手段」を使ってどんな課題を解決したいのかという「目的」にフォーカスできていないことに気がつきました。
その「目的」に対するフォローが不十分な状態となり、アクティブユーザー率が上昇しないのではないかと考えました。
課題解決に向けた取り組みって?
現在、前段で触れた「目的」にフォーカスできていなかったという反省を踏まえ、「オンライン勉強会」「コミュニティチャンネル」の取り組みを通じ、ユーザーが生成AIを用いて解決したい課題一つ一つを私たち側から積極的にキャッチアップしていこうと考えています。
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オンライン勉強会の実施
この勉強会では、ユーザーが持つ課題に対し実際に Gemini for Google Workspace で解決できることをお伝えしたかったので、事務局側でコンテンツを固めすぎず、「皆様のユースケース・課題に基づいたハンズオンを実施」という形で広報を行い、参加時のアンケートで学びたい事例を募りました。
すると、100名を超える参加希望者が集まり、私たちが把握しきれていなかった業務での細かな課題を知ることもできました。(実はここでかなりホっとしました)
そして勉強会当日には厳選した8つの課題について、Gemini for Google Workspace (特にGoogleドライブとのシームレスな連携や、GemsというRAGの機能)を使ったデモを見せることで、ユーザーが持つユースケースや課題を、 Gemini for Google Workspace で解決できると改めて周知することができたと考えています。
結果として、満足度は4.6以上(回答者:40名)と好評をいただいたので、今後も同様にユーザーが持つ課題に則したハンズオン形式の勉強会を実施予定です。
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コミュニティチャンネル
社内で利用しているチャットツールにて Gemini for Google Workspace 利用者が集うコミュニティチャンネルを開設しました。
ここでは今後、ユーザーから個別に寄せられる課題をもとに事務局側が継続的に事例紹介やTipsなどを発信していくことで、Gemini for Google Workspace の活用方法・事例を素早くキャッチアップできるナレッジベースにしたいと考えています。
さらに、ユーザー同士が業務上の悩み事や課題を活発に持ち寄り、 Gemini for Google Workspace で解決できるかどうかを検討し合える互助会のような役割を果たせると、リクルート内での Gemini for Google Workspace活用の可能性はさらに研ぎ澄まされていくと考えています。
上記の2つの取り組みからも分かっていただけるように、私は生成AIツールの導入は単にツールを導入してそれで終わり、というわけではないと考えています。
サービス運用を担当する者として、「ユーザーが抱える課題を知るために能動的に動くこと、課題に対して適切かつ質の良いアプローチを提案すること、フィードバックをもらい提案をブラッシュアップをすること」...というサイクルを継続的に回していきたいです。
そして、Gemini for Google Workspace を使って良かった!他の人にもおすすめしたい!と思ってもらえるように、利活用が進んでいくことを目指しています。
最後に
ここまで存在感がなかった西川です(笑)
最後に、Gemini for Google Workspace 導入の感想を書かせていただきます。
まずは齊藤さん、新卒らしからぬ活躍ぶりで本当に頼もしかったです!
ただ仕事を進めるのではなく、仮説やテーマを自分なりに考えるなど、高い当事者意識を持って取り組んでいただいたのが素晴らしく、私も勉強になりました。
また、積極的に行動し、周囲を巻き込みながら、自ら課題を見つけて解決していく姿が特に印象的でした。
最初は私も伴走しながら導入を進める想定でしたが、こういった齊藤さんの仕事に向き合うスタンスのおかげでどんどん仕事をお任せしていくことが出来ました。
改めて考えると、このように誰であっても裁量を持ってガンガン仕事を進めていくことが出来る環境・文化が醸成されているのもリクルートのひとつの特徴だなと感じます。
Gemini は、Google Workspace との連携という点で大きな可能性を感じています。
しかし、一部日本語に対応していない機能だったり、少し物足りないと感じる機能がありますので、今後のアップデートに期待しています!
Gemini for Google Workspace 利活用促進の旅は、まだ始まったばかりです。
今後も、Geminiやその他生成AIツールの利活用促進を通じて従業員の生産性向上や、価値創造へ貢献出来るような施策に取り組んでいきます!
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